東日本大震災:【コラム】震災と設計技術

地震と被害の概要

平成23年東北地方太平洋沖地震の震源域は非常に広く、三陸沖から茨城県沖の南北500km×東西200kmであり、この範囲の岩盤が100秒以上かけて破壊されたため地震動の継続時間が非常に長かった。最大震度は7であるが、広範囲(本州の20%以上の領域)で震度5強以上となった。

東北地方太平洋沖地震の規模を示すマグニチュードは9.0であったが、岩盤が順次、破壊されたため、一度に放出されるエネルギーは大きくならず、地震動の大きさはマグニチュード9.0にしては小さく、地面の揺れによる建物やインフラ施設の被害も地震の規模の割に少なかった。一方、余震活動が長引き、その規模も大きかったため、余震で被害が拡大したとも指摘されている。また、広範囲で地盤の液状化が発生し、特に首都圏の軟弱地盤において住宅などに多大な被害を与えた。

さらに、日本海溝沿いの岩盤が広範囲かつ大規模に破壊されたため、想定を大幅に上回る大津波(最大の津波高さ40m弱)が発生し、三陸海岸だけでなく、従来津波被害をほとんど受けてこなかった仙台平野から千葉沿岸部にまで被害が及んだ。

構造物の被害と分析

三陸地方では過去の津波被害を教訓に高い防潮堤が築かれていたが、津波はこれを上回る高さに達し、仙台平野などにおいても津波は想定を超えていた。津波は木造住宅を主とする町全体を押し流すとともに、防潮堤自体やコンクリート造の橋桁やその他のインフラ施設、建物も流出・転倒などの甚大な被害を受けた。ただし、防潮堤は津波の襲来を遅らせたこと、および仙台平野の道路盛土が津波を止めたことがわかっている。今後の津波減災対策として、ハード面(津波を止める、遅らせる、津波で流されない)とソフト面(津波から逃げる)を総合する必要がある。

液状化は、浦安市の埋立て地盤上の住宅地など首都圏の被害が際立っているが、軟弱地盤でも対策工を施した場合は液状化が生じておらず、液状化対策の有効性が確認された。東北地方の沿岸部も液状化が生じたと推定されるが、津波に痕跡を流され、不明である。むしろ、東北地方の液状化被害は河川堤防に顕著であった。大規模な液状化が発生した理由は、地震動の振幅は過去の液状化被害があった地震と同程度以下であったが、継続時間が長かったためである。

東日本大震災で観測された地面の揺れ

(a) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において東北地方で記録された地震の揺れ
(a) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において東北地方で記録された地震の揺れ
(b) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において関東地方北部で記録された地震の揺れ
(b) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において関東地方北部で記録された地震の揺れ
(c) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において東京で記録された地震の揺れ
(c) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において東京で記録された地震の揺れ
(d) 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)において神戸及び鷹取で記録された地震の揺れ
(d) 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)において神戸及び鷹取で記録された地震の揺れ
出典:(a)〜(c)は独立行政法人防災科学研究所による (d)左は西日本旅客鉄道株式会社による (d)右は気象庁による

図の解説 東日本大震災(平成23年東北地方太平洋沖地震)の代表的な観測記録を、阪神・淡路大震災(平成7年兵庫県南部地震)における観測記録と比較した。
 東日本大震災の揺れは長時間続いているが、阪神・淡路大震災は短時間である。東北地方(宮城県大崎市)や関東地方北部(栃木県芳賀町)では、阪神・淡路大震災に匹敵する震度6強〜7の大きな揺れが記録された地域があったが、建物や土木構造物の被害は少なかった。詳細分析によれば、阪神・淡路大震災の揺れに比べて、建物や土木構造物に大きな被害を出しにくいタイプの揺れであったことがわかった。
 なお、東京における震度は5程度であったが、非常に長く揺れており、東京の超高層建物が長く揺れ続けた原因となった。

当社は、地震発生直後より、構造設計者を派遣して、東北・関東の被災地域で600棟を超える建築物の被害調査を行って応急危険度判定を実施した。その結果によれば、1981年以前に建設された「旧耐震」建物は、1995年の阪神・淡路大震災と同様に大破・倒壊した事例があった。一方、「新耐震」建物の被害は軽微にとどまり、耐震補強した旧耐震建物も被害が少なかった。建物では、主要構造体(柱・梁)の被害は少なかったが、非構造部材、特に天井の落下が目立った。

首都圏の超高層建物は、建設されて以来初めて大規模な地震に遭遇し、大きく、しかも長時間の揺れを経験した。多くの建物で観測記録が得られ、その分析から建物の揺れは設計の範囲内であり、主要構造体の被害はなかったことがわかった。超高層建物にとっては、設計時の地震動よりも今回の地震動の方が小さかったためである。しかし、エレベータは緊急停止し、間仕切り・本棚などの破損や転倒などの被害が生じた。将来、高い確率で発生するといわれている南海トラフ地震も考慮して、より高い耐震性を求める声が上がっている。

免震建物は、観測記録から、その効果を発揮したことが明らかになった。エキスパンションジョイント部を除いて、建物や内部に被害があったとの報告は極めて稀であり、免震建物は事業活動や市民生活の継続・維持に貢献した。制振建物については、制振効果を発揮する地震動の大きさが設計によりそれぞれ異なるが、一般に非制振建物ほどの揺れはなかった。

橋梁などの土木構造物においても、建物と同様に地震時保有耐力法適用前(1990年以前)の橋梁において被害が生じたものの、落橋など大規模な破壊はなかった。これは、土木構造物の被害に大きな影響がある周期1〜2秒の成分の揺れが、今回の地震では少なかったためであるとともに、兵庫県南部地震以来、耐震補強が順次実施されてきた効果が表れたからである。

陸前高田市高田松原の防潮堤。防潮堤は、延長のほとんどが流失した。引き波により防護工が剥がされたのをきっかけに全壊したものと考えられる。
津波で破壊された防潮堤
地震の翌日、当社が派遣した現地被害調査隊が、相馬市上空から漁港付近の海岸線を撮影。半島は壊滅的な被害を受けている。
津波で破壊された集落