未来型建設技術、「可変形状トラス(VGT)」を用いた可動建築物を構築する基礎技術を確立

宇宙開発の技術で、新しい空間を創造します

プレスリリース

大林組は、自在に変形し多様な空間を創造することが可能な、未来型建設技術ともいえる可動建築物を構築する基礎技術を確立しました。通信衛星のパラボラアンテナや宇宙ステーションを建設する展開型宇宙構造物の技術として研究されている「可変形状トラス(VGT:Variable Geometry Truss)」を用いることで、状況に合わせて様々な架構形状や開口部を実現することが可能となります。商業施設やアミューズメント施設の開閉式屋根や展開収納型のステージ、あるいはイベントに合わせて空間を作り出す音響制御板などへの適用が期待できます。


建築の構造において三角形を単位としたトラス架構は、最も基本的な架構(骨組み)の一つです。構成部材には圧縮力か引張力だけが生じ、曲げが生じない構造であるため、必要材料が他の構造に比べ少なく、軽くすることができるという特徴があります。そのため、応用範囲は屋根、外装材の下地、天井や壁の下地など多岐にわたり、工場、体育館、ショッピングセンターなどの大空間施設によく用いられています。
一方、宇宙において通信衛星のパラボラアンテナの展開や宇宙ステーションを建設する展開型宇宙構造物の技術として研究されている「VGT」は、トラス架構(三角形)の一部材(一辺)あるいは全部材(全辺)を伸縮させることで、様々な架構の形状を実現することができる要素技術です。
この「VGT」を地上の建築物へ適用することで、架構の構造的な特性を保ったまま、様々な架構の形状を実現し、自在に変形するあらたな空間を創造することが可能となります。
しかし、「VGT」の地上建築物への適用には、架構の力学的な性状の把握や駆動制御技術の確立など種々の課題があります。


大林組は、「VGT」の地上建築物への適用に向けて、文部省宇宙科学研究所の名取通弘教授と「VGT」の基礎技術の確立のための共同研究(1998年4月~2001年3月)を行っています。
これまでの研究では、

  • パソコンによる「VGT」構造物の動作シミュレーション技術の確立
    「VGT」の形状(各部材長)、方向、配置・構成を自由に設定することで、目的の可動範囲と形状をパソコン上で容易に確認することが可能となる、動作シミュレーション技術の確立。

  • 「VGT」を用いた構造物の設計技術の確立
    「VGT」の各部材に作用する力の大きさや方向を算定するパソコン上のシミュレーション技術を開発し、「VGT」を駆動するための効率の良い出力設定とアクチュエーター構造の設計技術を確立。
    「VGT」ユニットの可変部分と不変部分の配置を最適化し、可変部分を構成するヒンジを単純化することによって、架構全体に作用する力を力学的に効率の良い方向へ設計する方法を確立。

  • 「VGT」の自動制御システムの確立
    様々な架構形状を実現するために必要な伸縮アクチュエーターの正確なストローク長制御を一元的に自動制御するプログラムを開発し、架構全体の動きを予測して各ユニットが干渉を起こさないように動きを制御する自動制御システムの確立。

など、地上建築物へ「VGT」を適用するための基礎技術を確立しました。今回の実験ではドーム状の開閉屋根を対象にした「Flowering Dome」を開発し、上記で確立した基礎技術の実用化に向けての検証を行って、可動部を有する新しい立体トラス建築物やモニュメントの提案を目指します。

「VGT」を適用した地上建築物には、次のようなものが考えられます。

(1) 商業施設、アミューズメント施設の開閉型、収納型屋根構造
(2) 音楽ホールなどのイベントに合わせた空間を作り出す音響制御板
(3) 人工スキー場の床やプールの形状変化
(4) 複雑に形状を変えるモニュメント

「VGT」を用いた建築構造物の特徴は次のとおりです。

  1. トラス架構の構造的な特性を維持したまま、多様な形状や空間をつくりだすことができます。

  2. 従来のスライド式の開閉機構や吊下げ式の音響制御板などの昇降機構を設けずに、「VGT」の基本ユニットをそれらに合わせて結合、配置し、それらを直接制御することで、屋根の開閉や音響制御板の昇降を行うことができます。

  3. 屋根に「VGT」を用いた場合、従来のスライド式の開閉機構などの可動方式に比べ、開口率を大きくとることができます。また、屋根の開口形状や開口位置を自由に設定することができます。

  4. 伸縮機構などの可動機構は、ジャッキや電動シリンダーなど汎用品を利用できます。

  5. 施工性を優先した組立が可能なので、短期間で施工が可能です。また、ユニットごとにメンテナンスが可能なので、メンテナンスが容易です。

今後、大林組は、今回確立した基礎技術の利用を、開閉型ドームや展開収納型ステージなどの多様な形状が要求される建築構造物やモニュメントに、積極的に提案していきます。

以上
■この件に関するお問い合わせ先
大林組 東京本社 広報室企画課
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