正答率約94%、高精度な計測が可能なAI配筋自動検査システムを開発
ステレオカメラの動画撮影で複雑な配筋にも対応し、約36%の作業時間短縮
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プレスリリース
株式会社⼤林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、鉄筋コンクリート工事における配筋検査の省力化に向けて、ステレオカメラによる画像データと生成した点群データをもとに、AI自動計測技術で計測精度と作業効率を向上させた配筋自動検査システムを開発しました。
開発の背景
配筋検査は、適切に鉄筋が施工されているかを設計図面と照合し、品質的に問題がないか確認する重要な検査です。しかし、検査には事前準備から検査後の報告書作成まで多大な時間を要することに加え、施工管理者の知識と経験が必要です。また検査不具合やミスがあった場合に、その後の工事に大きく影響を及ぼすことから、精度の高い検査を自動化し省力化が求められています。
今回開発した本システムは、2018年に、大林組のオープンイノベーションによる研究開発拠点であるシリコンバレー・ベンチャーズ&ラボラトリ(Silicon Valley Ventures & Laboratory:SVVL)で、米国スタートアップ企業や研究機関とともに開発した次世代の自動品質検査システムがベースになっています。国内建設現場で配筋検査の実証を重ね、鉄筋の本数・径・間隔(ピッチ)の計測精度の向上を行うとともに、AIによる推定確度の可視化や自動計測機能などの追加を行うことで、検査業務の省力化につながるシステムを開発しました。
本システムの構成
本システムは、配筋を動画撮影するステレオカメラ(※1)を搭載した検査パッケージ、計算用サーバー、タブレット端末で構成されています。ステレオカメラで配筋を動画撮影し、切り出した画像データと計算用サーバーで生成した点群データを基に、鉄筋径・ピッチをAIによって自動計測します。計測結果は、タブレット端末に表示されるWebアプリ上でBIMに入力された設計情報と照合し、最終的に施工管理者が設計通りの配筋がされているかの合否判定を行います。また、BIMデータを使用するため、検査前データ作成を簡略化でき、検査結果は帳票として自動作成されるため検査報告書が容易に作成できます。
本システムでは熟練度によらない効率的な検査が可能となり、配筋検査業務にかかる延べ作業時間は現在使用している専用検査システムより、約36%の縮減を実現しました。
本システムの特長
AIによる鉄筋径の推定と推定確度の可視化
鉄筋径の計測には画像データと点群データを使用したAIによる推定を行います。本システムでは、AIによる推定結果の確度を色分け(推定確度高い:青、低い:橙)で可視化します。
実証では、AIが「推定確度高い:青」と回答した比率は91.5%、そのうち正答率は98.6%であり、「推定確度が低い:橙」を含んだ全体の正答率は94.0%でした。推定確度を可視化することで、施工管理者による再確認の指標として使用することができ、再確認にかかる作業時間の短縮にもつながります。
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推定確度全体高い低い回答の割合91.5%8.5%100.0%正答率98.6%41.7%94.0%
鉄筋径別の径推定の正答数・率とAIの推定確度
多段配筋の計測が可能
静止画撮影では前面の鉄筋に隠れた背面の鉄筋は計測できないため、背面の配筋検査後、前面の配筋を施工し、再度、前面の配筋検査をするなど、作業工程および検査が複数回、必要でした。
本システムは、動画撮影で視点を移動させることで背面の鉄筋を捉えることができ、1回で多段配筋の検査が可能になります。また、鉄筋と背景の境界認識技術を強化したことにより、現場の明るさの変化や複雑な配筋状況にも対応し、従来以上の精度で認識できるようになり、約1m奥に配置された配筋でも正確に計測できることを確認しました。
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動画撮影の様子
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多段配筋(背面)の計測結果
かぶり厚さの自動計測機能を追加
鉄筋の最外部からコンクリート表面までの長さを示すかぶり厚さは、構造上重要な値であり、この計測もまた配筋検査において重要な一項目です。本システムでは、任意の撮影方向からかぶり厚を自動計測できるようにしました。
今後の展望
本システムを自主検査に適用し実績を蓄積するとともに、さらなる高精度化に向け、AIによる推定精度の向上、ステレオカメラやタブレット端末の小型・軽量化、検査報告書の自動作成機能など機能向上を進めていきます。
また、自社利用だけでなく、本システムならびに本システムを使用した配筋検査業務をサービスとして外販することも検討しています。これらにより建設業全体のDX推進、建設現場の働き方改革に貢献していきます。
- ※1 ステレオカメラ
立体写真撮影用のカメラ。対象物を二つのカメラで同時に撮影することにより、その奥行き方向の情報も記録できる。ワンショットではなく連続的に動画撮影して視点を動かすことによって、奥に隠れた物体を検知することができる
以上
この件に関するお問い合わせ先
大林組 コーポレート・コミュニケーション室広報課
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