新たな営業展開

公共投資に下支えされていた建設投資は、阪神・淡路大震災で一時的に増加していたが、1997(平成9)年以後減少し続けた。縮小する市場のもとで、当社はPFI(Private Finance Initiative)案件や大型プロジェクトなど新たな営業展開に注力した。また、この頃から、不動産投資信託(REIT)など不動産を証券化して投資の対象とすることが本格化しつつあった。このため当社においても、不動産証券化の検討会やデューデリジェンス(不動産適正評価手続き)のエンジニアリングレポート受託などを開始した。大規模な再開発やビル建設では、資金調達で証券化の手法が用いられるケースが増え、営業の側面支援として重要性が増すこととなった。時代が建設業に求める役割、機能に対応し、当社の総合力・技術力を発揮することが営業展開の基本であった。

PFIの幕開け

PFI(Private Finance Initiative)は、1992(平成4)年に英国で始まったもので、公共施設などの建設・運営・維持管理に、民間の資金・技術・ノウハウを活用する手法である。財政赤字と歳入低迷に悩む日本でも、1999年9月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が施行された。

シドニー五輪スタジアム(1999年)など海外におけるPFI案件を手がけた実績がある当社は、1998年4月にPFIプロジェクト委員会を設置して準備を進め、1999年12月にはPFI推進部を新設して、受注活動を本格化させた。PFI事業は、企画立案から施設の建設・維持管理・運営のほか、出資や事業終了まで数十年間の運営リスク負担など建設業の範疇を超えた専門的な知識やノウハウが必要であり、同部は営業活動を進めるとともに、人材の育成にも力を入れた。2000年2月には「PFI審査会規程」を制定して、プロジェクトのリスク審査を明確化した。

2000年4月に神奈川県立保健福祉大学の施設整備を国内大型PFI案件として初めて受注した。以後、文化・スポーツ施設、病院、学校、公務員宿舎などのPFI事業を手がけ、建設業界では最多の受注件数を実現して、同分野をリードした。その後、2009年1月には、PFI事業が一定規模に成長し維持管理運営事業が本格化してきたことから、PFI推進部はPFI事業部として再編された。

PFI受注実績
PFI受注実績

大型プロジェクトへの対応強化

20世紀の終わりにかけて、大型公共プロジェクトの完成が相次いだ。東京湾アクアライン(1997(平成9)年12月開通)、明石海峡大橋(1998年4月開通)、瀬戸しまなみ海道(1999年5月開通)などである。

一方、民間大規模プロジェクトについては、川上からの組織的営業で受注確保をめざす取り組みも強化した。すでに1990年代には、大阪シティドーム、ベイコノハナ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)などのプロジェクト・チームが編成され、再開発事業への対応や建築・土木の連携情報一元管理などで受注拡大に成果を上げていた。1996年以降も、難波開発電通本社ビルなどでプロジェクト・チームが編成されたほか、中部国際空港営業部(1998年7月)や品川駅東口プロジェクト推進室(1998年8月)なども設置された。プロジェクト戦略会議を通じた営業・設計・生産部門連携による価格、非価格の両面における競争力強化も行われ、オアシス21などの受注に結び付いた。