燃料電池自動車MIRAIの技術を応用した高圧容器で水素運搬効率を大幅に向上

水素の都市インフラ化に向けて、市街地の水素ステーションで70MPaまで充填

技術・ソリューション

大林組は「既存のインフラを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築・実証事業」(環境省委託事業)において、国内で初めて市街地の水素ステーションで高圧容器に70MPaまで水素を充填(てん)し、運搬効率の大幅な向上を実現しました。

今回の取り組み

大林組は、「水素搬送管理エネルギーマネジメントシステム(EMS)」(※1)を構築し、2022年4月から、福島県双葉郡浪江町にある「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)(※2)」で製造された水素を町内複数の拠点に効率的に搬送する実証運用を行っています。2024年には、水素供給ネットワークの環境性・経済性・安全性を向上させる新たな実証運用を始め、2024年11月から、一度に搬送できる水素量を増やすため、トヨタ自動車が燃料電池自動車MIRAIで採用している高圧水素貯蔵技術を応用した最高充填圧力70MPaの高圧容器(以下、本容器)を利用した搬送実験を開始しました。

従来は、最高充填圧力19.6MPaの一般的な高圧ガス容器を利用していましたが、本容器を併用することにより、搬送量の増加だけでなく、圧力差を利用したカスケード利用(※2)が実現可能となりました。大林組は、本容器利用による、さらなる水素供給のネットワーク最適化を図るため、EMSのバージョンアップを行いました。

水素ステーションでの充填の様子

最高充填圧力70MPaの高圧容器の特長とその効果

本容器は、MIRAIと同様に充填装置と通信する機能があり、容器の異常を検知した場合は充填を停止するなど、水素ステーションで安全に水素を充填できる充填口を備えています。

本容器の使用により一度に運べる水素量が増え、水素ステーションから水素利用先までの搬送の回転率を向上させることができます。その結果、トラック搬送に係る人件費や燃料費をそれぞれ4~5割程度削減できます。

最高充填圧力70MPaの高圧容器

また本容器は、FC(燃料電池式)フォークリフト向けの差圧充填や、他の水素貯槽(水素吸蔵合金も併用)に水素を短時間で移充填ができるなど、圧力差を利用したカスケード利用が可能です。一般的な高圧ガス容器を利用する場合、最高充填圧力35MPaのFCフォークリフトは加圧充填装置が必要でしたが、カスケード利用の場合は不要となることから、FCフォークリフトの導入時コストを大幅に削減することができます。

水素供給ネットワークにおけるカスケード利用のシステム構成図

今後の展望

今後、水素需要が拡大・多様化すると、水素を効率よく多く運ぶための高圧性と、それぞれの搬送先の需要量に応じる柔軟性が求められ、それらを最適化できるEMSの意義がより高まることが予想されます。

大林組は、EMSと最高充填圧力70MPaの高圧容器などを用いた水素搬送の実証に引き続き取り組むことで、水素サプライチェーンの拡大、水素利用の普及を推進し、脱炭素社会の実現に貢献します。

  • ※1 水素搬送管理エネルギーマネジメントシステム(EMS)
    水素搬送車両に装着したGPS端末から搬送状況を把握し、車両の発着スケジュールに合わせてプラントを停止せずに効率よく連続運転できる制御システム
  • ※2 福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
    2020年4月から稼働している太陽光エネルギーを利用した世界最大級の水素製造プラント
  • ※3 圧力差を利用したカスケード利用
    高圧圧力を利用してFCフォークリフトや燃料電池へ供給ラインを切り替えながら減圧装置を介して差圧充填すること