プロジェクト最前線

「かえるかわうち」の思いのもとに

平成24年度川内村除染等工事

2013. 04. 10

大林組が除染作業を進める川内村の風景。右側の森林部分はすでに作業を終えている

最寄りの鉄道駅から、里山の風景の中を車で行くこと約30分。大林組JVは、福島県双葉郡川内村の除染特別地域に指定されているエリアで除染を進めている。

住民の一日も早い帰村を

全国有数の美しい水資源を誇る川内村。「かえるかわうち」は、そこに生息する天然記念物のモリアオガエルに思いを重ね「ふるさとにかならず帰る」という住民の強い意思を表した言葉だ。

人口約3000人の川内村では、原発事故の影響で、住民の多くが村外に避難した。それから約10ヵ月後、村は「帰村宣言」を発表。「戻れる人は戻りましょう」という方針のもと、役場機能を村に戻した。そして今、全体の約4割の住民が村に戻っている。

現場は、工事が決まるとすぐに村役場に走り「かえるかわうち」のフレーズを事務所名に使わせてほしいと申し出た。この地の除染をすること、そしてその先に「川内村住民が一日も早く帰村できる」環境をつくること、それがこの現場がめざすものだ。

電話応対するとき、書類を作成するとき、名刺を差し出すとき、いつも使う「かえるかわうち」の言葉。そのたびに現場のメンバーは、自分たちの目的を胸に刻んでいる。

川内村除染等工事エリア

人の手で一つずつ進める作業

除染特別地域とは、福島第一原子力発電所から半径20km圏内の警戒区域と、1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超える恐れがあるとされた計画的避難区域を指し、そこでは国による除染事業が進められている。

住宅と道路、住宅周辺20m範囲の森林などの生活圏が、今回の除染範囲だ。除染は、放射性物質が付いている土や草木などを「取り除く」、放射線を土などで「遮る」、取り除いたものを生活している場所から「遠ざける」、という三つの考え方をもとに、その組み合わせで行われる。

場所や対象物によって、その方法はさまざまだ。住居の屋根や壁は湿らせた紙布で拭き取る。雨どいは落ち葉などの堆積物を除去して洗浄。芝は張り替え、砂利や土壌は敷き直す。高圧洗浄するのは、道路をはじめとする舗装面やガードレール。ほかにも、木の枝を打ち落としたりと、どれもが人の手で一つひとつ進められる地道な作業だ。

徹底した管理も行っている。洗浄に使用した水は作業するそばから回収し「回収水処理システム」に集めて浄化。除染前後には必ず空間線量をモニタリングし、記録している。除去物を詰めたフレキシブルコンテナバッグは、その所在をシステム管理する。

作業員には「分からないときは"聞く"、判断に困ったときは"聞く"、忘れた場合には"聞く"。確認! 確認! 確認! で作業を行おう!」と伝え、徹底している
フレキシブルコンテナバッグは村内の仮置場に運ばれる。仮置場の整備は村内4ヵ所で進んでいる
さまざまな方法がある除染作業。広大な村の中、それは人の手で確実に進められている

丁寧な仕事で信頼を得る

作業を進めるうえでの難しさは幾つかあるが、いずれも除染事業特有のものが多い。例えば、住民からのヒアリングとその対応だ。

土地や建物にはその数だけ地権者がいて、工事着手までには個別に話を詰めていく必要がある。その際に除染内容や範囲について、おのおの合意を取ってから作業を進めるが、進めるうちに要望が増えることがある。そんなときは、決められた工期の中で作業範囲としてどこまで処理するべきなのかを、個別に見極めていかなければならないのだ。

ただこのような局面の対応には、2012年の6月まで大林組が携わってきた、除染モデル実証事業で得たノウハウが活かされている。

「住民の皆さんは、我われがしっかりと除染をしてくれるのか、とても心配されている」と言うのは所長の松谷だ。その思いを受け現場が行うのは、しっかりと丁寧な仕事をし、信頼を得ていくことにほかならない。

大切な幾つもの「コミュニケーション」

加えて「住民の不安を取り除くには、お互いを知ることも重要」と所長は言う。2012年12月に仮設住宅で行った餅つき懇親会では、つきたての餅を囲んで住民と職員の笑顔の輪ができた。それは住民に楽しんでもらうとともに、現場の誠意を伝え信頼してもらうための大切な交流だ。

また目的を一つに、確かな仕事をするために、全作業員への教育を徹底するほか「JV職員、協力会社職員のチームワークは欠かせない」と、昼間の協力会社を交えた打ち合わせでは作業状況確認を、夕方からのJV職員の打ち合わせでは、実績確認、問題抽出と対策の検討、情報の水平展開を毎日実施。そこでの情報は、朝礼などですべての作業員に周知徹底している。

作業員は多いときで650人。JV職員は約50人。この大集団で「言わなくても分かるだろうという考えは通用しない」と所長は言う。

また、事務所では80人規模の懇親会を定期的に開催。生活基盤が完全に復旧していない中、現場宿舎ではJVと協力会社の職員が集団生活を送る。仕事が立て込めばストレスを感じることは誰にでもある。取材の日は 「おでん大会」の日と聞いた。こちらも大切なコミュニケーションだ。

仮設住宅での餅つき。参加できなかった世帯にも、つきたての餅を配った

この仕事がめざすもの

2012年12月、この村に新しいコンビニエンスストアが開店した。夜には店の光が辺りを照らす。それはこの地の復興の兆しだ。それがどんなに心躍ることなのか。買い物に不自由する生活の中、便利というだけにとどまらないうれしさを感じたのだという話を、職員から聞いた。

以前と同じ生活を送るために必要なのは、清らかな山や川、田畑や家畜、そして不安のない当たり前の毎日。村は今、それを何年もかけて取り戻そうとしている。そのためにしなくてはならないのが除染だ。大林組が行う除染という仕事は、そのためにある。

(取材2013年1月)

工事概要

名称平成24年度川内村除染等工事
場所福島県双葉郡川内村
発注環境省
設計環境省
概要建物783棟、舗装道路34万m2、森林186万m2
工期2012年7月~2013年6月
施工大林組、東亜建設工業

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