トンネル覆工裏込め注入工法「スペースパック工法」で湧水に対応する新材料を開発しました

水環境への影響を抑え低価格でトンネル補修工事が可能

プレスリリース

株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、湧水のあるトンネル補修工事において、周辺の水環境へ影響を与えずに「スペースパック工法」を適用するため、従来のミルクタイプ注入材を低アルカリ化・高粘性化した低価格の新しい材料を開発しました。

新材料の流水における材料分離抵抗性実験の様子

近年、インフラの老朽化が社会問題となっており、補修・修繕工事や耐震補強工事が急ピッチで進められています。トンネル構造物においても、老朽化によって覆工コンクリートと背面地山との間に空洞ができると、地山との一体化が損なわれて覆工コンクリートに作用する土圧に偏りが生じ、ひび割れなどの変状を発生させる原因となります。

「スペースパック工法」は、可塑性(静置状態では形状を保持するが、振動・加圧により容易に流動する特性)を持つ一液性の注入材を充てんすることで、これらの背面空洞を確実にふさぎ、トンネル構造物の耐久性・安定性の向上を実現する技術です。

「スペースパック工法」で従来使用していた注入材は、安定して調達が可能な2種類の粉体系材料を施工時に混ぜるだけで少量から製造でき、低コストかつ効率が良い材料です。しかし、流水に浸ると注入材が溶出してしまい、水中のpH値の上昇(高アルカリ化)や濁りが発生するため、湧水のあるトンネル補修工事ではコストが高い非セメント系の注入材を用いた別の工法を採用することが一般的でした。

今回、大林組は従来の注入材の配合比率と一部材料を変えることで品質強度を保ちつつ低アルカリ化・高粘性化させた新たな注入材を開発しました。新たな注入材は、流水に浸っても溶出しにくくpH値の上昇や濁りを抑えられることから、湧水のあるトンネルの補修工事でもコストの低い「スペースパック工法」の適用が可能となります。

すでに大林組が参画するスペースパック工法研究会(事務局:株式会社テクノ・ブリッド、所在地:東京都渋谷区)を通じて、湧水のある鉄道トンネルで現在施工を進めております。

新開発のミルクタイプ注入材の主な特長は以下のとおりです。

周辺の水環境への影響を抑え施工できます

従来の注入材は、セメント系結合材(※1)と特殊増粘材の粉体系材料2種類を混ぜ合わせて製造するもので、静水中や緩やかな流水中では材料が分離することはないものの流速が大きくなると材料が溶出してしまい水中のpH値が上昇(高アルカリ化)するとともに濁りが発生します。

今回開発した注入材は、従来タイプよりセメント量を大幅に減らすとともに配合を変えた高粘性の特殊増粘材を使用することで、低アルカリ化・高粘性化を実現しました。そのため、流水中でも溶出せず水質汚濁防止法で定められた排水基準(pHは8.6以下、SS(※2)は200mg/L以下)を満たすことから、周辺の水環境への影響を抑えることで坑内排水を農業用水などに利用する場所でも施工ができます。

材料コストを削減できます

今回開発した注入材は、湧水区間での施工に使用されている非セメント系注入材と比較して半額以下の材料費で配合することが可能です。

CO2排出量を低減します

従来の注入材よりセメントの量を減らし、代わりに産業副産物から成る混和材を加えたことで、製造過程におけるCO2の発生を抑制でき、環境負荷の低減に貢献します。

今回の開発により、「スペースパック工法」をトンネル背面からの湧水の有無に関わらず適用を可能とするとともに、トンネル以外の河川・港湾構造物などにも幅広く応用が可能となりました。大林組はこれからも、「スペースパック工法」を積極的に提案し、安全・安心に向けたインフラ整備、国土強靭化に貢献してまいります。

  • ※1 セメント系結合材
    主成分はセメントで、強度発現に寄与するもの
  • ※2 SS
    粒径2mm以下の水に溶けない懸濁性の浮遊物質量

以上

この件に関するお問い合わせ先
大林組 CSR室広報部広報第一課
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