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代表取締役 社長 兼 CEO 蓮輪 賢治

2022年度を振り返ると、大林グループにとって、どのような1年だったか

大林グループを取り巻く社会情勢の変化をあらためて振り返ると、2020年から続いている新型コロナウイルス感染症の脅威がようやく収束に向かい、2023年春にはインバウンド需要が回復基調に入り、人やモノの移動が活性化するといった明るい兆しが見えてきました。一方、コロナ禍によるグローバルなサプライチェーンの混乱や物価の高騰が発生していたところに、ロシアのウクライナ侵攻や台湾をめぐる米中間の緊迫など地政学的リスクが顕在化し、エネルギー価格の高騰が加速したことで建設資材価格がさらに上昇しました。大林グループにおいては、このような建設物価の高騰により事業環境が大きく影響を受けた1年だったと感じています。

近年は、大都市圏で大規模な再開発事業の案件が多く、大林組もそのような再開発に関わる工事を手がけさせていただいています。通常、大型工事では、受注してから実際の工事着手までに相応の計画・準備期間が必要となりますが、今般は、その間に想定外の建設物価の高騰があり、コストが大幅に増加する事態が起こっています。お客さまに工事費増額の交渉を粘り強く行っているものの、コスト上昇分の転嫁が十分にできず、利益回復が難しい工事を抱える状況が継続しています。

このような建設物価の高騰に対して、お客さまとの協議やコスト圧縮のさらなる努力はもとより、建設業界全体として声を上げていく必要があると私は考えており、一般社団法人日本建設業連合会を通じて、お客さまのみならず事業者団体の皆さまなどに対しても、建設物価の変動に関する客観的なデータに基づく価格転嫁の合理性、必要性についてお伝えしてきました。引き続き、この課題の解決に向けて粘り強く取り組んでいく覚悟です。

一方、2022年度からスタートした「大林グループ中期経営計画2022」(以下、「中計」)については、一定の進捗が見られるものの、各施策による具体的な成果はこれからとなります。この1年間は社内浸透の年と位置付け、各本支店・グループ会社の役職者に対する説明会を国内の各拠点で実施するとともに、中堅・若手社員を対象とした「中計2022ライブミーティング」を行うなど、大林組の企業理念やビジョンとの関わり、中計で目指すところについて私自身の言葉で丁寧に説明してきました。グループ内での浸透が徐々に進み、企業価値向上への個々の取り組みを「自分事」として捉えるようになってきたと感じています。そうした点では、社員のエンゲージメント向上に手応えを感じることができました。厳しい事業環境が続く中、収益性および生産性の向上という喫緊の経営課題に対して、グループ一丸で実現に向け邁進する下地ができた1年でした。

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「中期経営計画2022」の財務面での進捗はどうだったか

2022年度の大林グループの連結売上高は1兆9,838億円(前年度比3.2%増)となり、まずは安定的な事業継続と生産能力に見合った水準として中計で定めた目標である2兆円程度は確保できました。また、1株当たり当期純利益(EPS)については、108.34円(同98.6%増)となり、目標(100円以上)を達成できました。しかしながら、1,000億円をボトムラインとした連結営業利益の水準については938億円(同128.5%増)となり、残念ながらステークホルダーの皆さまのご期待に応えられませんでした。これは、建設物価の高騰などによる国内建設事業の収益悪化が主な要因です。建設事業の業績の回復・安定に最優先に取り組み、中計の基本戦略とした「建設事業の基盤の強化と深化」「技術とビジネスのイノベーション」「持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充」を進め、強固な経営基盤により変革に挑戦し続けていきます。

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カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは進んでいるか

商業ベースで国内初となる「秋田県秋田港および能代港における洋上風力発電プロジェクト」が2023年1月、全面的な商業運転を開始したことが挙げられます。建設工事の竣工式には私も参加しましたが、能代港にそそり立つ20基の大型風車は壮観なものでした。

私が再生可能エネルギー発電事業を推進する事業本部の本部長として陣頭指揮を執った2012年開業の「久御山物流センター」における太陽光発電事業を皮切りに、この10年余りで太陽光発電所28ヵ所、木質バイオマス発電所2ヵ所、陸上風力発電所2ヵ所を稼働させ、今般、新たに洋上風力発電事業を事業ポートフォリオに加えることができたと思うと、感慨もひとしおです。

また、次世代エネルギーとして期待される水素の可能性にも注目しています。将来の水素社会において建設業で培った技術やマネジメント力を活かすため、国内外で事業化を目指し、水素関連実証事業(製造・供給)を進めています。お客さまに提供するソリューションにPPA(※1)事業などの取り組みも加え、今後も積極的に再生可能エネルギー発電事業をはじめとする創エネルギー事業を展開することで、社会のカーボンニュートラル実現への貢献とともに企業価値の向上を追求していきます。

日本では戦後造成された人工林が本格的な利用期を迎えている中、木という素材にも大きな可能性を見出しています。2022年、大林組の次世代型研修施設として、高層純木造耐火建築物「Port Plus®」を横浜市に完成させました。Port Plus®では、大規模な中高層木造建築に対する大林組の技術力の高さを広く世の中に示すことができたと自負しています。一方で、日本において木造建築は戸建て住宅が中心のため、大規模な木材の利用には、森林資源の循環利用や木材を生産する林業、加工・流通させる木材産業がさまざまな課題を抱えています。現在、大林グループは、森林資源を最大限に活かす循環型ビジネスモデル「Circular Timber Construction®」を掲げ、積極的に取り組みを進めているところです。このビジネスモデルの実現に向け、Port Plus®などの木造・木質化建築推進に加えて、バイオマス発電所における国産間伐材の燃料利用のほか、木材製品の製造販売会社であるサイプレス・スナダヤのグループ会社化など、中長期的な木造・木質化建築全体の課題であるサプライチェーンの強化にも取り組んでいます。森林資源の循環利用を推進することでも、カーボンニュートラルの実現への貢献を目指しています。

  • ※1 PPA(Power Purchase Agreement)
    電力需要家とPPA事業者(発電事業者)が締結する電力売買契約の一つ。PPA事業者が需要家の土地や施設に太陽光などの再生可能エネルギー発電設備を設置し、電力を供給する。設備は、第三者(PPA事業者または別の出資者)が所有するため、需要家は初期費用をかけずに再生可能エネルギー電力を利用できる

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もう一つの社会課題である、ウェルビーイング実現に向けた取り組みは進んでいるか

先に述べたPort Plus®は、カーボンニュートラルだけでなく、ウェルビーイングについても大林グループの思想・技術を発表する素晴らしい展示空間になったと思っています。国内最高(44m、11階建て)の純木造建築という点にステークホルダーの皆さまから注目が集まっていますが、ウェルネスやダイバーシティの視点からのアイデアを建築計画に取り入れており、さまざまなウェルビーイングの要素の採用によりWELL認証の最高ランク「プラチナ」評価につながりました。快適性・多様性の実現といった観点でも広くステークホルダーの皆さまにこの施設を見ていただき、大林組の新たな提供価値創出への取り組みに対するご理解につなげていきたいと考えています。

もとより、大林組にとって社員のウェルビーイングは、マテリアリティの一つに掲げる「労働安全衛生の確保」が実現されることが大前提です。しかしながら、2022年度もKPIに掲げる「死亡災害ゼロ」が未達となったことを中央安全衛生総括責任者として重く受け止めています。2023年2月には「安全管理に関する緊急事態宣言」を発出し、安全管理の徹底について大号令をかけました。2023年度こそ死亡災害ゼロを達成すべく、私自身も全国の建設現場を回り、安全が何よりも重要な守るべき価値であることを繰り返し丁寧に指導・監督していきます。

また、私は社員にとって最も重要なことは、「働きがい」のある企業・職場であるかどうかだと考えています。改正労働基準法への対応は建設業界にとって喫緊の課題であり、大林グループも現在、「働き方改革」に全力で取り組んでいますが、「働きがい」というものは、企業が目指すビジョンを共有し、社員一人ひとりがそれぞれの責任と使命を担ってともに立ち向かい、仕事の中に楽しさ・おもしろさを見出し、そして仕事をやり遂げた達成感を実感した時に得られるものというのが私の持論です。社員にとって働きがいのある企業になり、そして、そうあり続けるという志を胸に、働き方改革や建設DXによる生産性向上、また健康経営を推進して、社員とその家族のウェルビーイングを実現していきたいと思います。

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目指す未来とそのために取り組むマテリアリティについての考えは

「『地球に優しい』リーディングカンパニー」こそ、大林グループのありたい姿です。ESGやSDGsという言葉が社会で認知される前から制定されていた大林組の基本理念に私自身も共感しています。2019年に策定した長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」では、2050年において「地球・社会・人」と大林グループのサステナビリティを同時に追求することを掲げています。CO2排出ゼロやすべての人が幸福に暮らせる社会の実現といったサステナビリティの取り組みは、一朝一夕に実現できるものではありません。大林グループでは、ビジョン実現に向けた取り組みの羅針盤として、6つのマテリアリティを同じ2019年に特定しています。中計では、この6つのマテリアリティ実現に向けて必要な課題解決の取り組みを戦略・施策に反映しています。

既存の価値観が大きく変化するこの不確実な時代にあって、社会変容のスピードはますます加速しており、それらに対応した技術開発の進展も目覚ましいものがあります。大林グループも事業領域を拡大する中で、社会からの要請は多様化し、その社会的使命はますます重要になっていきます。このような変化に対して柔軟に対応し、持続的な成長を実現していくために、サステナビリティ経営の羅針盤となるマテリアリティについてこれまで以上に真剣に取り組むとともに、必要があれば柔軟に見直していきたいと考えています。

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最後にステークホルダーの皆さまへのメッセージを

大林組は1892年に大阪の地で、土木建築請負業として創業しました。その時から現在まで「変わることのないもの」は、社員一人ひとりの「ものづくりへの情熱」です。一方、「変わっていくもの」はものづくりの在り方、つまり技術、工法、材料や建設プロセスなどです。先達たちが「ものづくりへの情熱」を持って、誠実に取り組み、社会の発展に貢献してきたことで大林グループは成長を続けてきましたが、社員の「ものづくりへの情熱」は絶えることなく、一人ひとりの中にDNAとして今に至るまで伝承されています。私はこのようなDNAを持つ大林グループを誇りに思っています。

これまで大林グループは、常にその時代の大きな荒波に挑み、「ものづくりへの情熱」に裏打ちされた技術や知見を持って、それを乗り越えてきました。私たちも、ブランドビジョン「MAKE BEYOND つくるを拓く」を胸に、変革への強い意欲を持ち続け、持続的な成長と社会的使命を果たし、そのことが連綿と続く「ものづくりへの情熱」の源泉となり、新たな挑戦につながる好循環に導いていきたいと考えています。

創業以来、大林グループの原動力は「人」です。大林グループの社員一人ひとりが自らの能力を高め、最大限に引き出し、そのベクトルを合わせることにより、さらに大きく飛躍できると確信しています。「ものづくりへの情熱」を持って、グループ一丸で変革を成し遂げ、これからもサステナブルな社会の実現を目指してまいります。

皆さまにおかれましては、引き続き大林グループに対するご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

代表取締役 社長 蓮輪賢治

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