プロジェクト最前線

空高く、街をつくる

虎ノ門・六本木再開発「アークヒルズ 仙石山森タワー」

2012. 08. 28

2012年8月、東京の虎ノ門・六本木地区で建設を進めていた「アークヒルズ 仙石山森タワー」が竣工を迎えた。今ここで最盛期だった建設現場での様子(取材:2011年12月)を振り返る。

また一つ東京に新たな街が誕生する

いくつもの街がそれぞれの個性を見せて連なる都市、東京。その中にまた一つ、新たな街が姿を現した。

各国の大使館が点在する国際色豊かな虎ノ門・六本木地区。この地で行われている再開発事業は、「緑の生活都心」をコンセプトに、地域住民と事業者が一体となって進める街づくりだ。当地区を含む環状2号線新橋地区・赤坂・六本木地域は、国が定めた都市再生緊急整備地域に指定されており、完成後は緑地の整備によるヒートアイランド現象の緩和、都市基盤の整備のさらなる充実、防災性の向上なども期待されている。

街の中で日々その存在感を増す現場(手前の2棟)。右が47階建ての複合棟、左が8階(建築基準法上地上6階、地下2階)建ての住宅棟

1年2ヵ月を費やした土台固め。そして、いざスピード施工へ

超高層の複合棟。3階までは店舗が入り、24階までが住宅階、さらにその上が事務所階となる。短い工期内で確かなものを造り上げるために、この複合棟の進捗が大きなポイントになる。

約10mの段差を持つ敷地で、工事はスタートした。採られたのはオープン逆打ち工法だ。中央に大きなスペースを確保しつつ、掘削と躯体の構築を交互に繰り返し、地下1階、2階の順に構築した。ここで、今度は逆打ちから順打ちへ転換する。底部を目がけて一気に掘削し、底から上に向かって、地下4階、地下3階と躯体を組んだ。

10mの段差を持つ現場。敷地内を行き来するスロープを造り、工事は始まった

底部までの掘削を急いだのは、中心にプレキャストコンクリートの柱を建てるために、床の土台となるマットスラブの完成が必要とされたからだ。オープン掘削による大空間を活かし、大量の資機材を投入して行われた地下の工事には、土地の持つ難条件と規模の大きさに、1年2ヵ月が費やされた。

  • 中央に大きなスペースを確保した、オープン掘削の様子

  • 4.8m厚のマットスラブの施工。16ブロックを3層に分けて、2ヵ月かけてコンクリートを打設

プレキャストコンクリート(以下、PC)とは、事前に工場で生産されたコンクリート部材のこと。現場でつなぎ合わせるだけで躯体を組むことができて品質も確かだ。複合棟で適用されたのはLRV工法。柱と梁の接合部までをもプレキャスト化し、梁と接合部を一体化したLRビームと柱のPC部材であるVコラムを組み立てながら躯体を組み上げる工法で、大幅なスピードアップを図ることができる。

PC部材を組み合わせていくLRV工法。高層ビルを支えるため、高強度コンクリートが使われている

合言葉は「3日で1フロア」

現場の合言葉は「3日で1フロア」。柱・梁・床で形成される1フロア分の躯体を、3日で組み上げようということだ。ただ、この実現は簡単なことではなかった。皆で検討を重ね、改善を図りながら、まずは6日、次に5日と、徐々に施工スピードを速めていった。こうして3日での施工が軌道に乗った後、現場は次の局面を迎える。LRV工法からO-RCS工法への転換だ。

住宅階の上のオフィス階では、執務スペースの特徴である大空間が必要だ。このため、中心と外周の柱・梁には鉄筋コンクリートのPCを使用し、その間を21mもの長さを持つ鉄骨の梁でつないで大空間を創出する。これがO-RCS工法だ。工法の転換に合わせ「3日で1フロア」の方法も再検討。こうして複合棟は順調に高さを増していった。

大空間を生み出す21mの梁

「3日で1フロア」を実現するための工夫や取り組みはほかでも行われていた。

例えばエレベーター構築のステップアップ工法。本設のエレベーターの昇降路を利用して工事用エレベーターを設置し、建物の進捗に合わせて運転階を上げていく工法だ。通例、工事終盤に撤去する工事用仮設エレベーターを途中で撤去することが可能となり、撤去後の仕上げを、順次進めることができる。

また、組み上がる躯体を追いかけるように、下部の階から着々と進められる内装工事。フロアごとにパターンが違う住宅階には200を超える住居が存在し、おのおのが高級な設備を持つ。それぞれの納まりを一つずつ管理するという膨大な作業が目の前に山積していたが、出来上がりのイメージを糧にして作業を進めていった。

粘性体制震壁(右)と、大林組開発のブレーキダンパー(左)。複合棟のコア周りに配置され、互いに異なる制振効果でビルを守る。この設置も「3日で1フロア」のうちに入る

「ここにはたくさんの人の思いが詰まっている。それを感じながら発注者、監理者と最後まで連携して良いものを造り上げたい」と所長の楠原は語った。

外から現場を眺めれば、空高く伸びるその姿。そこにあるのは、この地に集う人々に、安心で快適な生活を送ってほしいと願う技術者たちの技と知恵だ。 こうして街はつくられ、やがて人々の暮らしに溶け込んでいく。

工事概要

名称虎ノ門・六本木地区第一種市街地再開発事業 施設建築物新築工事
場所東京都港区虎ノ門、六本木
発注虎ノ門・六本木地区市街地再開発組合
設計森ビル、入江三宅設計事務所、大林組、山下設計、建築設備設計研究所
概要複合棟:RC造・S造、B4、47F、PH付、住宅棟:RC造、B2、6F、総延14万3,550m2、283戸
工期2009年10月~2012年8月
施工大林組

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