4. 未知の高さに吊り上げる
a) 特別仕様タワークレーン
タワー塔体の鉄骨組立に絶対欠かせないのがタワークレーン。機械技術の進歩からコンパクトでパワフルなクレーンが生まれ、それをベースにカスタマイズすることで、作業に一番適したクレーンをオーダーメイドして効率を高めます。タワークレーンはまさにタワー建設の命です。
2 どれだけの吊能力のクレーンを、何基、どのように置くのかが決め手
自分で組み上げた塔体と一緒によじ登るフロアークライミングで、常に最上部に位置するタワークレーン。クレーンはまっすぐにしか登ることができないので、高くなるにしたがって細くなるタワー塔体では、中心部を貫き直径が最後まで変わらないエレベーターシャフトのすぐ外側にしか、クレーンを配置することができません。
① 吊能力
1回に30t以上を吊り上げる能力 ▷▷▷ 720tm(※1)級以上のクレーン
断面が大きく重量の大きい塔体鉄骨は、道路運搬の規制上から1ピース30t程度で搬入されるため、これをそのまま吊り上げる能力が必要です。
※1 ジブの作業半径×荷重。32tを吊る場合は22.5mの作業半径となります。
② 何基
できるだけ多く ▷▷▷ 3基
高さが高くなると揚重に時間がかかります(吊荷30tの場合の巻き上げ速度は約30m/minで、300m以上吊り上げるには、10分以上の時間が必要)。揚重回数がそのまま塔体組立ての効率となるため、最低でも3基の設置が必要です。
③ どのように
クレーンが旋回できる間隔をあける ▷▷▷ コンパクトな新型クレーン(JCC-V720)
3基設置する場合、クレーン同士の間隔を、旋回芯間隔で最大でも約20mしかとれません。旧来型のクレーンでは、後部旋回半径が12m弱あり、20mの間隔では、クレーンが回転したときに後部同士が衝突してしまいます。一方、新型クレーン(JCC-V720)は、後部旋回半径が8.1mなので、クレーンとクレーンの間にクリアランスがあり、3基設置が可能です。
3 今までのタワークレーンでは作業ヤードに届かない
第1展望台(375m)まで ▷▷▷ 高揚程にチューンアップ
これまで日本には300mを超えるビルは存在しなかったため、現行の仕様の機種では、300m分を吊り上げるワイヤーしか装備していませんでした。
★第1展望台まで・・・
- 3基のクレーンで荷揚げと組み立て
- フロアークライミング方式
- 作業ヤードは地上
第1展望台から上部(375m以上) ▷▷▷ クレーン中継作戦
①1台のクレーンで長い距離を吊り上げるのは、時間がかかり非効率
②第1展望台より上部の塔体は、さらにすぼまり、クレーンを載せるスペースがない
★第1展望台から上部
- 荷上げ専用機と建て方専用機のペアで中継作戦
- すべてのクレーンを張り出した展望台の上に組み直す
- 建て方専用機はマストクライミング方式
- 作業ヤードは第1展望台屋上
第1展望台上ヤードにて
鉄骨を中継
4 未知の高さに備える安全対策
暴風や地震など、未知の環境でのタワークレーンの安全対策を検討し、11項目の特別仕様を搭載しています。
地震・暴風への対応 ▷▷▷ マストの強度を25%アップ
労働安全衛生法に基づくクレーン構造規格により、クレーンの暴風や地震に対する強度が定められています。しかし、最上部に搭載するクレーンは、法で定められた以上の力がかかることが考えられます。そこで地震応答解析と風洞実験により検証を行いました。
地震応答解析(シミュレーション)
タワー塔体とクレーンをモデル化した連成解析モデルに地震動波形を入力して検討
風洞実験
タワークレーンのさまざまな姿勢にさまざまな風向きを組み合わせて、クレーンに作用する力を把握しました。
結果、マストの強度を25%アップすることにしました。
その他安全対策
上記のほかにも、落雷時の精密機器のバックアップシステム、巻上ワイヤー電磁ブレーキ故障に対する二重バックアップブレーキシステムなどの安全対策を実施しています。