クラウドを活用した山岳トンネル工事の切羽(掘削面)評価システムの運用を開始

ディープラーニングで高精度な切羽評価を実施し、工事の安全性・経済性の向上をめざします

プレスリリース

株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、AI技術の一つであるディープラーニング(※1)を適用した山岳トンネルにおける切羽評価システムについて、さらなる高精度化や工事の安全性と経済性向上のため、全評価項目に対応したクラウドシステム(以下、クラウド)を構築し、国内のトンネル現場での本格運用を開始します。

日本の山岳トンネル工事において標準工法となっているNATM(New Austrian Tunneling Method)では、吹付けコンクリートとロックボルトを主要な支保工材料とし、支保工の規模や強度については事前の地質調査に基づいて計画します。しかし、事前調査の結果だけでは不十分なため、施工中の切羽(掘削面)の強度、風化変質、割目間隔、割目状態、走向傾斜、湧水量および劣化度合の7項目によって地山の状況を評価し、その結果に応じて計画を見直しながら施工を進めます。

大林組は、ディープラーニングを活用し、地質学の専門家と同等の評価を可能にする切羽評価システムの開発を進め、2017年に切羽画像から風化変質、割目間隔および割目状態の3項目を評価する試行システムを開発しました。

このたび、強度、走向傾斜、湧水量および劣化度合の4項目を追加した全7項目で切羽を評価できるシステムを完成させました。評価システムの核となる学習データは、大林組における岩盤力学と地質学の専門家の知識と経験を組み込むことで、全7項目において70%以上で専門家と同じ評価をすることを確認しています。

加えてシステムをクラウド化することで、インターネット環境とタブレットなどの端末さえあれば、全国どこの現場でも利用でき、施工管理担当者が目視で評価した結果とシステムによる評価結果を現地で比較することが可能となります。地質状況を素早く高精度に評価することで、より適切な支保工の設置を推進し、工事の安全性、経済性を向上させます。

現在、現場において実証を進めており、2019年4月から全国のトンネル現場での本格運用を予定しています。

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システム画面(解析出力イメージ)

なお、本システムはMathWorks Japan(マスワークス合同会社)の協力のもと開発しています。

本システムの特長は以下のとおりです。

即座に細部まで切羽を評価することにより工事の安全性と経済性が向上

タブレット端末などで切羽画像を撮影しクラウドにアップロードすることで、全7項目のうち選択した項目について直ちに解析し評価を返信します。1項目の解析所要時間は約30秒です。また、評価領域に関しては、従来は切羽を上方・左右の3領域を目視で評価していたのに対し、本システムでは227×227ピクセルごとに分割することで、約50~70領域に分割した細かな評価ができます。そのため切羽の変状や崩落に対応するための局所的な手当てを行うことができます。人間が同様に切羽を細分化して評価するには多くの時間を要しますが、本システムでは即座に細部まで評価できることから、工事の安全性と経済性が向上します。

クラウドシステムの概要

岩盤力学と地質学の専門家の評価結果と同程度の高精度な評価が可能

約3,000枚の切羽の画像と専門家の評価結果をディープラーニングで学習させました。ディープラーニングのモデルには、信頼性の高い画像識別モデルであるAlexNet(※2)を利用しています。当該モデルで切羽の画像を評価させると、専門家が判断した評価結果との的中率は全7項目で70%以上(7項目の平均で84%、最も高い項目では90%超)となりました。また、各現場で取得したデータはクラウドサーバーに蓄積されるため、今後現場での実適用を通じて事例を増やし、評価結果の的中率向上をめざして半期ごとに学習データを更新していく予定です。

大林組は、AIやICTを積極的に活用し、少子高齢化に伴う技術者不足問題の解決や工事の安全性、経済性の向上に寄与すべく、技術開発を進めていきます。

  • ※1 ディープラーニング(深層学習)
    システムがデータの特徴を学習して事象の認識や分類を行う「機械学習」の技術。ニューラルネットワークと呼ばれる、人間の複雑な脳の構造を模した数学モデルを多層化することで、システムが多量のデータから特徴や類似性を学習し、新たなデータを分類・判定する
  • ※2 AlexNet
    トロント大学で画像の識別を目的として開発された多層型ニューラルネットワーク。2012年のILSVRC(International Large Scale Visual Recognition Challenge)のコンペティションで優勝したことから、その後の深層学習が脚光を浴びるきっかけとなった

以上

この件に関するお問い合わせ先
大林組 CSR室広報部広報第一課
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