第1章
2011 2014
収益基盤の多様化とグループ経営の推進
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収益力の強化〔3〕開発事業

大林新星和不動産の発足と賃貸事業の拡充

不動産賃貸事業は、不動産市況により賃料水準や空室率などで多少上下するものの、開発事業の中でも比較的安定した収益のベースと位置づけられていた。2011(平成23)年6月、当社は不動産事業拡充のため、新星和不動産株式会社の株式を取得し同社を完全子会社化した。当社・大林不動産・新星和不動産が三位一体となって、土地およびテナントに関する情報を共有・連携し、各社の持つノウハウを最大限に発揮することで、既存賃貸ビル物件のリニューアルやバリューアップ、建て替え、新規投資を積極的に推進し、グループ全体の不動産収益の拡大をめざした。

東日本大震災をきっかけにテナントの防災意識、省エネルギーやBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)への関心が高まった。当社はこれまで培ってきた耐震・省エネ・環境などの分野における最先端の建設技術と不動産事業を融合させることにより、高機能なオフィスを提供し、こうした高度なテナントニーズに的確に応えていった。

その一つの代表例が、2013年4月に開業した「oak omotesando(オーク表参道)」である。それまで「ハナエ・モリビル」の愛称で親しまれてきた旧青山大林ビルの建て替えプロジェクトで、当社は計画・設計段階から完成まで、BIMによる一貫した施工管理を行った。また、低炭素型コンクリート「クリーンクリート」、超高強度繊維補強コンクリート 「スリムクリート」や、フラマスダンパーシステム、省エネ型システム天井「O-GRID」、室内外の熱環境を改善する保水冷却ルーバーなどを採用し、生物多様性を育む屋上緑化(JHEP認証を取得)など、最先端の環境・建設技術を注ぎ、災害に強く環境に優しい、安全・安心なオフィス環境と上質な商業空間を創出した高品質のビルに生まれ変わった。

同ビルは表参道に面するという立地条件の良さから、収益性向上に貢献するだけでなく、将来にわたって安定的な不動産収益事業をめざした建て替えの実績であり、商業系テナントのリーシング手法、仲介業者とのネットワーク構築など、建て替えプロジェクトで得られた多くの経験やノウハウが、その後の開発・賃貸事業に活かされた。

2014年10月には、機動的な事業展開を図るため、大林不動産と新星和不動産の2社を合併し、新たに「大林新星和不動産株式会社」としてスタートした。

両社がこれまでに培ってきたそれぞれの強みを一つに集約し、大林グループとしてのノウハウとブランド力を最大限に発揮するとともに、事業効率性を高めることで一層の収益の拡大を推進し、不動産会社としての総合力向上を図った。

oak omotesando
oak omotesando

再開発事業――環境に配慮した安全・安心なまちづくり

開発事業では建築部門と連携しながら、数々の大型開発プロジェクトへの参画を通じて、都市の国際競争力の強化や地域の活性化に寄与すると同時に、土地の高度利用や街区の一体型開発を活用した「都市の防災性能の向上」や「大規模災害に備えた都市基盤整備」など、環境にも配慮しながら安全・安心な魅力あるまちづくりに貢献している。

2013(平成25)年4月には、JR大阪駅北側に広がる民間都市再生事業うめきた先行開発区域プロジェクト「グランフロント大阪」がまちびらき(開業)した。

この施設には、国土交通省の「住宅・建築物省CO2 先導モデル事業」として、複数の街区一体に水と緑のネットワークが整備され、自然換気システム、太陽光発電など、環境に配慮した最先端の技術が導入されている。

当社は、このプロジェクトに開発事業者、設計者、施工者それぞれの立場の一員として参画した。「賑わいと活気あふれるまち」の実現に向けて、順調なスタートを切ったグランフロント大阪は、多くの人々が集う関西の新たな人気スポットとなっている。

グランフロント大阪
グランフロント大阪

スマートシティの「見える化」――SCIMの構築

2012(平成24)年、スマートシティを発展させていくためのプラットフォームとして、BIM(Building Information Modeling)を発展させ、まち全体を3次元化する独自技術「SCIM(エスシム)」(Smart City Information Modeling)を構築した。BIMの3次元情報を駆使することで、まち全体をコンピューター上で詳細に再現することができるものだ。

2018年3月26日には、横浜市のスマートシティ「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」(綱島SST)がまちびらきの日を迎えた。周辺地域や産・官・学が連携し、「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals) の達成とイノベーションの共創に取り組む、新たな拠点である。

SCIMでは、綱島SSTのあらゆる面を「見える化」した。

まちのあらゆる面を見える化

綱島SSTでは、まちに設置した複数の環境センサーやカメラのデータから、共用通路の通行量、熱中症危険度などはもとより、通行している人の性別や年代、周辺道路の混雑状況などの「いま」「ここ」の情報をリアルタイムに提供している。

2020(令和2)年にはスマートフォン対応サイトも開設。あわせてプッシュ通知を追加することで、ユーザーは道路の混雑状況や熱中症の危険度などの情報をよりタイムリーに取得できるようになった。

行政、エネルギー事業者、発注者、設計会社、施工会社などの情報を一元化し、まちづくりの計画、建設から運営、更新までの各フェーズで、サステナブルなスマートシティづくりのためのさまざまなサービスを提供している。

綱島SSTのSCIMサイト
綱島SSTのSCIMサイト
綱島SSTのSCIMサイト