天候に左右されずにフィルダムの遮水材料の含水比を調整する2つのシステムを開発

プレスリリース

(株)大林組は、フィルダムのコア部分の遮水材料を雨などの気象条件に左右されずに効率良く生成する2つのシステムを開発しました。外気の通風を利用して遮水材料を効率良く所定の含水比まで乾燥させる「全天候通風型システム」と減圧下における水の沸点降下を利用して所定の含水比を調整する「真空蒸発乾燥システム」です。

「全天候通風型システム」は、鳥取県日野郡江府町の下蚊屋ダム建設工事に適用し良好な結果を得ました。また、「真空蒸発乾燥システム」については現場モデル実験を実施し、その有効性を実証しました。


フィルダムは透水係数の小さな粘性土を盛立て締固めた遮水ゾーンであるコア部分とその両側に土や岩石をゆるい勾配で盛立てた水圧やダムの重さを分散して支える部分から構成されています。コア部分の遮水材料とその両側の土や岩石を同一レベルで盛立てていくため、コア部分の盛立て状況が全体行程を左右することになります。コア部分の遮水材料には近傍で採取される土質材料を用いますが、この材料の含水比が高い場合には盛立て中に泥状化して施工ができなくなることがよくあります。

このような場合には、ストックパイルにおいて天日乾燥や礫質土や細粒岩等の材料を混合するといった方法により所定の含水比に調整します。しかし、これらの作業は屋外で行われるため降雨降雪の多い地方や多雨期においては遮水材料の含水比の調整が難しく、盛立て可能な日数を十分確保することが困難です。

今回、全天候通風型システムを適用した下蚊屋ダム建設地は山陰地方特有の気候により年間降雨日数は200日を超え、冬季には3ヶ月の積雪があるため遮水材料の品質管理が大変困難な地域でした。

今回、大林組では雨などの気象条件に左右されずに盛立て可能なフィルダムの遮水材料を確保する2つの効率的な遮水材料の含水比調整システムを開発しました。

  1. 全天候通風型システム
    このシステムは、外気の通風を利用して遮水材料を効率良く所定の含水比まで乾燥させるシステムです。屋根と壁が透明樹脂板張で、壁の一部(壁の下半分と屋根直下の50cm程度)が開放されている仮設小屋に含水比の高い遮水材料を仮置し、送風機や扇風機による外気の送風とバックホウによる天地換えを行うことで遮水材料を乾燥させ、含水比を調整するものです。降雨後、ストックパイルの含水比が高く盛立に可能な遮水材料が確保できない場合、このシステムで調整された遮水材料を用いて盛立を行うことができます。下蚊屋ダムではこのシステム導入後、盛立可能日数が30%増えました。(盛立遮水材料 88,000m³のうち全天候通風型システムによる材料 35,000m³)

    下蚊屋ダムでの全天候通風システム施設概要
        鉄骨平屋建 高さ 7~12m、床面積 890u(37m×24m)
        屋根及び壁 透明樹脂板張、巻上式ビニールカーテン
        ストック量 約 2,000m³(2日分の盛立量に相当)
        設備 送風機 22kw 2台(側面)、扇風機 750w 12台(天井)

    このシステムの特長は次のとおりです。
    (1) 雨の影響を受けることなく、遮水材料の乾燥作業が可能
    全天候型施設ですので、雨の影響を受けず、雨の翌日でも良質に改善された遮水材料を搬出することができます。
    「下蚊屋ダム」建設工事では、4日間で含水比を5~6%下げ、所定の品質に良質化し、約1ヶ月の工期短縮を実現しました。

    (2) 日射による加温効果や通風による蒸発促進効果を有効に利用
    屋根や側壁が透光性材のため日射による加温効果と、側壁の一部開放、ブロアや扇風機による外気通風により蒸発効果が促進されます。なお、開放部にはカーテンが設置してあり、風雨時は開放部を遮蔽し、雨の進入を防ぎます。

    (3) センサーにより効率の良いブロア等の自動制御
    施設内外に湿度や温度センサーが設置してあり、ブロア等の自動制御を行うことによって、効率良く遮水材料を乾燥できます。

  2. 真空蒸発乾燥システム
    このシステムは、減圧下における水の沸点降下を利用して遮水材料を所定の含水比に調整するシステムです。含水比の高い遮水材料を気密シート等で密封し、真空ポンプで内部の空気を抜き減圧させ、水の沸点を下げることにより、間隙水の気化を促進させて遮水材料の含水比を低下させます。簡便な装置なのでどこにでも設置可能です。

    このシステムの特長は次のとおりです。
    (1) 装置が簡便、気密シートで覆うため、雨等の影響を受けません
    装置が簡便なため、ある程度の広さの敷地が確保できれば、どこにでも設置できます。また、気密シートで密封するため、雨などの影響を受けず乾燥できます。

    (2) 減圧による水の沸点降下を利用し、効率よく含水比を低下
    水の沸点は、大気圧101kPaでは100℃ですが、たとえば圧力を3kPaまで下げると25℃程度になります。遮水材料は気密シートで覆われているだけですので、材料中の水分は外部の熱を吸収しながら常温において気化し、水蒸気の状態で真空ポンプにより直ちに外部に排出されます。

    (3) フィルダム工事以外への適用
    フィルダムの遮水材料に限らず、地下水で汚染された土壌の土中に含まれる汚染水の除去や揮発性の高い油の除去などへも適用できます。


今後、大林組では今回開発したシステム(いずれも特許出願済)をはじめ、油圧式攪拌機などの含水比の調整技術により、工事規模や現場および気象条件に応じた最も効率の良い調整方法を採用することによって、フィルダムの品質の確保と工期短縮を実現して行きます。


以上
■この件に関するお問い合わせ先
大林組 東京本社 広報室企画課
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