技術研究所環境工学実験棟「多目的風洞実験装置」と「音響実験施設」を更新しました

突風災害への対策提案や高性能な遮音構造の開発のための新たな対応

プレスリリース

株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、近年多発している突風災害への対策の提案、高性能な遮音構造の開発をめざして、技術研究所(東京都清瀬市)内にある環境工学実験棟のリニューアル工事とともに、「多目的風洞実験装置」と「音響実験施設」を更新しました。

環境工学実験棟は、人とそれを取り巻く環境に関する技術開発を行うための施設で、風・音・光・熱・煙・生物などに関連した実験を行うことができます。1992年の竣工以来25年以上が経過し、建屋の老朽化だけでなく、この間の地球規模での大きな環境変化や、それに伴って猛威を振るう予測不能な自然災害への対応といった新たな研究課題に取り組むためには、既存の装置・機器だけでは十分な実験が行えないという課題がありました。

今般、安全・安心な社会の実現と持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け新たな課題を解決するため、同実験棟のリニューアル工事(※1)を行うとともに、多様な気流を発生させる「多目的風洞実験装置」や、快適な音環境を実現するためにさまざまな実験を行う「音響実験施設」を更新しました。

   

「多目的風洞実験装置」と「音響実験施設」の特長は以下のとおりです。    

世界初の実験装置で複雑な気流を再現し突風への対策を提案

多目的風洞実験装置は、建物周囲の風の流れや、建物に作用する風の力を評価するための実験装置です。今般、対策ニーズが増加している風切り音に関する実験をより高い精度で行うため装置全体の静音化を図るとともに、多様な気流を発生させる「マルチファン型非定常気流風洞装置」を増設しました。

多目的風洞実験装置の概要

この装置は、81個の小型ファンの回転数や回転方向を個別に制御することでさまざまな気流を容易に作り出すことができる「マルチファン風洞装置」と、積乱雲の発達の際に生じる下降気流を発生させる「ダウンバースト発生装置」、または竜巻を発生させる「竜巻発生装置」を組み合わせて同時に稼働することができます。

これにより、従来の風洞では不可能だった複雑な気流を再現することができる世界初の実験装置です。ダウンバースト発生装置や竜巻発生装置はガイドレールに沿って移動させることが可能で、マルチファンと同時稼働させることで風に乗って移動するダウンバーストや竜巻を再現することができます。突風現象そのものだけではなく、現象発生前の状況から再現することで、構造物への影響をより正確に評価することができます。

ダウンバーストや竜巻といった突風は、近年その被害が多く報告されるようになってきましたが、いまだその実態は解明されていません。今後、これらの装置を用いて突風荷重の評価や対策技術の開発に役立てていきます。

 

  • マルチファン型非定常気流風洞装置の外観

  • 竜巻発生装置による竜巻状旋回気流

残響室の形状を国際基準に準拠させ、試験体カセットを設置する自動搬送クレーンも配備

音響実験施設は無響室と残響室で構成されています。残響室は2つの実験室で構成されており、その間に設けられた開口部に建築部材などの試験体を設置することで、遮音性能(試験体がどの程度音を透過させるのか)を測定します。今般、JIS規格(JIS A 1416)(※2)に合致するものの、竣工当時実績の多かった並行面がない7面体(5角形の平面、壁5面と床、天井)の形状であった残響室を、近年主流となっている国際基準ISO(ISO 140)(※3)にも準拠した直方体の形状に更新しました。実際の部屋に近い形状とすることでより現実的な評価結果が得られること、また単純な形状であることから実験結果を理論的に解析することが容易となります。

また、従来は実験の都度、開口部で試験体である壁などを施工していましたが、更新に伴い試験体カセットと自動搬送クレーン(最大積載荷重9t)を導入しました。

残響室自動搬送クレーンの概要

あらかじめ別の場所でカセットに試験体を設置し、クレーンで開口部に挿入することで実験が可能です。カセットの厚さは試験体のサイズに合わせて3種類、計6枚あり、厚さの異なる6枚のカセットに対応できる装置は日本初です。試験体の入れ換えに施工が不要となることから、複数の試験体の比較検討を短時間で効率よく実施できます。

これらの更新で遮音性能の測定が合理化されたことを受け、今後はより高性能な遮音構造の開発を行います。また、残響室の躯体を活用して床衝撃音や、振動が建物の躯体を伝搬し室内に騒音として現れる固体伝搬音に関連する実験も実施し、基礎的な知見を蓄積のうえ、躯体の振動およびそれに伴う音圧などに関した数値シミュレーションに基づく予測手法の確立をめざします。

 

  • 2つの残響室と試験体カセット

  • サイズの異なる6枚の試験体カセット

大林組はリニューアルされた環境工学実験棟において、新しい実験的課題に積極的に取り組み、より広範囲な現象の再現による問題点の抽出と効果的な対策の立案を通して、安全・安心で持続可能な社会の実現に努めていきます。

  • ※1 環境工学実験棟リニューアル工事
  • 建物概要  延べ面積4,289m²、地上4階、地下2階、SRC造
    工事概要
    • 屋上 防水工事と屋上緑化(ビオテラス)の改修
    • 3階 執務室と会議室を屋内環境実験室とサーバー室に変更、サーバー室内にはスーパーコンピュータを設置
    • 2階 執務室を技術展示室に変更
    • 1階 音響実験施設の更新、環境実験プラザに天井クレーン追加、ロビーの一部を緑化実験室に変更
    • 地下 多目的大型風洞実験装置の更新とマルチファン型非定常気流風洞装置の追加
    • 外壁 1階ロビーの装飾パネルおよび2階技術展示室の床に大判の人工大理石を使用
  • ※2 JIS A 1416
    長い残響時間を持ち十分な拡散音場が得られる室とする。音源室、受音室の容積は少なくとも100m³とし、150m³以上とするのが望ましい
  • ※3 ISO 140
    部屋の全体の形状は直方体。形状が比較的単純(整形)で実際の部屋形状に近い

以上

この件に関するお問い合わせ先
大林組 コーポレート・コミュニケーション室広報第一課
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