プロジェクト最前線

空港にトンネルをつくる

第2木の根トンネル設置工事(その2)、木の根トンネル補強工事

2012. 10. 05

成田国際空港で進む、新設と補強、2つのトンネル工事。それはアスファルトの続く広大な敷地の片隅で技術を駆使して繰り広げられる、空港の基盤造りだ。

誘導路をこちらに向かってくる飛行機が現場の手前で迂回(うかい)する。掘削中の現場の真上を、その大きな翼が横切った。ここは巨大な飛行機が行き交う、成田国際空港の敷地内だ。 成田国際空港は、1978(昭和53)年に開港。以来、日本経済の国際競争力強化に大きく寄与し、首都圏および東アジアの国際拠点空港として、その役割を果たしてきた。今後、その機能をさらに高めていくためには、空港容量の拡大が不可欠とされる。

そこで、安全で効率的な空港運用に向けた整備工事が進められている。この整備によって国際航空ネットワークが拡充、現在年間23.5万回の空港容量が30万回までに拡大することが見込まれる。大林組が今ここで行うのは、その一環となる工事だ。

新たなトンネルを造る

誘導路を遮るようにあるのは、「第2木の根トンネル」の建設現場だ。誘導路の下に片側5.5 mのGSE通路を構築する。GSE通路は、航空機のけん引や積み込みなどを行う特殊車両の専用通路。これで飛行機が地上を占有、発着便の増強を図ることができる。

「飛行機の通り道周辺には制限区域が設けられています。誘導路から55m以内は立ち入り禁止で、高さ制限は40m。クレーンも置けず、その範囲にかかる作業は飛行機の往来がない夜間に行います」。現場を案内しながら副所長の山田が、空港特有の施工環境を説明する。現場は昼夜交代の24時間体制だ。

ここでは、大林組で開発を進めてきた「斜め自立土留め工法」を採用。実用の場として注目されている。

従来工法は掘削面の崩壊を防ぐ土留め壁として地盤に垂直に杭を入れ、垂直に掘削する。対してこちらは上に開いた角度で斜めに杭を入れ、それに沿って台形に掘削する。垂直の壁は土の圧力で内側に倒れようとするが、上に開くように傾斜した壁ではその力が低減される。従って従来工法で倒壊防止のために施す、グラウンドアンカー(※1)や切梁(※2)などが不要になるのだ。

材料も手間も省けて経済的、工期短縮も実現する画期的な工法だ。他現場への展開も期待されている。

  • 【従来工法】垂直の土留めが倒壊するのを防ぐため、壁を支えるグラウンドアンカーなどが必要

  • 【斜め自立土留め工法】土留め壁を傾斜して構築し、背面土圧を低減。土留め工の安定を確保することで支保工を省略できる

掘削完了後はトンネル躯体となるボックスカルバート(※3)を設置して土を埋め戻す。ボックスカルバートの設置は、まず6つのピースを組み立ててロの字型の一つのリングを造る。これをさらに、幾つか束ねて1ブロックとし、底に敷いた溝型のレールにパチンコ玉を並べたベアリングを利用して横引きする。今回は11ブロック施工したら、全体の完成だ。

空港内施工場所位置図
斜め自立土留めの施工風景。その名の通り、斜めに杭を打ち込む。「自立」するために必要な、わずか10度ほどの傾斜を一つずつ計りながら施工する。現場では親杭横矢板方式を初採用

既設トンネルを補強

もう一つ進むのは、既に空港の下を走る「木の根トンネル」の補強工事だ。真上に新たな誘導路を整備するため、飛行機の荷重に耐えうる強度を持たせるのが目的。トンネルには一般道路や鉄道など、5路線が通る。これらを通行止めにすることなく補強するという繊細な工事だ。

現場では既存トンネル周囲の土が取り除かれ、その形があらわになっていた。トンネルの下では、トンネルと直交して長さ37m、高さ・幅 3m前後の導坑を20本掘削中。開放型半機械掘りシールドを5機投入し、両側の側壁に沿って造られた立坑から立坑まで、トンネル地下を掘り進める。 鉄道や車が通るトンネルのすぐ下で堅い地盤を掘る作業に、連日試行錯誤だ。

貫通したら中に鉄筋を組み、高流動コンクリートを打設する。隙間なく充てんするため、上半分には膨張剤を混ぜた高流動コンクリートを使用。カメラやセンサーを設置して、コンクリートの様子を確認しながら作業する。

20本の導坑と交互に配される地山は薬液を注入して地盤改良し、強度を確保。こうして、コンクリートと地盤改良部分が交互に連なる梁構造が形成され、トンネルを下で支える下床桁が完成する。

トンネルの左右にはコンクリートの側壁、上には頂版を設けるが、トンネルが直接荷重を受けないように、トンネルとの間にそれぞれ15cm~20cmの空隙を設ける。この施工は今後の課題。微妙な空間の確保に、いかなる手法で臨むか。ここに現場の工夫が求められている。

5路線が通る既存トンネルの周りを、新しいコンクリートで補強。トンネルと新たな側壁・頂版の間には空隙を設ける。下床桁は20本の導坑と地盤改良部分が交互に配される梁構造だ
下床桁の導坑。ここに高流動コンクリートを充てんする

現場所長の坪井は言う。「入札時に行った技術提案の実施に向けて、社内関連各部門の支援を受けて取り組んでいますが、そこであらためて実感するのは大林組の組織力。この組織力を強みに、職員一同頑張っていきます」

世界をまたぐあまたの飛行機が、大地を蹴って空へゆく。さらなる発展を遂げようとする日本の玄関口、成田国際空港。その基盤を支えるのが土木の力だ。

先がけて竣工した「その1」工事も大林組が担当。出来たてのトンネルを通ってその先につながる「その2」の現場に向かう

(取材2012年6月)

  • ※1 グラウンドアンカー
    土留め壁が内側に倒れないように、土留め壁に開けた穴から鋼線などを挿入し、セメントモルタルを注入して、地中の基盤部分から土留め壁を引っ張って支えること
  • ※2 切梁
    向かい合った土留め壁と土留め壁の間を、H型鋼などを用いて突っ張って支えること
  • ※3 ボックスカルバート
    地中に埋設される箱型の構造物

工事概要

【第2木の根トンネル設置工事(その2)】

場所千葉県成田市成田空港内
発注成田国際空港
設計日本工営
概要土工3万m3、H鋼親杭横矢板、除去式グラウンドアンカー工一式、プレキャストボックスカルバート設置、延長94m
工期2011年12月~2013年1月
施工大林組

【木の根トンネル補強工事】

場所千葉県成田市成田空港内
発注成田国際空港
設計日本工営
概要土工2万4,000m3、躯体工1万3,800m3、下床桁掘削:半機械式矩形シールドによる掘進20本
工期2011年6月~2013年1月
施工大林組

ページトップへ