9. 心柱をつくる

スリップフォーム工法

1 スリップフォーム工法が「切り札」を支える

高さ375mの心柱

タワー中心部には、地震時に制振システムとして機能する心柱(しんばしら)が設置されます。直径8m、高さ375mの筒状のコンクリート構造物です。

スリップフォーム工法を採用

心柱の施工では、システマチックに短期間で構築できる「スリップフォーム工法」を採用しています。そのおかげで、タワー中心部のスペースでは、心柱の構築を後回しにして、先にゲイン塔をリフトアップ工法で組み立てられるようになりました。

リフトアップ工法を可能にした「陰の主役」

「ゲイン塔のリフトアップ工法」といえば、未知の高さの安全、品質、工程上の問題を抜本的に解決する切り札。それを可能にした「心柱のスリップフォーム工法」は、東京スカイツリー建設の陰の主役といえるでしょう。

心柱を設置するタワー中心部。内径約10mの空洞に直径8mの心柱を構築します。

2 厳しい施工条件をクリア

施工条件…工事期間はわずか半年余り

  • リフトアップ工法で引き上げるゲイン塔は、タワー中心部のスペースを利用して組み立てます。
  • そのため、タワー中心部に設置する心柱の構築は後回しにする必要があります。
  • しかし、リフトアップ後に心柱を構築するとなると、与えられる工事期間はわずか半年余りしか残されていません。
「スリップフォーム工法」でクリア

通常のつくり方では解決できない条件をクリアし、システマチックに心柱を構築する工法が「スリップフォーム工法」です。

型枠や作業床、荷揚げ設備、安全設備などを一体化した装置が連続的に上昇
  • 造るコンクリートの形に合わせて型枠(フォーム)を精度良く組み、コンクリートを打設します。
  • その後、型枠は解体せずにコンクリート表面を上方に滑らせ(スリップ)、コンクリートを連続して打設していきます。
  • 型枠、複数の作業床、荷揚げ設備、安全設備などを一体化し、スリップフォーム装置全体を連続的に上昇させながら効率良く施工できます。

3 従来工法との比較

通常は各工種を順に進めます

コンクリート構造物は、通常、足場→鉄筋→型枠→コンクリート打設という工種を順に進め、この一連の流れを繰り返しながら、徐々に高い構造物を構築していきます。複数の作業床で各工種を同時に進める「スリップフォーム工法」とは、ここが違います。

<従来工法の手順>
  1. 作業員が作業するための足場を組みます。
  2. コンクリート構造物を構成する鉄筋を組みます。
  3. コンクリートの型となる型枠を組み立てます(型枠の寸法精度を調整し、動かないよう固定)。
  4. 生コンクリートを型枠に流し込みます(徐々に固まって強度が確認できたら、型枠を取り外す)。
  • コンクリートを型枠に確実に充填するために、1回の打設で構築する高さは4m程度。
  • 型枠は運べる大きさに分割して取り外し、上に移動したらまた組み立てて使用。

4 システマチックなスリップフォーム工法

スリップフォーム装置には、荷取り、鉄筋組み立て、コンクリート打設、打設後の仕上げなど、工種ごとに作業床があります。それぞれの作業が、型枠も一体となった装置全体で同時に行われているのです。システマチックで効率が良く、品質や安全面でも効果を発揮します。

各工種を同時に進めます

指令制御室で集中管理

さまざまな項目をチェックしコントロール

コンクリートの強度や構築物の精度、各作業の状況などを計測機器やカメラ、無線などでチェックし、これらを総合的に判断しながら、スリップフォーム装置の動きをコントロールしています。

5 装置の重さはロッドで支え、ジャッキで上昇

型枠に作業床や安全設備などを一体化したスリップフォーム装置には、上昇用のジャッキが組み込まれています。コンクリートに打ち込んだロッドで装置の重さを支え、ジャッキによって装置全体が上がっていく仕組みです。スリップフォーム工法は、心柱のように高さがあり、円筒状の構造体を造るのに適しており、超高煙突などの建設で使われる工法です。

  • スリップフォーム装置全体は、コンクリートを打設しながら断続的に上昇します。
  • 型枠は一体化した装置とともに滑り上がっていきます。
  • 心柱は筒状なので、コンクリートはらせん状に高さ約20cmずつ打設していき、1日に約3mの高さを構築します。
  • 装置の重さを支えるロッドは、装置の上昇に合わせて、上に継ぎ足していきます。

6 コンクリートにもひと工夫

コンクリートに求められる2つの性能

心柱のコンクリートは設計基準強度が54N/㎟で、スリップフォーム工法では前例のない高強度コンクリートです。しかし、一般的に高強度コンクリートは固まり始めるまでに時間がかかるため、短期間で施工する「スリップフォーム工法」には適していません。「打設中は流動性が良く」「打設完了後は早期に強度が出る」という相反する2つの性能が求められるのです。

7 工事中の地震対策も万全

東京スカイツリーのスリップフォーム装置は、細くて高さのある心柱の最上部に載るため、一般的な建物をスリップフォーム工法で施工する場合に比べ、地震時にはより大きな水平力が働きます。装置の重さは、十分な強度のコンクリートに打ち込んだロッドで支えますが、ロッドだけでは水平方向の地震力に対抗できず、打設したばかりで固まり始めのコンクリートに悪影響を及ぼす懸念がありました。

そこで今回は、特別な地震対策を施すことにしました。下図のように、装置の「骨」である構造フレームを作業床の下に伸ばし、心柱の壁に突っ張って支えるようにしたのです。打設したコンクリートは徐々に強度が出てくるので、その部分であれば、地震時水平力に対抗するのに十分な強度となりスリップフォーム装置をしっかりと支えることが可能になります。

MOVIE

シャフトと心柱

スリップフォーム工法で心柱をつくる

リフトアップとスリップフォーム