第3章
2017 2021
ESG経営と技術革新――持続可能な未来を拓く
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事業領域の深化・拡大〔3〕開発事業

オフィス賃貸事業の拡充

2010年代半ばから三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の公示地価は毎年連続で上昇を続けた。国家戦略特区特定都市再生緊急整備地域などの制度を活用した都市基盤の再整備や開発事業が進んだ。企業収益も好調で、働き方改革等に対応したオフィス環境改善のための拡張・移転の動きも加わり、オフィスビル需要も堅調に推移した。不動産投資ニーズは旺盛で、金融政策を受けてさらに不動産投融資が活性化し、不動産価格は高止まりの状況が続いた。

当社では不動産賃貸事業への投資を引き続き推進し、東京都心部を中心に「オフィス賃貸事業の拡充」と「賃貸不動産ポートフォリオの多様化」を積極的に進めた。賃貸オフィスについては、競争力を将来にわたって維持できると見込まれるエリアでの収益物件への投資や、再開発事業・共同開発事業などの大規模開発案件への参画などにより、新規物件の取得を積極的に行った。また、大林グループ保有不動産の活用や土地区画整理事業への参画などを通して賃貸住宅、物流施設を開発するなど、オフィス以外の賃貸事業についても推進し、事業領域・バリエーションの拡大を図った。

こうしたなか、2018年3月、大林新星和不動産は、再開発が進む品川駅近くに位置し、安定した収益の確保を見込める港南二丁目の土地を、賃貸オフィスビルの開発を目的に取得した。同土地に建築中のビル(2022年7月の竣工予定)は、構造体を外壁とすることによる断熱性能の強化や凹凸のあるファサードによる日射の抑制により外皮熱負担を21%削減し、さらに高効率機器(パッケージエアコン、LED照明)と変風量制御の導入などにより、ビル全体におけるエネルギー消費量を58%削減した。2021年3月にBELS認証におけるZEB Readyを取得しており、オフィス賃貸事業の拡充と併せて、脱炭素社会実現(2050年カーボンニュートラル)に向けた取り組みも推進している。

港南2丁目計画(完成予想図)
港南2丁目計画(完成予想図)

一方、2020(令和2)年にはイギリスに大林プロパティーズUKを設立した。当社がロンドンシティに所有していた「Bracken House(ブラッケンハウス)」のほか、新たにロンドンシティ中心部に所在する「20 Gracechurch Street(20グレイスチャーチ ストリート)」の一部持分を英国系不動産投資企業AVIVA社(AVIVA Life & Pensions UK Limited)から取得したのち同社に移管し、イギリスにおける開発事業推進の体制を整備した。

2020年以降は、新型コロナウイルスの流行が拡大したことで、各企業が相次いでリモートワークを実施するなど事業環境は大きく変化し、都市部のオフィスビル需要も先の見通しにくい状況が続いている。

タイ大林の開発事業参入

タイ大林は、タイ国内で賃貸オフィスビルの開発事業に取り組んだ。タイの首都バンコックにおける賃貸オフィス空室率は、経済成長に伴うオフィス需要により低下傾向にあり、都心部の新規オフィスビルの供給予定も少ない状況だった。特に1フロア当たりの面積が広く、交通アクセスの良い大規模オフィスは需給の逼迫が見込まれていた。そこで、タイ大林が建設事業で培ってきた技術とノウハウを活用してハイグレードビルを建設し、賃貸事業を行うこととした。

バンコクの都心部、BTS(高架鉄道)のナナ駅に直結する約7,000m2の土地を取得し、2019(平成31)年3月に地上29階・地下5階のオフィス主体のビル「O-NES TOWER」建設に着手(2021年完成)。同ビルの延床面積は約8万5,000 m2で、完成すれば大林グループが単独所有する最大規模の賃貸物件となり、また環境に配慮した最先端のスマートビルとなる。RCコアと鉄骨フレームのハイブリッド構造を採用することで奥行約20mの無柱空間を実現し、個別空調によりきめ細かく空調制御を行うなどタイでは類を見ない快適なオフィス空間を提供。また、LEED・WELL認証 の取得手続きを進めているほかICTを活用した多様なサービスを提供するビル管理システム(BMS)導入を検討している。

O-NES TOWER
O-NES TOWER

タイ大林は、これを機に開発事業への取り組みを強化し、事業領域の深化・拡大を図ることで、ASEAN諸国の中で2番目の経済規模を有し、安定的な経済発展を続けるタイにおいて、着実に成長している。

再開発事業の動向

当社は各種開発事業・再開発事業への参画を通じて、エネルギー消費量やCO2排出量の低減を実現するための、最先端建設技術を活用した環境配慮型開発に取り組むなど、周辺エリアも含めた地域全体の環境性能、防災性能、事業継続性能の向上を考慮した魅力的なまちづくりに貢献している。

2017(平成29)年に完成した、明石駅前南地区第一種市街地再開発事業では、当社は「特定業務代行者」として事業を推進し、周辺エリアも含めた街全体の活性化をめざして、明石市の新たな「玄関」「顔」となるよう再開発に取り組んだ。

進行中の大規模開発事業としては、JR大阪駅北側の貨物ヤード跡地で進められている「うめきたプロジェクト」において、先行開発区域(グランフロント大阪)に続く「うめきた2期地区開発プロジェクト」がある。2018年7月に三菱地所株式会社を代表とする9社JVが開発事業者に選定され、当社はこのプロジェクトにおいても、開発事業者、設計者、施工者それぞれの立場の一員として参画している。

「みどり」と「イノベーションの融合地点」というまちづくり方針のもと、「New normal/Next normal」「Society5.0」「SDGs」などに配慮した新しい都市モデルの実現をめざし、先行開発に引き続き官民連携のうえでプロジェクトが推進される。エリア内は「南地区民間宅地」「都市公園」「北地区民間宅地」の3つのゾーンで構成され、民間宅地には先進オフィスや商業施設、国際級ホテル、MICE施設、高級分譲住宅などが建設されるほか、都市公園と民間宅地が一体となった大規模な緑化空間「みどり」が創出される。2024年夏ごろに先行まちびらき(一部民間宅地および一部都市公園)が行われ、2027年度にうめきた2期地区全体の開業を予定している。

一方、首都圏では2019年3月、横浜市有地である「みなとみらい21中央地区53街区」の開発事業予定者に、当社、ヤマハ株式会社、京浜急行電鉄株式会社、日鉄興和不動産株式会社(2019年4月に新日鉄興和不動産株式会社から商号変更)の4社で構成する企業グループが選定された。本街区は、みなとみらい線新高島駅に至近に立地し、横浜駅から徒歩8分、羽田空港までは京急線横浜駅から約30分と高い交通利便性を有している。本プロジェクトにおいては、高品質のオフィスを中心に商業施設、ホテル、にぎわい施設、オープンイノベーションスペースなどを有する大規模複合ビル(WEST棟・EAST棟)を開発する。さらに横浜駅からのペデストリアンデッキの延伸と、イベント等の開催が可能なコモンスペースを一体的に整備する計画で、当社が事業コンソーシアムの代表企業として参画した初めての大型開発案件であり、2021(令和3)年4月に着工し、2024年3月の竣工を予定している。

みなとみらい21中央地区53街区(完成予想図)
みなとみらい21中央地区53街区(完成予想図)

建設分野との協働・連携

東京駅前八重洲一丁目東地区で、再開発事業が進んでいる。2025(令和7)年4月には地上51階・地下4階、高さ250m、延床面積22万5,200m2の超高層複合ビルが建つ予定だ。オフィス、商業、カンファレンスのほか、バスターミナルも併設される。参加組合員は東京建物、大林組および独立行政法人都市再生機構、設計は大林組、新築工事は大林組・大成建設JVで2021年10月に着工する。従前地は東京建物本社ビルや八重洲センタービルをはじめ、54棟の建つ広いエリアで、特定業務代行者は東京建物、大林組および大成建設株式会社のJV。

特定業務代行者は、工事施工を含め再開発事業に総合的にかかわり、施行者である再開発組合と一体となって事業を推進する役割を担う。大林組の開発事業部門は、再開発地域に寄り添い、共に課題に取り組むとともに、建設事業を常に意識し、高い相乗効果を狙っている。東京駅前八重洲一丁目東B地区も、こうした事業の一つで、大林組は再開発の実績を数多く持つ。

このほか、2017(平成29)年3月に竣工した明石駅前南地区の再開発事業は、特定業務代行者として事業参画のうえ、工事受注したプロジェクトである。商業店舗、図書館、市役所窓口、子育て支援施設などが入る施設棟「パピオスあかし」、大林組独自の超高層制振構造システム「デュアル・フレーム・システム」を採用した34階建ての住宅棟「プラウドタワー明石」建設にあわせて、駅前広場、歩行者デッキなどの公共施設を整備し、周辺エリアも含めた地域の活性化に寄与した。

同年8月に竣工した赤坂一丁目地区の再開発事業では、同じく特定業務代行者として事業参画し、工事を受注した。オフィス、店舗、住宅などからなる「赤坂インターシティAIR」は、地上38階・地下3階の超高層複合ビルで、高層部は街並みとの調和を考えてオフホワイトを基調とし、建物の角を面取りして柔らかな印象を与えるとともに、日差しの制御と自然換気を促す壁面は向きによって表情を変え、圧迫感のない温かみのあるデザインとした。また、建物を首都高速道路側に寄せて配置することで5,000m2以上の緑地を確保した。なお、同ビルは2019年度「第60回BCS賞」(一般社団法人日本建設業連合会主催)と、「第18回屋上・壁面緑化技術コンクール屋上緑化部門 国土交通大臣賞」(公益財団法人都市緑化機構主催)を受賞した。このように、開発部門・建築部門が一体となって、まちづくりの全体にかかわっている。

明石駅前南地区第一種市街地再開発事業施設建築物新築等工事
明石駅前南地区第一種市街地再開発事業施設建築物新築等工事
赤坂インターシティAIR
赤坂インターシティAIR