プロジェクト最前線

「気づく、考える、行動する」チーム力を高め、病院を造る

神奈川県立がんセンター特定事業 病院施設建設工事

2013. 07. 11

大林組が代表を務める企業コンソーシアムがPFI事業として行う神奈川県立がんセンター特定事業の病院建設が進行中だ。ここでは「気づく、考える、行動する」の3K運動を旗印に、積極的な取り組みで現場運営が行われている。

チーム力を育てた理念を掲げて

建設現場の事務所にひときわ目を引く看板が掲げられている。3K運動「気づく、考える、行動する」。現場が「チーム力」を発揮するために、従事する一人ひとりが仕事にどう向き合っていくべきかを示した現場理念だ。かつて甲子園優勝校の監督が語っていた教育理念に感銘を受けた所長の甲賀が、現場に取り入れたものである。

「ただ頑張れば良いということではありません。現場の職員、作業員のおのおのが自身の仕事に鋭い感覚を持って臨み、気づいたことから何をすべきかを考え、決めたら即行動に移していく。皆がこれを実践し、継続していくことが大事なのです」と、所長の甲賀は力強く語った。

病院建設の特性を考えBIMを導入

病院には医師、看護師、技師、事務局員など、さまざまな関係者がいる。それぞれが各部屋のスペース、動線、レイアウトなどにこだわりを持っており、設計変更が起きやすい。これが病院建設の特性だ。

現場は関係者のさまざまな意見を集約しながら施工を進めていかなければならない。そこで調整手段として、当初計画にはなかったBIMを現場段階で導入した。

BIM(Building Information Modeling)とは、使用材料や性能などの仕様情報も加えた3次元の建物モデルをコンピューター上に構築し「見える化」するものだ。

導入を推進する工事長の山本は言う。「お客様は建設のプロではありませんから、平面的に描かれた図面だけでイメージをつくり上げて、仕様を決めていくことは非常に困難です。その点、BIMは3次元映像で具体的な形や色を表現できるので、お客様のイメージづくりにとても役立つツールです」と、その意義を強調する。

神奈川県立がんセンター完成予想図

BIMの活用の仕方を考える

現場ではいろいろな場面でBIMを活用している。毎日の協力会社との打ち合わせでは、翌日の作業内容や重機配置を表現したBIMモデルをスクリーンに映し、作業間調整に役立てている。病院スタッフなどの現場見学の際には、タブレット端末のBIMモデルを見せながら、完成イメージを説明する。

このほか、現場内の壁の各所に内装ボードの種類を色分けしたBIM画像を貼り付けたり、協力会社の職長の中にもタブレット端末を持ち歩き、そこに映されたBIMモデルを見ながら内装仕上げ材の品番を確認したりする者がいる。

工事長の山本は「どのような場面でBIMを使えるかを考えながら、試行錯誤を繰り返しています。タブレットの導入で、現場にBIMモデルを持ち出すことが容易になり、活用の場が広がると思います」と、これからの可能性に期待を寄せる。

タブレット端末のBIMモデルで病院スタッフに説明
内装ボードを色分けしたBIM画像を掲示
外装、外構工事の確認・検証にBIMを用いる

近隣住民との信頼関係を築く

現場周辺には隣接住宅をはじめ数多くの住宅が立ち並び、教育施設も四方に点在している。現場は、まさに住民の生活空間の中心に位置している。

厳しい施工環境のもと、現場運営を順調に進めていくには、近隣住民が抱く不安感や現場に望むことなど、その心情を敏感に感じ取り、素早い行動で真摯(しんし)に対応することが大事だ、と所長の甲賀は言う。

例えば、振動の問題。現場敷地はもともと地盤が柔らかいため、振動が伝わりやすい土質だ。特に隣接住民には十分な配慮が必要である。

そこで振動計を設置し、常に計測値を監視することとした。値が規定値を超過した場合、すぐさま所長の甲賀をはじめ職員の携帯電話に計測結果が配信される仕組みになっている。

作業員への是正指示は、時には所長の甲賀自らが行い、同時に住民にも、どの程度の振動を感じたかを確認する。よく見れば、振動計は隣接住宅側に向けて設置してあり、情報開示にも積極的だ。この徹底した対応が住民の理解をもたらし、信頼関係が醸成されてきた。

このほか、近隣小学校とは「現場見学会」や仮囲いを活用した「絵画コンテスト」を開催して親交を深めてきた。後者は近隣住民の投票参加を呼びかけ、総数1000票を超える一大イベントになった。入賞者にはトロフィーを贈呈し、たいへん喜ばれたそうだ。

振動計のモニターを隣接住宅側に向け設置
地盤掘削段階で小学生を招いて現場見学会を開催
小学生が描いた色彩豊かな絵が仮囲いを彩る

建物と地域環境をつくる

所長の甲賀は、この工事にかける思いを語る。「ここで治療を受けられる患者さんたちに思いを馳せ、居心地が良く治療に専念できる病院を造りたいと強く感じています。そのためには、単に建物の品質が良いということだけではなく、施工する私たちが地域との良好な関係を築き、その関係を建物とともにパッケージ化して引き渡すことが大切だと思っています」。この最高の仕事を成し遂げるために、今日も現場では一人ひとりが3Kを胸に仕事に向かっていく。

(取材2013年4月)

工事概要

名称神奈川県立がんセンター特定事業 病院施設建設工事
場所神奈川県横浜市旭区中尾
発注神奈川メディカルサービス
設計日本設計、大林組
概要RC造、免震構造、B1、7F、PH付、3棟、総延5万1,465m2、415床
工期2011年4月~2013年8月
施工大林組、NB建設(旧社名:相鉄建設)

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