解体建物の構造部材をリユースした実験棟「オープンラボ3」、第1期部分が完成
環境配慮型建築の新たな一歩
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技術・ソリューション
大林組は、建物解体後、通常は溶解や破砕される鉄骨やコンクリート製の構造部材を新築建物の構造体にリユースした大林組技術研究所(東京都清瀬市)の実験棟「オープンラボ3」の建設を進めており、2025年6月30日に、構造体の大部分をリユース材で構成する第1期部分が完成しました。
背景
2050年カーボンニュートラル実現に向け、建設業界ではCO2排出削減に向けたさまざまな取り組みを進めています。大林組では、「持続可能な社会の実現に貢献する」という企業理念のもと、Obayashi Sustainability Vision2050を策定し、脱炭素社会や循環型経済(※1)の実現に向けた技術開発や施策に取り組んでいます。
オープンラボ3新築工事の第1期部分では、解体建物から鉄骨やコンクリート製の構造部材を取り出し、元の形状と性能を生かして新築建物の構造体としてリユースする国内初の取り組みを行いました。
オープンラボ3新築工事の第1期部分の概要
構造部材の取り出し(既存建物解体時)
技術研究所内の既存建物(電磁環境実験棟)を解体する際に、事前に部材の状態を調査し、ほぼ全ての部材が再利用可能であることを確認しました。解体建物からリユース可能な状態で確保するため、切断位置の検討や運搬時の荷重のかけ方に細心の注意を払いながら作業を実施しました。
鉄骨部材については既存のボルト接合のボルトを1本ずつ丁寧に取り外すことで分解し、コンクリート部材については、運搬に適した寸法で切り出しました。
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既存建物の折板(せっぱん)屋根の取り外し
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既存建物の鉄骨部材の取り出し
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既存建物のコンクリート床の取り出し
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既存建物の基礎部の取り出し
取り出した構造部材の検査・加工(新築建物施工前)
既存建物を解体して取り出したコンクリートはいったん隣接地の資材保管場所へ、鉄骨は鉄骨工場に運び、そこで新築建物の骨組みとしての加工と損傷・劣化の確認、外形寸法の確認などを行いました。いったん敷地外に運び出すことにより、遠隔地での計画にリユースする場合の検証も行いました。
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取り出した基礎部の保管状況
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コンクリート製部材の鉄筋はつり出し
施工
リユースするコンクリートの基礎・基礎梁・床についてはプレキャスト部材と同様に設置精度の確保や接合部の微調整を行いながら配置し、接合部分に新規のコンクリートを打設することで新築計画の平面形状に合わせた骨組みとしました。
また、地上の鉄骨についてもリユース鉄骨を主体として、不足する部分に新規の部材を追加しました。通常の鉄骨工事と同様の組み立て手順で施工でき、既存部材のリユースであることの制約はほとんどありませんでした。
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リユース基礎部の据え付け作業
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設置されたリユース基礎部
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鉄骨の組み立て
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仕上げ工事前の内部(黄色鉄骨がリユース材)
完成

解体建物からリユースした構造部材は、新材と外観上の違いがほとんどなく、完成後には判別が困難であるため、鉄骨のリユース材には赤色の塗料を施し、視認性を高めることで識別可能な状態としました。
今回の工事では、解体建物の実験棟から取り出した部材を新築の鉄骨作業場に転用しており、クレーンを設けるなど用途が大きく異なる建物であっても、リユース材による柔軟な設計・施工が可能であることを実証しました。
今後の展望
今回の工事を通じて、構造部材リユースに関するコスト圧縮や工期短縮に適した部材の選定、部材の取り出し方法など、さまざまな実践的なノウハウを蓄積しました。また、大林組が利用する資源循環データプラットフォームmyUpcyclea(マイアップサイクリア)と連携し、部材のトレーサビリティや再利用履歴の可視化、リユース材の品質管理の高度化にも取り組んでおり、構造部材の再利用をより信頼性の高いものとする体制づくりを進めています。
大林組は、今後これらの知見を積み重ね、技術の精度と効率性を高めながら、脱炭素社会と循環型経済の実現に一層貢献していきます。
- ※1 循環型経済
資源(製品や部品などを含む)を循環利用し続けながら、新たな付加価値を生み出し続けようとする経済社会システム。循環型経済への移行によって、廃棄物などの発生抑制・循環資源の再使用・再生利用(3R)やバイオマス化・再生材利用などの資源循環の取り組みが進めば、2050年カーボンニュートラル実現の達成に貢献する