プロジェクト最前線

超高層ビルの中を地下道路が貫く

環状二号線新橋・虎ノ門地区Ⅲ街区新築工事

2013. 03. 27

東京・霞が関の官庁街に程近い虎ノ門地区で、大規模複合再開発が進んでいる。

「環状二号線新橋・虎ノ門地区Ⅲ街区」だ。超高層ビルの中を道路(環状二号線)が貫通する都内初のプロジェクトで、交通インフラと一体となった、次世代の東京を象徴する街づくりが進んでいる。

環状二号線新橋・虎ノ門地区事業概要図

ここで大林組は地下5階、地上52階建てで、建物高さ247mの都内では2番目の高さとなる超高層ビルを建設する。オフィスや住宅、ホテル、店舗、カンファレンス施設が入る複合ビルで、東京を代表する新たなランドマークとして2014年に誕生する。

狭い作業スペースと短い工期

都心部の限られた敷地内と、短い時間内で建設する工事だけに、施工上の課題も多い。「作業スペースが狭いので、超高層ビル建設に必要な資機材の荷さばき場所の確保が困難であった。また、全体の工程が約3年と、この規模の高層ビルとしては工期が短いため、さまざまな工夫を行った」と所長の井上は語る。

敷地内を環状二号線が通るため、その部分には建築資材を置くことができない。敷地面積1万7,000m2 のうち、作業や資材置き場として使えるのは3分の1程度である。

そこで解決策として考えたのが、立体的な仮設ヤードだ。施工機械や生コン車などの走行と資材の仮置きに使う構台を2階建てにし、南側の環状二号線の部分に設置した。1階は掘削や地下部分の建設工事に使い、2階はクレーンを載せ、鉄骨材料をさばくスペースとした。

短い工期の解決策としては、逆打ち工法を採用している。始めに「逆打ち支柱」と呼ばれる地下階の柱を杭と一緒に打ち込み、1階の床を構築。その後、地上躯体を建てていくと同時に、地下を掘り進めながら地下躯体を下方向に構築していく工法だ。地上と地下の躯体構築を並行して進めることができるため、大きな時間の省略になっている。

また、環状二号線の道路部分の工事着手に伴い、掘削途中で道路部分の掘削開口部をふさがなければならない。そのため、道路下の地下3階に天井クレーン式のクラムシェル(掘削機)を設置し、本設車路スロープを利用して地下3階までダンプトラックを下ろして、掘削・積み込み作業を行っている。

効率的に作業を行う工夫はほかにもある。カーテンウォールを取り付け階まで垂直搬送(揚重)した後、取り付け箇所まで水平搬送する「外装揚重システム」だ。

通常カーテンウォールの揚重は、タワークレーンまたは貨物リフトを使用するが、搬送物量が多いため、鉄骨などほかの建設資材との揚重スケジュールの調整が課題であった。ここでは専用の揚重システムを使用することで、ほかの作業との調整が軽減され、作業の効率化が図られている。また、垂直搬送時はカーテンウォールの方立(ゴンドラレール)をガイドレールに利用しているため、風の影響を受けにくく、安全に作業を進めることができる。

構台を2階建てにすることで、作業面積の狭さにもかかわらず、作業効率が保たれている
一日最大2,000m3、工事全体では約41万m3の土を掘削・搬出する
天井高さが低く移動式クレーンが使用できないため、天井クレーン式のクラムシェルを採用した
垂直搬送した後、水平搬送する「外装揚重システム」

東京スカイツリー®建設の技術を活かしてミリ単位の精度で施工

現場の形状の問題もあった。地下トンネルがカーブしながら超高層ビルの下を通る形状のため、逆打ち支柱を見えない地中に真っすぐに、しかも道路のカーブに沿って、正確に打ち込まなければならなかった。柱の位置だけでなく、鉄骨に付いている梁の向きも平行、直角ではないので、各柱の回転角度も合わせる必要があった。そこで、東京スカイツリー建設工事でも使用した、光波を用いて距離を測定する、3次元光波測量器「トータルステーション」を導入した。

鉄骨が空間上、どの位置にあるのかをミリ単位で割り出して、鉄骨を設置する

逆打ち支柱は全部で237本あり、一番大きなもので重さは90t近くもある。少しのズレも許されない状況下で、計測方法による誤差が出ないよう、現場の周囲にある複数の建物を目印に3次元計測した。位置出しに当たっては、2班に分かれて測量するダブルチェックを実施。2班のズレは3mm以下という厳しいものだ。垂直精度については、700分の1以下の精度管理で、入念にチェックを行った。

地下トンネルは、カーブしながら超高層ビルの足元で地上に出る。杭一本ごとに施工位置を座標計算しなければならない

CFT柱で超高層ビルの強度を高める

また、建物の強度を高めるため、鉄骨柱の鋼管の中に超高強度のコンクリートを充てんする、CFT構造を採用している。CFT柱では、鋼管がコンクリートを拘束し、剛性・耐力・変形・耐火、そして施工などのあらゆる面で、優れた性能を発揮する。

しかし、この現場では、コンクリートを1階から高さ207mの47階まで圧送する。100m程度の高さまでの圧送は珍しいことではないが、粘り強い80Nの高強度コンクリートを200m超の高さまで圧送、充てんするのはいまだかつてない。このため、圧送高さ207mを水平換算した642mの圧送管を現場でつくり、圧入圧力および高さの管理をしたうえで、施工を開始した。

さらに、CFTコンクリート打設時にパソコンで打設状態を常時モニタリングすることで、過剰圧力などによる鉄骨の変形を防止するとともに、打設記録をデータ化して管理している。

  • 躯体工事開始前の現場内に、長さ642mの圧送管を設置し、圧送試験を行った

  • レーザー距離計を利用し、天端高さや打設速度などを計測する

超高層ビルの中を地下道路が貫く特性に加え、その建物高さと構造的な特徴から国内外で注目を集めている。「地震の多さや、法制度の違いなどがあって、比較は難しいが、設計技術、施工技術、共に世界でも高いレベルだと自負している」と所長の井上は言う。

「環状二号線新橋・虎ノ門地区Ⅲ街区」は、都市の機能を高め、新たなシンボルとして街のにぎわいを生み出す役割だけでなく、日本経済の再生をけん引する国際交流や観光都市としても期待が膨らむ。新しい街の完成をめざして作業が続く。

完成予想図
「環状二号線新橋・虎ノ門地区Ⅲ街区」で働く、約1,500人の集合写真

(取材2012年11月)

工事概要

名称環状二号線新橋・虎ノ門地区Ⅲ街区新築工事
(環状第二号線新橋・虎ノ門地区第二種市街地再開発事業Ⅲ街区)
場所東京都港区虎ノ門
施行者東京都
特定建築者森ビル
設計・監理日本設計
概要複合棟:S造・SRC造・RC造、B5F、52F、PH付、延24万4,360.27m2
工期2011年4月~2014年度
施工大林組

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