山岳トンネルの防水シート張り付け作業における自動展張システムを開発しました

壁面形状に追随可能な展張機能により生産性向上・省人化、高品質な施工を実現

プレスリリース

株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、株式会社東宏(本社:札幌市東区、社長:小林雅彦)、国際紙パルプ商事株式会社(本社:東京都中央区、社長:田辺円)と共同で、山岳トンネルの防水シート張り付け作業を効率化し、高品質な施工を実現する「壁面形状追随型長尺防水シート自動展張システム」(以下、本システム)を開発しました。

模擬トンネルでの防水シート張り付け試験状況

今後予測される人口減少や少子高齢化に伴って、山岳トンネル技術者や熟練作業員などの技能労働者が不足するという業界全体の課題に対応するためには、より一層の生産性向上を実現する自動化技術の開発と普及が求められています。

現在大林組では、あらゆる山岳トンネル工事の施工現場で適用できる山岳トンネル自動化システムの開発に取り組んでいます。山岳トンネル工事全体を自動化することで生産性向上を図るもので、国土交通省が推進しているi-Constructionの山岳トンネル工事における具体化技術として実用化をめざしています。システム開発にあたっては、山岳トンネル工事を掘削作業と覆工作業の2つに分類し、掘削では「安全性向上と省人化」、覆工では「省人化と品質向上」をテーマ(目標)としています。さらに掘削に係る作業および覆工に係る作業を複数の分野に分け、それぞれの要素技術の開発を進めています。

本システムは山岳トンネル自動化システムの第一弾で、覆工技術分野の一つ「防水シート張り付け技術」として開発したものです。

山岳トンネル工事では、トンネル完成後における周辺地下水の円滑な排水や覆工面への漏水防止、覆工と地山の縁切り(アイソレーション効果(※1))によるひび割れ抑制などを目的として、覆工打設前の吹付けコンクリート面(以下、壁面)に防水シートを張り付けます。

従来の防水シート張り付け作業では、作業台車最上段から壁面に沿わせて下に垂らしたロール状の防水シート(汎用品で幅約2.2m)を、1枚1枚人力で壁面に広げながら押し付けて釘打ち機で固定し、トンネルの全周にわたり隣り合う防水シートと溶着していました。溶着は、十分な止水性と均一な接合強度が求められる重要な作業ですが、例えばトンネル奥行き方向10m程度の施工では5回の全周溶着が必要になり、多くの労力がかかっていました。また、防水シートを壁面の凹凸に対して余裕のない状態で固定すると、覆工コンクリート打設時に突っ張った状態になり、天端部での空隙の発生や防水シートの破損が懸念されることから、凹凸に追随できる適度な余裕を形成して固定する高度な熟練技能が必要でした。

今回開発した本システムでは、幅10.5mの長尺シートを採用できることに加えて、防水シート展張時に必要とされる適度な余裕を特殊な装置で確保することができます。山岳トンネルの防水シート張り付け作業を急速化・省人化するとともに、施工品質も確保します。

模擬トンネル(延長約20m、断面積約70m²)にて本システムを適用した結果、作業性および要求品質が確保されていることを確認しました。

   

本システムの特長は以下のとおりです。    

長尺防水シートの採用による防水品質の確保と作業時間短縮

本システムは、全幅10.5mとした長尺防水シートを採用することで、施工現場での溶着作業が従来と比べて5分の1で済むため、作業時間を短縮するとともに防水に関わる品質を確保します。

防水シート展張作業の自動化による省人化と作業時間短縮

本システムでは、蛇腹折りしてロール状に巻いた長尺防水シートを作業台車の下部に設置し、ウインチでトンネル周方向に引き上げて曲面形状の架台に仮置きします。釘打ち機による固定作業の進行に伴い作業台車を前進させ、折りたたまれた防水シートを広げ、送風機で膨らませたバルーンで壁面に押し付けることで自動展張します。防水シートの展張作業を自動化することにより作業人員の縮減と作業時間の短縮が図れ、長尺防水シートを採用する効果と合わせて作業効率が40~50%向上します。

  • 蛇腹折りしたロール状防水シート(台車下部)

  • ロール状防水シート引き上げ状況

壁面形状追随型長尺防水シート自動展張システム
長尺防水シート展張・固定手順

壁面の凹凸への防水シートの追随性が向上することによる施工品質確保

本システムでは、作業台車上に仮置きした展張前の防水シートに特殊な引き込み装置で計画的に緩みを持たせることで、張り付け時の適切な余裕を形成します。壁面の凹凸に追随して防水シートを張り付けられるため、高い施工品質を確保できます。また余裕量を計画的に管理できるため防水シート材料のロス(注文長と施工長の差)を削減します。

引き込み装置の全体図および拡大図

今後、大林組の施工する山岳トンネル工事に本システムを積極的に導入して、生産性向上・省人化、施工品質の確保を図ることで熟練技能労働者の不足や高齢化に対応します。さらに山岳トンネル自動化システムを早期に実現することで、安全・安心な社会インフラの構築に貢献してまいります。

 
  • ※1 アイソレーション効果
    覆工コンクリートと吹付けコンクリート面(壁面)に防水シートなどを挟み、互いを付着させず縁切りすることでひび割れ発生を防止する効果。コンクリートは硬化する過程でセメントの化学反応による熱を発生し、熱膨張するため、硬化が進んで温度が低下した時に、覆工コンクリートが吹付け壁面に付着し拘束されていると、トンネル内部側だけが収縮しバランスの悪い収縮となりひび割れ発生の原因となる

以上

この件に関するお問い合わせ先
大林組 コーポレート・コミュニケーション室広報第一課
お問い合わせフォーム

プレスリリースに記載している情報は、発表時のものです。