首都高東品川JVプロジェクト

ワンチームで成し遂げた
前代未聞の難工事。
「首都高リニューアルプロジェクト」

PROJECT 03

PROJECT 03

老朽化が進む都心部の高速道路を、車の流れを止めることなく造り替える──。とてつもなく高難度のそんなプロジェクトを成功に導いたのは、大林組ならではの圧倒的な技術力と、組織の垣根を越えたチームワークだった。

山本 多成

東京本店
首都高東品川JV工事事務所
所長 現場代理人

1997年入社。工学研究科土木工学専攻修了。本プロジェクトの施工者としてJV全体、設計部門および工事支援部門を取りまとめ、ミッションの遂行に携わる。

岩城 孝之

土木本部
生産技術本部
橋梁技術部 担当部長

1997年入社。工学研究科建設工学専攻修了。工事公告の段階から、技術提案の立案~概略設計~提案書作成に9社JVの設計リーダーとして携わる。

河合 吾一郎

東京本店
首都高東品川JV工事事務所
工事長 監理技術者

2015年入社(中途)。工学部土木工学科卒。監理技術者として施工計画、発注者や関係機関との協議・折衝、現場担当者の指導・教育などに携わる。

※所属及び役職は、取材当時のものです。

CHAPTER 01

必ずやり遂げるとの決意のもとで

"昭和の東京五輪"に向けた突貫工事によって、1964年に開通した首都高速1号羽田線。それは高度経済成長期の日本のシンボルでもあった。以来半世紀以上、海上桟橋構造および盛土構造で構築された区間を中心に首都高は厳しい腐食環境による劣化が進み、ついに「都心部高速道路の造り替え」という前代未聞の更新工事が決断されたのである。

山本

山本:工事公告から技術提案までわずか2ヵ月。しかもその内容も前代未聞でした。

岩城

岩城:今回は、「この場所にどのような仕様の構造物をつくるか提案してほしい」という、設計コンセプトから考える非常に難易度の高いデザインビルド方式の発注でした。

山本

山本:岩城さんは受注決定のプレゼンも担当されましたが、自信はあった?

岩城

岩城:ありましたね。私の専門は橋梁で、技術者としてこんなビッグプロジェクトに携わるチャンスは二度とないという思いで取り組みました。プレゼンの手応えはよく、技術提案で優先交渉権を得た時は身震いするほど嬉しかったです。

山本

山本:本社の廊下で岩城さんとすれ違った際、「取れたよ!」と聞かされたのを覚えています。難問山積のプロジェクトになることは十分予想されましたが、「決まったからには必ずやり遂げてみせる」という思いでした。

河合

河合:私が中途入社したのはちょうどその頃です。この大規模プロジェクトを受注したと聞いて心底興奮しました。難易度の高い大現場に臨むことになり、一技術者としてワクワクした気持ちを抑えきれませんでした。

CHAPTER 02

常識破りの短工期に挑む

更新区間は鮫洲運転免許試験場から天王洲アイル駅近くまでの約1.9km。橋桁(橋脚に支えられた道路の部分)と海水面の空間が極めて狭いことから特に腐食が激しく、コンクリート剥離などの重大な損傷が目立つ区間だ。工事はまず上り線を迂回する仮の道路を設置し、その後新たな上り線を構築して下り線を移す。これは車の流れをストップさせないためだ。そして新しい下り線を構築して新たな上下線の供用にいたる。この大規模な工事を車の流れを止めることなく進行させ、しかも"令和の東京五輪"(当時は2020年夏予定)の開催時には古い構造物に車を走らせてはならないということが大命題とされた。工事着手は2016年2月。迂回路の完成・供用まで20ヵ月、新しい上り線の供用まで4年半という、常識外れの短期間で施工に挑むことになったのである。

山本

山本:首都圏の物流を支える首都高の交通を規制することは、社会的・経済的に大きな損失につながります。車の流れを遮ることなく更新工事を進めるには、工期の短縮は重要なテーマでした。

岩城

岩城:詳細図面を作成しながら施工も並行して進めるしかありませんでした。デザインビルド方式だからこそできたことです。私自身現場所長の経験があり、施工現場の事情や気持ちが分かることも、この綱渡りを可能にするうえで大きかったと思います。

河合

河合:岩城さんは何度も足を運んでくれましたし、本当に現場のことをよく知っています。設計チームと施工チームの一体感を強く感じ、これこそ大林組ならではの"凄み"だと舌を巻きました。

山本

山本:我々に与えられた工期は通常想定される半分。従来工法では絶対に間に合わない。そこで岩城さんの設計チームが考えたのが、事前に工場で資材を製造するオールプレキャスト化というコンセプトでした。

岩城

岩城:まず、基礎、下部工、上部工まで、できるだけプレキャスト化することで、現場作業を少なくしました。具体的には、迂回路施工での現場コンクリート打設数量は、全数量の15%程度であり、ほとんどがプレキャスト化できました。また、鮫洲埋立部のボックスカルバート(箱型のコンクリート構造物)は、すべての部材を工場製作(オールプレキャスト化)とすることを提案しました。さらに、今回の工事のために大林組が開発したのが『EMC壁高欄(かべこうらん)』です。従来の場所打ち壁高欄に比べて約5分の1の施工日数で済むことに加え、将来の壁高欄の交換も容易にできるというメリットがあります。また橋梁の上にある床版(車両などの荷重を橋の主構造に伝えるための床板)の速やかな接合を可能にするのが、大林組が開発した『スリムファスナー』です。現場での鉄筋工が不要で工程の大幅な短縮が可能になりました。首都高で採用したのは初めてで、耐久性に優れていることから維持管理コストの低減にも寄与します。

CHAPTER 03

異種共同企業体を一つのチームに

難題は工期の短さだけではない。施工ヤードの狭さやマンションなどが近接していることなども大きな障害となって立ちはだかった。さらに上下部一体発注のため土木グループ(当社含むゼネコン5社)と鋼橋グループ(4社)の計9社JV(共同企業体)という点も異例のことで、メンバーは現場運営の難しさを痛感させられたのである。

山本

山本:鋼製橋梁の製作施工業者とJVを組むことはめったにありません。お互いに文化や考え方も違えば口にする言葉も違うので、当初はギクシャクした面があったのも事実です。しかしプロジェクト成功のためには、現場の思いをまとめあげてベクトルを一つにすることが必須でした。日に日に大きくなる「本当に間に合うのか」という不安と戦いながら、とにかく全員が必死で力を合わせました。

河合

河合:それにはコミュニケーションを徹底する以外にありません。週に一度の分科会を設定して互いの技術を学んだほか、施主も交えたJV関係者が一緒になってソフトボールで汗を流したこともありました。地道な積み重ねで次第に垣根は低くなり、気持ちが通い合うようになったと思います。

岩城

岩城:異なる工種を、間を置かずに並行して順次施工するように進めた河合工事長の手腕も見事でした。

河合:車の流れを止めないよう、工事用車線を常に確保した状態で、各工種の施工が可能となるような施工計画を立てました。特に各工種の作業工程と工事車両の搬入出の管理には苦労しました。出入口が限られた、奥に長い"ウナギの寝床"のような現場でしたので、通常のように奥から順次施工するのではなく、両端および中央から同時に進めていくなどの工夫もしました。こうした取り組みは協力会社の協力と連係プレーがあってこその賜物です。先ほど大林組の一体感ということをお話ししましたが、このプロジェクトに携わるすべての人間がワンチームになれたと思っています。

山本

山本:通常の海上工事と違ってすぐ近くにマンションがあり、モノレールも走っています。近隣への配慮にも気を使いました。しかし振動はどうしても避けられず、精密機器を取り扱う会社には結果的に移転をお願いすることになりました。現場のことは夜寝ている間も頭から離れなかったです。それもこのプロジェクトを安全にやり遂げなくてはならないという使命感からでした。

CHAPTER 04

大林組だからできるチャレンジがある

コロナ禍によって東京五輪は1年延期されたが、本プロジェクトの至上命題とされていた迂回路と新しい上り線の構築は予定通り2020年6月に完了を迎えた。短工期に狭い施工ヤード、異種共同企業体というさまざまな難題に直面しながらも、「古い構造物に車を走らせてはならない」という要求に見事に応えて見せたのである。現在プロジェクトは新しい下り線を構築するⅡ期工事の真っ最中だ。首都圏物流の生命線として激しく車が行き交う中、昼夜を分かたず工事は続けられている。

河合

河合:施工した道路への切り替えは、深夜に一時的に交通をせき止めて行われます。パトカーの先導のもと、一般の車が新しい道路を走り出す瞬間を目にした時の達成感は格別です。その後私は私服に着替え、現場の仲間たちと車に乗り込み新しい道路を走りました。自分たちが造った道路の上を疾走しながら、皆の口からは言葉にならない歓声が飛び出しました。

岩城

岩城:迂回路のために開発した『EMC壁高欄』や『スリムファスナー』などの技術は、その後多くの現場で採用され大林組の強力な武器になりました。今後日本ではインフラの一層の老朽化が進み、さまざまな工種において、リニューアル工事が必要となるでしょう。高速道路はその代表です。今回のプロジェクトを通じて、更新工事の重要性、社会的責任を強く感じました。これからもインフラの更新を通じて社会に貢献するために、固定概念にとらわれない発想で新たな技術開発に挑戦したいと思います。

山本

山本:これまでの取り組みに対しては土木学会賞や日建連表彰土木賞などを受賞するなど、業界内でも大きな反響を呼びました。これからも工事は続くので、まずは無事故、ノートラブルで進めていくことが私の最大のミッションです。高速道路も含め、社会インフラである道路や橋は老朽化が進んでおり、経過年数が50年を超える割合が2018年時点で25%程度、その後2033年には60%を超えるとみられています。インフラリニューアル工事の発注は、今後ますます多くなると思われますが、大林組だからこそそれらの受注に最も近い立場にいると言えます。技術力とチーム力で首都圏の重要インフラを支える喜びを、ぜひこれから入社される皆さんにも味わっていただきたいと思います。