株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:白石達)は、建設現場で働く作業員や従業員のための安全な環境整備をめざし、現場内の複数箇所のWBGT(暑さ指数)(※1)を連続測定し、その情報を工事事務所で一元管理することができるシステム「暑さ指数ウォッチャー」を開発しました。既製品に比べコンパクト化と低価格化を実現し、その有効性の確認などを目的とした実証試験を開始しました。
昨今の地球温暖化による気温上昇に伴って熱中症の増加が予想されています。建設業は全産業の中でも熱中症災害の発生率が高く、とりわけ建設現場では、発生する全労働災害に占める熱中症の割合が夏季に急増する傾向にあり、熱中症への対策は急務となっています。
現在、熱中症を防ぐため、クールルームや冷水器の設置、塩アメの配布や作業員などが相互看視する体制の導入など、さまざまな対策を講じていますが、これらを適切かつタイムリーに活用、実施するには、現場内の熱環境をくまなく、かつ連続的に測定し、その情報を迅速に作業員などに通知することが重要となります。熱中症予防に向けた熱環境の評価には一般にWBGT(暑さ指数)が用いられ、建設現場でもWBGT計による測定が行われています。
しかし、連続測定や一元管理できる高機能なWBGT計は大型で高価なものが多く、ほとんどの現場では、瞬時値を簡易に計測する低価格なハンディータイプのWBGT計により1日に数回程度、限られた場所でのみ測定しているのが実情です。
WBGTは温度、湿度、日射、輻射(ふくしゃ)、風速などにより変化します。このため、日射の変化はもちろん、塗装作業時などに行うビニールシート養生による風速の低減など、刻々と変化する作業環境により熱中症になる危険度は常に変化しています。
また、熱中症の危険度は、同じ環境下にいても、活動量、着衣量や暑い環境への身体の慣れが関係します。WBGTは、作業環境においては、日本工業規格のJIS Z8504「WBGT指数に基づく作業者の熱ストレスの評価」(※2)に基づき、「どんな作業をしているか」「どんな服を着ているか」「暑い環境に慣れているか」などの要素を反映して、基準値を決めることとなっており、高機能なWBGT計にはこの基準値を反映できるものもありますが、簡易なWBGT計はWBGTの表示を行うのみで、条件により変化する基準値との比較を行うことはできません。
作業員などには、けがを防ぐ目的で真夏でも長袖・長ズボン・ヘルメットの着用が義務付けられており、熱中症になりやすい状況にあります。日々変化していく作業環境、作業強度を加味し、適切な基準を合理的に管理していくことは非常に困難でした。
今回開発した「暑さ指数ウォッチャー」は、現場内の複数箇所のWBGTを連続的に測定することに加え、着衣状況や作業強度などの与条件に応じたWBGT基準値を自動設定できる高機能なWBGT計のコンパクト化と低価格化を実現しました。
「暑さ指数ウォッチャー」の特長は以下のとおりです。
- コンパクト化と低コスト化を実現
WBGT計測部は、温湿度センサーと黒球温度センサー、無線子機「ルーター」で構成されます。WBGT計に多く用いられる直径150mmの黒球は、現場での設置が難しく壊れやすいため使用せず、無線子機「ルーター」に内蔵する簡易黒球センサーとし、さらに演算回路や記憶装置を省略することで、計測部のコンパクト化と低コスト化を実現しています。これにより、直径150mmの黒球を用いたものや、各測定点に既存のWBGT計を設置する場合などに比べ導入コストが半分以下になります。なお、ルーターは防雨仕様となっており、温湿度センサーをラジエーションシールドに収納することで、屋外への設置が可能です。
- 有効な管理機能を多数保有
すべての設置場所のWBGTを1分間に1回、連続測定することにより、リアルタイムに一括管理することができます。また、JIS Z8504の基準値を採用しており、作業強度、着衣量、暑さへの慣れなどを考慮したWBGT 基準値を設定することが可能です。測定結果である実際のWBGTを、基準値を超えた度合いの順に一覧表示することで「対策をすべき順序」を見える化します。
そのほか、グラフ表示、データ記録、帳票出力、三色回転灯(パトライト)や自動電子メールによる危険度通知など管理に有効な機能を数多く有しています。また、電子メールについては二次元バーコードによる「かんたんメール設定」が可能です。 - 独自の無線ネットワークを構築
独自の無線ネットワークを構築するため、現場内へのWi-Fi敷設や通信会社との契約などは不要です。さらに、各ルーターは相互に無線の中継が可能であり、最大200台まで設置できるため、現場内での多点計測を容易に実現することができます。
今回の建設現場における実証試験を通じて、システムの信頼性、耐久性などを検証するほか、作業性、利便性や操作性を加味したシステム改善を進め、2015年度中に実用化する予定です。
また、現在、NTTコミュニケーションズ株式会社(本社:東京都千代田区、社長:庄司哲也)と共に「IoTを活用した作業員向け安全管理システム」の実証実験を行っていますが、将来的には、そのシステムが解析した個人の生体データと、「暑さ指数ウォッチャー」に基づくWBGT基準値とを活用することで、安全管理の実現に向けた、より高度なデータ解析を検討しています。
大林組はIoTの積極的な活用を通じて、作業員や従業員にとって、より安全な作業環境の実現をめざします。
【暑さ指数ウォッチャーのシステム概要】
- ※1 WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度:℃)暑さ指数
熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい(1)湿度、(2)日射・輻射など周辺の熱環境、(3)気温の3つを取り入れた指標です。
参考:暑さ指数(WBGT)とは(環境省熱中症予防情報ウェブサイト)
- ※2 JIS Z8504「WBGT指数に基づく作業者の熱ストレスの評価」
ISO 7243 (Hot environments Estimation of the heat stress on working man, based on the WBGT-index)を翻訳し、技術的内容および規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格です。附属書AにWBGTストレス指数の基準値表があり、代謝率(作業者の身体作業強度)に対応したWBGT基準値が示されています。なお、厚生労働省による「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」では、「附属書Aに示される基準値を超える場合には、熱中症が発生するリスクが高まると考えられるため、熱中症の予防対策をより徹底して実施すること」が明示されています。
参考:熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について(厚生労働省ウェブサイト)
以上
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大林組 CSR室広報部広報第一課
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