世界初、ドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術実証試験に成功

水素社会の実現に向けて水素発電の性能を向上

プレスリリース

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
川崎重工業株式会社
株式会社大林組

NEDOと川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)、株式会社大林組は、「水素社会構築技術開発事業」において、川崎重工が開発した「マイクロミックス燃焼」技術を活用したドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術実証試験を5月に開始し、これに世界で初めて成功しました(※1)。ドライ燃焼方式は従来式よりも発電効率が高く、NOx排出量も低減することができます。

本水素ガスタービンから発生した熱と電気を近隣施設に供給するシステムの技術実証についても今秋から神戸市ポートアイランドで開始する計画であり、ドライ燃焼方式による水素発電の安定運用、および発電効率や環境負荷低減効果などの性能を検証していきます。

ドライ低NOx水素専焼ガスタービンの実証試験プラント

水素は、ガスタービンによる発電や燃料電池自動車などさまざまな用途での利用が可能で、エネルギーとして利用する際にCO2を排出しない特性があるため、究極のクリーンエネルギーとして将来の中心的な役割を担うことが期待されています。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は水素社会の実現に向けた取り組みの一環として「水素社会構築技術開発事業」を進めています。その中で、2017~2018年度にかけて、川崎重工と大林組は、水素と天然ガスを併用する発電方式を水素発電導入期に需要が見込める技術と捉え、神戸市や関西電力株式会社などの協力を得て、局所的な高温燃焼の発生によるNOx生成を抑制するため「水噴射方式」を採用し、天然ガスと水素の混焼から水素専焼まで対応できる水素ガスタービンの実証試験を実施してきました。この実証を通して、世界で初めて神戸市ポートアイランドにおいて水素専焼による市街地への熱電併給も達成(※2)しております。

2019年度からは、ドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術開発を実施しており、今般、川崎重工が開発したドライ低NOx水素専焼ガスタービンの技術実証試験に世界で初めて成功しました。今回の新たな実証試験では、水素発電のさらなる発電効率の向上や環境負荷の低減(窒素酸化物(NOx)の排出量の削減)を目的として、ドライ燃焼方式による水素専焼発電の技術実証を行います。

従来の水噴射方式では、NOx排出量を抑えるために火炎の高温部へ水をスプレー状に噴射していましたが、水の蒸発による発電効率の低下を伴います。ドライ燃焼方式は水噴射方式に比べて発電効率が高くNOx排出量も低減できる一方、燃焼速度が速い水素燃焼において火炎の逆流を抑えながらいかに燃焼を安定させるかが課題でした。

そこで、川崎重工が開発を進めてきた微小な水素火炎を用いた燃焼技術「マイクロミックス燃焼」を活かし、世界で初めてドライ低NOx水素専焼ガスタービンを開発し、2020年5月から神戸市ポートアイランドで実証試験を開始しました。この水素ガスタービンと排熱回収ボイラを組み合わせたコージェネレーションシステムからは、約1,100kWの電力と、約2,800kWの熱エネルギーを蒸気または温水にて周辺の公共施設へ供給することができます。

ドライ低NOx水素専焼ガスタービンと「マイクロミックス燃焼」のイメージ

実証運転は2020年5月から2020年度末まで断続的に行い、ドライ燃焼方式による水素発電の安定運用、および発電効率や環境負荷低減効果などの性能を検証する予定です。ガスタービンの技術実証と併せて、燃料となる「水素」と地域コミュニティーの近隣施設で利用する「熱」と「電気」を総合管理し、経済性や環境性の観点から最適制御するための統合型エネルギーマネジメントシステム(※3)の実証も今秋から実施し、将来の事業性に対する評価を行います。

また、大林組では、-253℃(1気圧)の液化水素の冷熱を有効活用するシステムの研究も実施します。ガスタービンの運転のために必要な水素は液化水素を蒸発器で気化させて取り出しますが、現状では、蒸発器から放出される冷熱のエネルギーを有効に利用できていません。また、ガスタービンは夏季など外気温が高くなると吸気温度も上がるため発電出力が低下してしまいます。さらに、液化水素の蒸発器は外気との温度差により着霜してしまい、除霜のため運転停止が必要になるといった課題もありました。

今回研究するシステムでは、液化水素を気化したときの冷熱を、ガスタービンの吸気の冷却に活用することで、電力需要の高い夏季における発電出力と発電効率が向上します。また、中間熱媒体(プロパンガスなど)を用いて液化水素から冷熱を取り出すことで蒸発器の着霜を回避でき、連続運転も可能となります。このシステムが将来的に実用化されると、液化水素の冷熱を無駄なく活用することができ、エネルギーマネジメントシステム全体の高効率化に貢献できます。

液化水素冷熱活用ガスタービン吸気冷却システムのイメージ

NEDOと川崎重工、大林組は、水素のエネルギー利用の拡大による水素社会の実現に向けて、地域コミュニティーにおける効率的なエネルギー利用につながる新たなエネルギー供給システムの確立をめざし、本事業を着実に実施していきます。

【実証事業の概要】

事業名 水素社会構築技術開発事業/大規模水素エネルギー利用技術開発/ドライ低NOx水素専焼ガスタービン技術開発・実証事業
実施期間 2019年5月~2021年2月
開発内容 1) ドライ低NOx水素専焼ガスタービンの運転実証
・ドライ燃焼方式水素ガスタービンの運転実証(川崎重工)
・統合型エネルギーマネジメントシステムの実証(大林組)
2) 冷熱活用システム検討(大林組、大阪大学・関西大学(共同研究者))
  • ※1 世界で初めてドライ低NOx水素専焼ガスタービンを開発
    公表されているガスタービンメーカーの公開資料を基に川崎重工にて調査
  • ※3 統合型エネルギーマネジメントシステム
    ビルや工場などで省エネを図るために、ITを活用してエネルギーを最適に制御するシステム

以上

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大林組 コーポレート・コミュニケーション室 広報課
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