第1章
2011 2014
収益基盤の多様化とグループ経営の推進
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収益力の強化〔2〕土木事業

効率化、「見える化」の推進

土木本部でも建築本部と同様に、施工現場における生産性向上運動に取り組んだ。現場の生産性5%アップを目標にアクションプランを定め、現場業務の見直し、常設部門の現場支援強化、現場要員の配属計画の見直し、現場技術の伝承に注力した。このうち現場業務の見直しについては、スマートフォンによる車両運行管理システムの導入、電子日報システムを利用した労災保険データ(賃金台帳)の作成、業務改善事例のイントラネットによる共有化など、ICTを活用して生産性向上を図った。

建築本部で進めているBIMの展開に続き、土木本部においてもCIM(Construction Information Modeling) を導入した。CIMは土木工事の構造物をコンピューターの画面上に3次元でモデル化するもので、施工プロセスの可視化を図ることで完成後のイメージがしやすいことから、協力会社との情報共有に効果的で、設計変更の協議も円滑になる。施工中の手戻りが減ることで工期の短縮にもつながった。

また、先行して導入されたBIMのノウハウを融合させることで、より効率的にCIMへの取り組みを推進することを目的に、2013(平成25)年10月に建築本部BIM推進室を改組した「PDセンター」にCIM推進課を設置した。

災害復興工事の遂行

東日本大震災発生直後、当社は300件を超える応急復旧工事に対応し、震災で発生したがれき処理や除染業務にも携わった。その後、復旧工事に引き続き、災害復興住宅の建設やインフラの整備、住民の高台移転のための造成工事など、復興に向かって行われているさまざまな「まちづくり」に、地域の人々とともに力を注いだ。

津波による壊滅的な被害に遭った岩手県山田町では、町内7地区で復興まちづくりが進んでおり、大林組JVは、そのうち山田地区と織笠地区の2地区の事業を2013(平成25)年4月に受注し、コンストラクション・マネジメント(CM) 方式 で取り組んだ。また、山田町から20kmほど南に位置する釜石市片岸・鵜住居地区の震災復興事業でも、同様にCM方式にて取り組んだ。

宮城県では、水産加工場が集積する気仙沼市赤岩港で、市の発注により津波で甚大な被害を受けた水産加工団地造成工事を実施した。

宮城県水産加工団地造成工事
宮城県水産加工団地造成工事
宮城県水産加工団地造成工事(20ha)では、斜面などを切り取った土砂(切土)101万m³のうち43万m³を盛土材として再利用するとともに建設機械のICT化による二酸化炭素の発生抑制などにも取り組み、2017(平成29)年度リデュース・リユース・リサイクル(3R)推進功労者等表彰で国土交通大臣賞を受賞した。

仙台市では、八木山地区造成宅地の滑動崩落緊急対策工事や、泉中央南復興公営住宅公募買取事業では、住宅を失った被災者のための恒久的住宅を建設した。さらに同県の皿貝川では、地震で沈下し津波により決壊が生じた堤防を、両岸延べ10kmにわたりかさ上げ、拡幅したほか、津波被害を受けたJR常盤線の復旧工事も行った。

(参照:スペシャルコンテンツ>6つのストーリー>東日本大震災)

また、「中期経営計画 ’12」の分野別施策では、防災、減災を含む安全・安心のための社会インフラ整備への取り組みとして、「三陸沿岸道路緊急整備に代表される防災・減災計画に対する営業体制の強化」と「放射能除染、放射性廃棄物中間貯蔵・処理・処分に対する営業体制の強化」を進めた。

東日本大震災以外の災害復興工事では、2011年夏の台風による紀伊半島の豪雨被害があった。記録的な大雨で山が崩れ、その土砂が道や川をふさぎ、交通網が寸断され、せき止め湖が形成されて多くの集落がその決壊による二次災害の危険にさらされた。当社は和歌山県日置川流域の熊野(いや)地区において、せき止め湖の決壊を防ぐべく緊急対策工事に尽力した。

海外では、タイで歴史的な大洪水が発生し、当社の顧客である日系企業の生産施設の多くが浸水被害を受け長期間にわたり操業停止となった。大林グループはタイ大林を中心に、日本やシンガポールの拠点と連携して早期復旧に取り組んだ。

防災・減災への貢献

当社は社会資本の整備に携わる建設会社として、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定し、災害発生時に自ら被災した場合であっても、復旧などに即応する体制を整えている。2011(平成23)年には震災時におけるBCPの改訂を行い、「インフラ復旧工事への迅速な対応」「お客様の保有物件への迅速な復旧支援」「地域社会の復旧・復興支援」などを重要業務として定め、業務再開のための目標復旧時間を設定した。また、定期的に訓練を行ってBCPの点検を行い、継続的に見直し・改善に努めている。

一方、橋梁やダムなどのインフラや顧客の施設が自然災害等で被害を受けると、大きな社会的・経済的損失が発生する。当社は「地震や豪雨などのさまざまな災害リスクに備える」というニーズに応えるとともに、万一顧客が被災した場合には、事業活動を早期に再開できるよう支援する体制を構築した。顧客のBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)達成度の診断から、具体的な災害リスク軽減対策の提案まで、一貫したサービスを提供することにより、被害発生時の復旧にかかる時間と費用を予測し、さまざまな条件に合った最適なリスク軽減対策を提案できるようになった。

また、全国各地において防災・減災に向けた取り組みが活発化しており、当社が従来から保有、または新たに開発した安全・安心のための技術を用いて、さまざまな対策工事を行っている。

2011年には、地震時の液状化による道路の変状を抑制し、被災後でも緊急車両等の通行を可能にする「タフロード工法」を開発した。

2014年11月には、安威川ダム工事に着工した。淀川水系の一級河川安威川は、延長32kmの大阪・北摂地域最大の川で、昔からこの流域は地形的に水に弱く、1967(昭和42)年の北摂豪雨では、多くの家屋が浸水し田畑にも冠水するなど甚大な被害を引き起こした。これを契機に、安威川流域の抜本的な治水対策が大阪府により立案され、2021(令和3)年の完成をめざして建設が進んでいる。

安全・安心の提供(公共インフラの更新)

日本では、高度成長期に高速道路や鉄道、橋梁などが集中して多数建設されたが、いずれも完成から約50年を経て、更新のタイミングを迎えていた。これらの公共インフラは放置しておくと、以後はどんどん老朽化が進み、維持管理・更新の重要性が増していく。国土交通省の「国土の長期展望」中間とりまとめによれば、耐用年数を迎えた構造物を同一機能で更新すると仮定した場合、国土基盤ストックの維持管理・更新費は急増し、2030年ごろには現在の約2倍になると予測されていた。

こうした人々の生活に欠かせない公共インフラの機能を止めることなく、供用しながらインフラを更新するには、高い技術力が必要となる。当社は、得意とするトンネル、プレストレストコンクリート橋、鉄道、LNGタンクに加え、インフラの更新など高い技術力を要する分野の工事に取り組んでいる。

2013(平成25)年には北海道・旭川の北東に位置する当麻(とうま)町の農業を半世紀にわたって支えてきた当麻ダムの改修工事を開始。洪水吐き(こうずいばき) の付け替えなどの大規模工事を実施した(2017年完成)。

当麻ダム(完成実績、工事中)
当麻ダム
貯水池(手前)からあふれた水が下流(奥)へスムーズに流れるよう水路の壁は緩やかな曲線を描いている

省エネ・省力化の推進

土木工事分野においても、省エネルギー・省力化のニーズが高まっていた。当社は2013(平成25)年、三菱重工メカトロシステムズ株式会社(現在の三菱重工機械システム株式会社)と共同で、地下を大断面シールド機で掘削するトンネル建設において、高速施工と電力低減を両立する世界初の「省エネシールド工法」を開発した。

都市部では、高速道路や鉄道のシールドトンネル工事で、シールド機の10m以上の大口径化や、高速掘進へのニーズが高まっていた。また、電力不足を背景として、シールド工法の省エネルギー化も望まれていた。

新規開発した省エネシールド工法は、シールド機前面のカッターヘッドの内周部と外周部を別々に回転させる二重カッター方式とし、掘削土の流動性を高める機能も追加した。カッターヘッド全体が単一回転する従来工法に比べて、掘進速度が約25%向上し、電力消費量を約30%抑える高効率な掘削方法を実現。2017年に完成したウォータービューコネクショントンネル(ニュージーランド)の建設などに活かされた。