第1章
2011 2014
収益基盤の多様化とグループ経営の推進
1

創業120年を迎えた
大林組の新たな将来像

「大林組基本理念」制定

当社は1892(明治25)年の創業以来、「技術」と「誠実さ」をDNAとし、顧客の信頼に応える高品質な建設サービスを提供し続けてきた。そして創業120年を迎えた2011(平成23)年1月、これらのDNAを継承するとともに、「地球に優しい」リーディングカンパニーをめざすため、「大林組基本理念」と「コーポレートメッセージ」を制定・公表した。

大林組基本理念は、「私たちのありたい姿」と「大林組が考えるCSR」および「5つの行動指針」「私たちは」からなっている。

<大林組基本理念>

私たちのありたい姿

「地球に優しい」リーディングカンパニー

  1. 優れた技術による誠実なものづくりを通じて、空間に新たな価値を創造します。
  2. 地球環境に配慮し、良き企業市民として社会の課題解決に取り組みます。
  3. 事業に関わるすべての人々を大切にします。

これらによって、大林組は、持続可能な社会の実現に貢献します。

大林組が考えるCSR

大林組は、事業活動を通じて、皆様に笑顔を届けること、そして社会の一員としてステークホルダーの期待や要請に応えていくことが、社会的責任を果たすこととなると考えています。「笑顔」を「EGAO」として次のとおり構成しました。

Engagement お客様に

私たちは、常に先進の技術開発に努め、お客様に満足される良質な建設物を提供するとともに、お客様の課題解決に応えるベストパートナーをめざします。

Global 地球・社会に

私たちは、持続可能な社会を実現するために、環境・社会の課題解決に取り組み、社会貢献活動に積極的に取り組みます。

Amenity and Associate 私たちに

私たちは、社員一人ひとりが、個性と能力を活かして、安全・安心に働くことのできる職場環境をつくります。また、ともに成長発展する大切なパートナーとして、協力会社との信頼関係の強化に努めます。

Openに

私たちは、経営の透明性を高めるとともに、ステークホルダーと広くコミュニケーションを行い、情報開示の拡充を進め、社会から信頼される企業であり続けます。

当社はこの基本理念を全社員が共感・共有する「幹」と位置づけ、社員一人ひとりが理念に込められた意味や思いを十分に理解して日々の業務を進めることで、持続可能な社会の実現に貢献し、企業価値の向上に努めていくものとした。

また、コーポレートメッセージは、社内公募で3,000点を超える作品をもとに、簡潔で心に残る言葉を選び、「地球に笑顔を」「時をつくる こころで創る」の2点とした。

2015年には、金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを策定したことを機に、「大林組基本理念」を改訂した。創業以来受け継がれてきた三箴(さんしん)の精神「良く、廉く、速い」を礎とし、その上に「企業理念」(私たちのありたい姿)および「企業行動規範」(「大林組が考えるCSR」と「5つの行動指針」を再構成)を置く構成とした(詳しくはこちら)

大林組基本理念概念図
大林組基本理念概念図

東京スカイツリー®の竣工

2012(平成24)年の2月、東京スカイツリー®が竣工した。2008年7月の着工から3年8カ月の歳月をかけて建設され、自立式電波塔としては世界一の634mの高さとなった。ナックル・ウォールの採用やハイブリッド地下工法リフトアップ工法スリップフォーム工法など当社の建設技術の集大成ともいえる。竣工の前年には東日本大震災(「平成23年東北地方太平洋沖地震」)に見舞われたが、特に影響もなく予定どおり完成したことで、社会的に大きな注目を集め、東京の新たなシンボルとなった。

「地球に優しい」大林組――地球・人・暮らしへの思い

「大林組基本理念」では、 “私たちのありたい姿”として“「地球に優しい」リーディングカンパニー”を掲げた。地球と地球上すべての人々へ安全・安心や快適さを提供することを「優しい」という言葉で表現するとともに、人と環境に深くかかわる私たちの事業において、持続可能な社会づくりに貢献する「リーディングカンパニー」をめざす決意を示している。

そして、その実現に向けて3つの誓いを掲げた。それぞれに込められた具体的な趣旨および当社の思いは、次のとおりであった。

1 優れた技術による誠実なものづくりを通じて、空間に新たな価値を創造します。

社会課題を解決し、次代を切り拓く核となるのは優れた技術力である。当社はこれからも技術の継承と先進技術の開発に力を注ぎ、顧客中心主義を貫くことで、多様なニーズに対して最適な解答を導き出していく。また、当社は創業以来、真摯に誠実に施工することで社会から高い信頼を得てきた。このことが当社の原点、ブランドであり、脈々と受け継がれてきたDNAである。当社の仕事は、新たな建築物・構造物を造るとともに、それらを活用するソフトを開発することによって“空間に新たな価値を創造する”ことであり、これこそが存在意義である。

2 地球環境に配慮し、良き企業市民として社会の課題解決に取り組みます。

建設業は社会と密接にかかわる基幹産業である。すべての事業活動において、顧客をはじめパートナーと連携しながら環境保全を推進し、持続可能な姿で地球環境を次世代に引き継ぐ責務がある。健全で透明な企業経営に努め、高い倫理観を持って良識ある行動を実践し、広く社会から信頼される企業として、地域・社会との調和と建設文化の発展をめざすとともに、社会の課題解決に取り組んでいく。

3 事業に関わるすべての人々を大切にします。

社員をはじめ顧客、協力会社など、事業活動にかかわるすべての人を大切にすることによって企業活動を活性化させていく。また多様な人材活用に努め、社員一人ひとりが個性と能力を最大限に発揮し、誇りを持って働ける職場環境づくりを進める。

これらの一つひとつに真摯に取り組むことで、持続可能な社会を実現し、価値創造企業として社会に貢献し続けることをめざしたのである。

「Obayashi Green Vision2050」の策定とZEBの実現へ

当社はCO2排出量の削減や建設廃棄物のリサイクルなど、環境負荷低減に継続的に取り組んできた。しかし「基本理念」に掲げた「持続可能な社会の実現に貢献」という目標を達成するには、こうした活動をさらに進化させて体系的に取り組む必要があった。そこで2011(平成23)年2月に事業活動を通じて地球環境の課題解決に取り組むための中長期環境ビジョン「Obayashi Green Vision 2050」を策定した。このビジョンでは以下のように「2050年のあるべき社会像」を想定し、バックキャスティングの手法によって、取り組むべきアクションプランおよびCO2排出量削減の数値目標を定めた

2050年のあるべき社会像

  • 気候変動に影響を及ぼさない水準で、温室効果ガス濃度を安定させる「低炭素社会」
  • 新たに採取する資源を最小限とし、究極の循環システムを構築する「循環社会」
  • 生物多様性が適切に保たれ、自然の恵みを将来にわたって享受できる「自然共生社会」

しかし「Obayashi Green Vision 2050」の発表直後、東日本大震災が発生したことにより、日本の社会環境は大きく変化した。この状況を踏まえて2012年4月に環境部を新設し、CSR室が行っていた環境関連業務を移管して環境問題の解決に向けた取り組みを強化するとともに、同ビジョンを着実に実行するため社外の有識者を交えて検討を重ね、2015年に「環境未来構想」と題した提言をまとめた。また、CO2排出量の削減目標も改訂した

環境未来構想(趣旨)

(1)3+1社会

「低炭素社会」、「循環社会」、「自然共生社会」という3つの社会に、東日本大震災であらためてクローズアップされた「安全・安心な社会」を加え、3+1社会からなる「2050年のあるべき社会像」をめざす。

(2)統合的アプローチ

「低炭素」、「循環」、「自然共生」、「安全・安心」をそれぞれ個別の課題と考えるのではなく、相乗効果が発揮されるよう、統合・連携して課題解決に当たる。また、建設の施工段階だけではなく、計画策定などの川上から施工後のライフサイクルに関わる管理・運営といった川下段階までを見据え、建設物のライフサイクル全体の関与をめざす。

(3)連携の推進

実現に向けた取り組みは、他企業や行政、研究機関との協働も視野に入れながら進める。

当社が推進したアクションプランのうち、省エネルギー設計による低炭素化を実現したのがZEB(Net Zero Energy Building)である。ZEBは多種多様な省エネルギーの要素技術を導入することで、建築物の年間のエネルギー収支をゼロにする。2010年に竣工した大林組技術研究所本館「テクノステーション」において、2014年度の運用でソースZEB(一次エネルギー基準のZEB)を達成し、CO2排出量削減に貢献している。

(参照:スペシャルコンテンツ>技術研究所)

2050年のあるべき社会像
Obayashi Green Vision(2011)
2050年のあるべき社会像
Obayashi Green Vision(2015)

大林組のCSR

当社は、事業活動を通じて笑顔を届けること、そして社会の一員としてステークホルダーの期待や要請に応えていくことが、社会的責任を果たすことになると考え、「笑顔(EGAO)」をキーワードにCSRを構成した(詳しくはこちら)

当社はこの方針に基づき各種CSR政策を進めた。2011(平成23)年6月には「大林組グループCSR調達ガイドライン」と「大林組人権方針」を制定・発表した。このうちCSR調達ガイドラインは、サプライチェーン全体(専門工事会社、資材納入会社、人材派遣会社など全調達先)のCSRを進化させ、共に発展していくことを目的に制定された。取り組むべき項目として「法令の遵守」「企業倫理の確立」「人権の尊重」「安全衛生の確保」「環境への配慮」「品質の確保」「災害時リスク管理体制の構築」「情報セキュリティの確保」「社会貢献」の9つを示した。

一方、人権問題については、当社はこれまで同和問題やハラスメントなどを中心に取り組んできた。しかし2010年にISO26000(社会的責任に関する国際規格)が発行されたこともあり、海外で事業を展開する当社にとって、日本ではあまり身近でない強制労働や児童労働などの問題にも幅広く注意を払う必要があることから、「大林組人権方針」として明文化した。

さらに2011年7月には「大林組社会貢献基本方針」を制定した。「基本理念」において明記された「持続可能な社会を実現するために、環境・社会の課題解決に取り組み、社会貢献活動に積極的に取り組んでいく」という趣旨に基づいて当社の取り組み姿勢を整理し、社内外に明確に示すことが目的であった。その中で、特に重点分野として「地球環境への配慮」「防災と災害時の復旧・復興」「地域社会との共生」「次世代の育成」について、グループ会社全体でそれぞれの経営資源を活かして推進していくこととしたのである。

また2013年8月には「国連グローバル・コンパクト」に参加し、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野・10原則を支持することで、グローバル企業として責任ある経営を推進し、持続可能な社会づくりに貢献することを宣言した。

2014年10月には「地球環境」「被災地支援」「社会貢献(地域社会・次世代育成)」分野で活動する団体から寄付先を選定し、役職員による寄付金にあわせて会社も寄付金を拠出(マッチング)する「マッチングギフトプログラム」を導入し、社会貢献の拡充を図った。

東日本大震災の発生と復興への貢献

2011(平成23)年3月11日、東日本大震災が発生した。震源は宮城県沖の太平洋海底で、地震の規模は気象庁観測史上最大のマグニチュード9.0を記録した。多数の家屋や施設、鉄道・道路などのインフラが地震による被害を受けたことに加え、同時に発生した津波が東北から関東地方の太平洋側沿岸部の広い範囲を襲い、甚大な被害をもたらした。

当社は日本を代表する建設会社として、震災直後から緊急対応を開始した。建設会社の強みである人員や物資、輸送手段などの調達力を活用し、生産施設や公共インフラの早期復旧に努めた。支援要員を派遣して現地調査を実施し、被災企業や自治体などのニーズに寄り添った復旧作業に尽力した。また被災者の生活を可能な限りサポートした。仮設トイレや燃料などの不足物資を全国から調達し、避難所などに届けるともに、仮設の医療施設を建設し応急医療の拠点を提供した。また緊急対応に続いて、震災で発生した膨大な災害廃棄物(がれき)の処理や除染・減容化事業、復興工事にも取り組んだ。

福島第一原子力発電所から20km圏内の警戒区域および計画的避難区域12市町村において、日本原子力研究開発機構が内閣府から委託を受けて実施した除染実証事業のうち、大林組JVは福島県大熊町、楢葉町、川内村、広野町の4町村を担当した。さらに、復旧・復興工事では宮城県亘理地区がれき処理工事(JV)、福島市渡利地区の放射線除染業務(JV)、伊達市保原町富成地区除染業務などを受注した。

また、被災した市町村と独立行政法人都市再生機構(UR)が「パートナーシップ協定」を締結し、URが被災地のまちづくりを一体的に行う復興事業が各地で進められたが、大林組JVは2013年4月に、岩手県の沿岸中部に位置し、津波によって市街地が壊滅的な被害に遭った山田町の復興まちづくり事業コンストラクション・マネジメント(CM)方式で受託。防災集団移転促進事業や土地区画整理事業、津波復興拠点整備事業に基づいたまちづくりに関する調査や測量、設計、施工の一体的なマネジメント業務を通じて、同地域の早期復興に貢献した。

(参照:スペシャルコンテンツ>6つのストーリー>東日本大震災)

なお、原子力関連業務の品質管理は、全店品質管理システム(QMS)に則って、原子力本部統括部長を主体として行っていたが、東日本大震災発生後には、国内外の規制機関および電力会社などからより高いレベルの品質管理が求められるようになり、2012年4月に品質保証を担当する専門部署として、原子力本部に「品質保証部」を設置した。

災害廃棄物処理業務 亘理名取ブロック(亘理処理区)
災害廃棄物処理業務 亘理名取ブロック(亘理処理区)
災害廃棄物処理業務 亘理名取ブロック(亘理処理区)

「かえるかわうち」――福島復興への取り組み

東日本大震災が引き起こした津波は、東京電力福島第一原子力発電所で放射能漏れ事故を発生させ、多くの原発周辺地域の住民が避難を余儀なくされた。被災後10年を経たいまもなお帰還困難区域は存在する。

深刻な被害を受けた地元・福島では、災害廃棄物(がれき)処理に続いて実施された「除染」が、その後の復興に道筋をつける第一歩となった。2012(平成24)年に国の除染ロードマップが発表され、「除染特別地域」内の各村で実施計画が策定されて除染が始まる。当社は、事故の起きた原子力発電所のある双葉町から村一つ隔てた川内村の除染を担当することになった。川内村は、阿武隈高原の森に育まれた豊かで美しい水資源を誇り、平伏沼(へぶすぬま)モリアオガエル繁殖地は国の天然記念物に指定されている。森と川を豊かに保ち、モリアオガエルを大切にしてきた川内村の人々は、「かえるかわうち」をスローガンに、心を一つに全村避難からの帰還をめざした。

大林組の現場担当者は、担当地域が決まるとすぐに村役場に向かい、「かえるかわうち」のフレーズを事務所名に使わせてほしいと申し出た。除染という作業の先に「川内村住民が一日も早く帰村できる」環境の復旧があるということを心に刻むためだった。

除染作業は、場所や対象物によって方法が異なるものだ。住居の屋根や壁は湿らせた紙布で拭き取る。雨どいは落ち葉などの堆積物を除去して洗浄。芝は張り替え、砂利や土壌は敷き直す。高圧洗浄するのは、道路をはじめとする舗装面やガードレール。どれもが人の手で一つひとつ行う地道な作業だが、「当たり前の日常」を取り戻し、「かえるかわうち」を可能にするために必要な仕事だった。

2014年3月に「面的除染」が完了、同年10月、2016年6月と段階的に避難指示が解除され、少しずつ日常が戻り始めた。川内村はいま、「復興」から「新たな村づくり」への道を歩んでいる。

川内村の風景
川内村の風景
除染作業
除染作業