第3章
2017 2021
ESG経営と技術革新――持続可能な未来を拓く
3

ESG経営の推進

「中期経営計画 2017」の策定

「中期経営計画 2015」では、国内建設事業以外の事業分野でも安定的利益をあげられる事業構造確立を図るため、収益基盤の多様化を推進。この方針に従ってM&Aなどによる海外建設事業の拡大、賃貸不動産を中心とした開発事業や太陽光発電などの再生可能エネルギー事業、技術開発などに積極的な投資を行った。その結果、大林グループの業績は、国内建設市場の回復や建設現場の生産性向上を背景に上向き、財務体質の改善が進むなど、中期経営計画に掲げた目標を、最終年度を待たずにほぼ達成した。2016(平成28)年度の売上高は約1兆8,727億円(連結、以下同)で過去最高を更新し、4期連続で業界トップとなり、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益のいずれも過去最高を記録した。

一方、事業環境を見ると、日本経済は堅調に推移していたが、世界的には英国の欧州連合(EU)離脱や米国のトランプ新政権の動向、テロの常態化など先行き不透明感が高まっていた。また、さまざまな分野で従来以上のスピードで技術革新が求められるようになった。

こうした状況のなか、グループ総力を挙げて現在の好業績を維持・拡大し、事業環境の変化を成長の機会ととらえ、将来への布石を打っていくため、1年前倒しして新たに「中期経営計画 2017」を策定。企業理念の「持続可能な社会の実現」を見据えて、創業150周年(2042年)の「目指す将来像」を描き、ロードマップの最初の5年間に達成すべき業績と取り組む施策を定めた。

中期経営計画2017 目指す将来像
中期経営計画2017 目指す将来像

「目指す将来像」実現への第一歩として、「中期経営計画 2017」では「強固な経営基盤の構築」と「将来への布石」を基本方針として掲げた。

業績が好調な国内建設事業では、競争力の強化や高付加価値サービスの提供、生産性の向上により、売上高と利益のさらなる上積みをめざした。また海外建設事業では、ローカル化の推進などによる収益力向上や、オセアニアなどにおける事業拡大を進めた。さらに開発事業では、オフィス賃貸事業への積極的な投資継続による業容の拡大、新領域事業では、太陽光発電や風力・バイオマス発電など再生可能エネルギーの事業化の進展、PPPプロジェクトの取り組み強化による成長をめざした。

また、こうした事業の推進と事業領域拡大に向けた計画的・機動的な成長投資のほか、想定外の事業リスクに備えるため、自己資本の増強、有利子負債の削減と現預金の積み増しを進め、強固な経営基盤の構築に努めた。一方、将来への布石として、事業領域の深化・拡大およびグローバル化を実現するための技術の開発・獲得、人材の育成、新たなビジネスモデルの創出に加え、これらを支える戦略的な投資として、5年間で4,000億円の投資を計画した。

「目指す将来像」の実現に向けて
「目指す将来像」の実現に向けて

6つのマテリアリティ

ESGは投資判断の基準として企業の成長性を評価する際、業績などの財務情報を中心とした評価に加え、非財務的な側面(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)の取り組みを重視する考え方である。各企業は、ESGに関するさまざまな社会の課題の中から、自社の事業の強み・弱みなどに基づき優先的に取り組む課題を決め、事業活動を通じてその解決をめざす「ESG経営」の実施を求められている。当社は「中期経営計画 2017」の策定にあたり、経営基盤戦略としてESGへの取組方針を掲げた。

環境(E)

中長期環境ビジョン「Obayashi Green Vision 2050」に基づき、建設およびその周辺の事業活動において地球環境の課題解決への取り組みを推進

社会(S)

・良質な建設物を提供するため、品質マネジメントシステムの継続的な改善や建設現場でのICT活用と技術開発、人材育成を推進

・働く人の安全と健康を確保し、多様な人材が活躍できる快適な職場づくりの促進

・災害に対する備えと災害時の復旧・復興支援、地域社会との共生など、良き企業市民として社会の課題解決に向けた積極的な活動を推進

ガバナンス(G)

経営の透明性、健全性を高めるとともに企業倫理の徹底によるコーポレートガバナンスの充実、株主との建設的な対話の促進

6つのマテリアリティ
6つのマテリアリティ

この経営基盤戦略に基づき、多様な社会課題の中から6つのESG重要課題(マテリアリティ)を選定し、SDGsと関連づけて活動することで、当社の企業理念に掲げる「持続可能な社会の実現」と大林グループの「永続的な企業価値の向上」をめざすこととした。マテリアリティの選定に際しては、世の中のさまざまなESG課題を、その解決への取り組みによって期待されるプラス面(事業機会の創出)と、低減したいマイナス面(競争力の低下)の視点で検証し、大林グループにおける重要度を評価した。さらに、株主や顧客、調達先などのステークホルダーをはじめとして世の中に対する貢献や影響についても評価し、これらの結果を統合してマテリアリティを決定した。

アクションプラン・KPIの策定

当社はESG経営を着実に推進するために、大林グループへのインパクト評価をもとに、アクションプランとKPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicators)を策定した。

当社は「中期経営計画 2017」において、「目指す将来像」について「最高水準の技術力と生産性を備えたリーディングカンパニー」と「多様な収益源を創りながら進化する企業グループ」を掲げた。そして、その実現に向けた戦略を「既存4本柱の強化」「グローバル化」「事業領域の深化・拡大」と設定するとともに、ESG経営の推進にあたって6つのマテリアリティの解決に向けた具体的なアクションプランを立案した。ESG経営がめざすのは、企業の持続的な成長とその前提となる持続可能な社会の実現である。これらのアクションプランでは、PDCAサイクルを回すことによって、KPIの目標達成をめざすとともに、年に一度レビューして達成度の確認・見直しを行っている。

アクションプランとKPI
アクションプランとKPI

中長期環境ビジョンの改訂――「Green」 から 「Sustainability」へ

当社は、2011(平成23)年に中長期環境ビジョン「Obayashi Green Vision 2050」を策定し、環境に配慮した社会づくりを目標に環境問題の解決に取り組んできた。2019(令和元)年6月、このビジョンを発展させ、社会情勢や事業環境の変化、経営基盤としてのESGの重要性や社会課題であるSDGs達成への貢献などの要素を反映した、長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」に改訂した。

この長期ビジョンでは、2050年の「あるべき姿」を「地球・社会・人」のサステナビリティを実現した状態と定義し、バックキャスティングの手法により大林グループがめざすべき事業展開の方向性を定めた。将来にわたり事業活動を継続していくためには「地球・社会・人」の三つの調和による持続可能な社会の実現が必要不可欠と考え、大林グループのサステナビリティと同時に追求していくとした。そのためには、大林グループ全体でCO2排出ゼロを実現する「脱炭素」、すべての人が幸福な社会を実現する「価値ある空間・サービスの提供」、事業にかかわる人々と実現する「サステナブル・サプライチェーンの共創」の三つを2040~2050年の目標として定めた。

このうち特に「脱炭素」は地球規模の不可避な課題となっており、政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言、同年12月には「グリーン成長戦略」を策定したうえで、2021年4月には「2030年CO2削減目標を2013年度比46%削減とすること」を表明した。当社は、企業理念に掲げる「地球に優しい」リーディングカンパニーとして、CO2削減に向けた取り組みを進めた。具体的には、ZEB(ゼロエネルギービル)やJ-クレジットを国内初取得した低炭素型コンクリートである「クリーンクリート」などの技術開発に取り組みとともに、再生可能エネルギー事業にも注力し、将来動向を見定めて柔軟な事業展開を図った。

また、大林グループとサプライチェーン全体で目標達成に向けた取り組みを着実に進めることで、「地球・社会・人」のサステナビリティヘの貢献をめざした。さらに「あるべき姿」の実現に備え、めざすべき事業展開の方向性を「インフラ・まちづくりのライフサイクルマネジメント」「はたらく人と住まう人に優しい事業・サービス」「未来社会に貢献する技術・事業イノベーション」の三つの領域に定め、これらの領域に向けて既存事業および新規事業を推進した。

当社はESG経営を中核に据えた次期中期経営計画で、Obayashi Sustainability Vision 2050に基づく課題を最重要テーマとして取り組む方針であるが、なかでも社会からの関心が高いダイバーシティ&インクルージョンについて早急に戦略を立てるため、2021年4月、グローバル経営戦略室配下に「ダイバーシティ&インクルージョン推進部」を新設した。

Obayashi Sustainability Vision 2050
Obayashi Sustainability Vision 2050

環境技術と安全・品質向上への取り組み

2008(平成20)年にスタートした技術本部環境技術研究部は、その研究対象が、土壌・資源循環、バイオ、耐風、音響、気流および防火までの幅広い領域にわたっていたが、2017年4月に研究内容に応じて「自然環境技術研究部」(自然環境、土壌・資源循環およびバイオ技術活用に関する研究)、「都市環境技術研究部」(都市環境・耐風安全、音響・電磁環境、気流・屋内環境および火災・安全安心に関する研究)の2部に再編し、研究体制の一層の強化および部門の運営管理の効率化を図った。

また、安全・環境に関する全社管理業務は安全環境企画部、品質に関する全社管理業務は土木・建築本部がそれぞれ担当していたが、近年の災害や事故の頻発、他業種における品質不正事案の多発などを鑑み、安全・品質・環境に関する管理・指導体制を専門本部として一元化し、管理基準等の策定から現場へのきめ細かい指導までを一気通貫の体制として強化することとし、2019年3月に安全・品質・環境の全社管理業務を行う安全品質管理本部を新設した。

2019(令和元)年度には、品質に対する意識の高揚と品質管理活動のさらなる促進を図ることを目的に品質週間(11月1日~15日)を制定、翌2020年には、環境に対する意識の高揚と環境保全活動の一層の推進を図ることを目的に環境週間(6月1日~7日)を制定した。2019年6月には東日本ロボティクスセンターに「ものづくり研修施設Ⅰ期棟(躯体、内装、設備)」が完成し、7月に建築・設備の研修がスタート。続いて2020年2月には同センターに「ものづくり研修施設Ⅱ期棟(外装・防水)」が完成し、10月に研修がスタート。グループ会社、出向・派遣社員とともに、品質向上に向けた研修を行っている。

ものづくり研修施設
ものづくり研修施設

SDGsへの貢献

世界中のあらゆる地域で地球温暖化に起因する大災害が頻繁に起きるようになってしまったこの時代、世界の全企業が持続可能性を前提として企業活動を考え、実践しなければ、企業どころか社会の存続すら危うい。

なかでも建設業界は、インフラ、まち、住宅やオフィスなど、人間の生活、経済活動のすべてにかかわる業界であり、事業そのものがSDGsで掲げる目標に直結するため、その責任も大きいといえる。その一方で、SDGsの17の目標は、一つの事業の中にいくつもの目標が関連づけられるため、建設業界は貢献できる分野が多いともいえるだろう。

例えば、いま取り組んでいる風力発電事業では、「目標7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「13 気候変動に具体的な対策を」とともに、「12 つくる責任つかう責任」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」を充たすこともできる。さらに木造建築の推進では、これらに「11 住み続けられるまちづくりを」「15 陸の豊かさも守ろう」も加わってくる。

事業の一つひとつがSDGs達成への具体的な道筋となるのである。