大林組は、日本原子力研究開発機構(JAEA)と「マルチ光計測プローブを用いた掘削影響領域の長期モニタリングとその評価」の共同研究として、北海道天塩郡の幌延深地層研究センターの深度350mの地下施設で掘削影響領域の長期モニタリングを開始しました。「マルチ光計測プローブ」はレーザック(東京都文京区)と共同開発した計測ツールです。
高レベル放射性廃棄物を対象にした地層処分や大土被りの山岳トンネルでは、アクセス坑道として大深度立坑や水平坑道を地下深部に建設することになります。建設に伴い、発破や掘削によって、立坑や水平坑道の壁面周辺の岩盤は大なり小なり「ゆるみ」と呼ばれる損傷を受け、岩盤内に細かな割れ目が発生することで強度低下や、透水性増大のリスクが大きくなることが予想されます。
また、この損傷は、空洞掘削完了後に地震などの外部からのかく乱によって拡大し、空洞の安定性が損なわれたり、地下水の流れが変わる懸念があります。そこで、長期モニタリングが可能な計測ツールの開発が待たれていました。
大林組とレーザックは、1本のボーリング孔内で岩盤の力学的挙動と地下水流動を同時に計測できる新しい長期モニタリングツールを開発しました。岩盤の力学挙動計測には「光式AE(※1)センサー」を、地下水挙動計測には「光式間隙水圧センサーと光式温度センサー」をそれぞれ使用します。
従来の計測技術は電気式であるため、高湿度条件下や可燃性ガス噴出環境下の使用が課題でした。また、1本のボーリング孔内には同種の計測センサーしか配置されておらず、ボーリング費用の削減が課題でした。
今回、センサー素子ならびに信号経路に電気を全く利用しない光ファイバーを利用することで、高湿度条件下や可燃性ガス噴出環境下で特別な処置を施すことなく長期モニタリングが可能となります。また、1本のボーリング孔内で3種類の異なるセンサーを配置することでボーリング費用の大幅な削減が可能です。幌延深地層研究センター地下施設の深度350mでは、長期モニタリングの必要性とメタンガス噴出の懸念から、光計測が選ばれました。
光式AEセンサーの実適用は、愛媛県今治市の波方国家石油ガス備蓄基地(発注:石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の岩盤健全性モニタリングに続き2件目です。波方では設置後6年を経過していますが、伝送トラブルなどなく、正常に稼働しています。
大林組は、今回の共同研究を基に、放射性廃棄物地層処分や大土被りの山岳トンネルの長期モニタリングツールとして積極的に提案・展開し、安全・安心な社会の実現に貢献していきます。
- ※1 AE(Acoustic Emission)
岩石や岩盤をはじめとする固体材料に何らかの外力が作用して変形が生じる過程で、材料内部からは微小破壊音、電磁波、熱が発生することがあります。特に、微小破壊音である弾性波動(ほとんどは人間が聞き取れない超音波)が発生する現象を、AEと称しています