宇宙エレベーターのケーブル向け材料の2回目の宇宙実験を実施
宇宙ステーション/「きぼう」日本実験棟において改良型カーボンナノチューブを曝露
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プレスリリース
株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、国立大学法人静岡大学(所在地:静岡市駿河区、学長:石井潔)、有人宇宙システム株式会社(本社:東京都千代田区、社長:古藤俊一)と共同で、宇宙エレベーターのケーブル材料向けに改良したカーボンナノチューブ(以下 CNT(※1))の宇宙環境曝露(ばくろ)実験を行っています。
この実験は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下 JAXA)の「簡易曝露実験装置(ExHAM)(※2)」の利用テーマとして実施しており、国際宇宙ステーション(以下 ISS)/「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームを利用しています。
大林組が2012年に発表した宇宙エレベーター建設構想では、軽量かつ高強度のCNTを、総延長96,000kmに及ぶ宇宙エレベーターのケーブルとして利用することを想定しています。宇宙空間におけるCNTの耐久性を確認するために2015年から2017年の2年間にわたり行ったCNTの宇宙曝露実験では、原子状の酸素(※3)が衝突したと考えられる損傷が見られました。さらに、ISSの進行方向の前面で曝露したCNTより糸(多層カーボンナノチューブ繊維をより合わせたもの)が、背面で曝露したものよりも大きく損傷したことを確認しました。
この結果を受け、CNTに改良を加えた試験体を用いて、現在2回目の宇宙環境曝露実験を実施しています。今回の実験では、CNTより糸を金属系とケイ素系の2種類の材料で被覆した試験体をそれぞれ作製し、損傷度合いを確認します。
各材料の特長は以下のとおりです。
金属系材料
金属系材料は、宇宙空間での耐環境性が高いため、長期にわたって対象物を保護することが可能で、物質が放出されることもないため宇宙空間を汚染する心配もありません。被覆の加工性にも優れており、被覆の厚さの調整や長いケーブルへの連続的な被覆加工も容易です。金属は比重が大きいため被覆することによりケーブルの重量は大きくなりますが、設計条件を調整することにより宇宙エレベーターにも適用可能だと想定しています。(実験協力先:学校法人早稲田大学理工学術院、日立造船株式会社)
ケイ素系材料
人工衛星用材料の保護のために開発されたもので、金属系材料と比べると軽量で、加工性がよく、柔軟性と変形追随性にも優れています。人工衛星のシート状の外装材として宇宙空間での使用実績があるため、その劣化度合いと今回のより糸状の試験体による実験結果から耐用年数を予測し、適切な交換時期に基づいたメンテナンス計画を立てることが可能です。(実験協力先:東亞合成株式会社)
今回の実験では、上記2種類の試験体を、ISS進行方向の前面と背面で、それぞれ1年間および2年間曝露します。試験体は2019年夏にドラゴン補給船運用18号機(SpX-18)で打ち上げられました。2020年夏以降に1年目、2021年夏以降に2年目の試験体が帰還予定です。回収した試験体に対し、詳細な分析を進め、前回の実験結果とも比較しながら損傷度合いを評価していきます。
これからも大林組は、宇宙エレベーターをはじめとする宇宙インフラ建設の実現をめざし、先端材料の活用や、それを活かした新技術の開発などに積極的に取り組み、社会の発展に貢献していきます。
- ※1 カーボンナノチューブ(CNT)
軽量(鉄筋の3分の1~4分の1)、高強度(鉄鋼の約20倍の引張強度)、高導電性(銅の100倍以上)、高熱伝導性(銅の5倍以上)などの特性がある素材で、将来鉄筋の代替や橋梁を支えるケーブルなどの用途での活用が検討されている
- ※2 簡易曝露実験装置(ExHAM) 10cm角程度の供試体を最大20個搭載して、「きぼう」船外の手すり棒を活用して宇宙曝露実験を行うための装置
簡易曝露実験装置(ExHAM)(宇宙航空研究開発機構ウェブサイト)
- ※3 原子状の酸素
ISSが周回する地上400km付近は、地球上の大気が希薄に存在しており、太陽からの紫外線の影響で分解された酸素分子(O2)が原子(O)の状態で存在している。原子状の酸素が衝突すると、有機系材料の表面から浸食されることが知られている
以上
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大林組 コーポレート・コミュニケーション室 広報第一課
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