福岡市の中心街・天神から地下鉄で10分。六本松駅の階段を上ると、通りの向こうに赤色のタイルが印象的な建物が目に入る。九州大学六本松キャンパス跡地再開発プロジェクトの目玉と位置付けられる複合施設だ。
六本松キャンパスは、九州大学の前身となる旧制福岡高等学校が創立された地。長年にわたり九州大学の教養課程の中心を担ってきたが、キャンパスの移転に伴い、2009年に閉校となった。
今回の再開発は、敷地中央の地区内道路を囲むように5街区に分かれており、大林組は国道202号線に面した一つの街区で、複合施設棟(商業施設、法科大学院、科学館)と住宅型有料老人ホームが入るSJR棟、駐車場棟、そして地下鉄入口棟の4棟を同時に施工している。仮囲いの際まで建物が迫る敷地で、複数棟をいかにスムーズに施工するかが工事の課題だった。
着手のタイミングをずらして片側から建てる
六本松地区は住宅街で、生活道路となっている細い路地が多いことから、車両の出入り口と台数に制限が設けられた。限られた条件と工期の中で、複数棟の工事を滞りなく行うには、各棟の工程をずらすことが賢明と判断した。
駐車場棟の着工を遅らせ、駐車場予定地を基礎工事に伴う掘削土砂の仮置き場として利用した。敷地内に土砂の保管場所を作ったことで、場外搬出を最小限に抑えることができ、車両数を削減した。
また、資材の搬出入のためには動線確保も重要だった。出入り口から駐車場棟へ向かう動線として、複合施設棟の内部に仮設構台を設置。躯体ができたところから仮設構台を撤去する方法で進めた。
日本最大級のプラネタリウムドーム
屋上から頭を出す球体。複合施設棟に入る科学館のプラネタリウムのドームだ。ドームの大きさは直径30m、高さ15mに及び、日本最大級を誇る。大空間かつ球面という条件下で、安全で効率的な作業をめざして、鉄骨地組み工法を採用し、作業足場にも工夫を施した。
鉄骨工事は、まず、最上階の床から足場を組み、その上部に12枚のガセットプレート(接合点)が付いた円形状の部材を、位置と高さを調整しながら円の中心に固定。円形状部材に、アーチ型の梁を接合し、梁と直行する水平方向の鉄骨、格子母屋鉄骨の順に架けていく。
このうち、頂部の円形状部材の接合以外は作業ヤードで地組みし、安全設備を取り付けたうえで架設。高所での作業を極力減らした。
外部足場には、角度を自在に変更できるブラケットを利用して足場板を設置。5段の足場がすべて水平になったことで外装施工作業の安全性が向上した。
内部足場には、円の中心を軸として、モーターの動力で円周に沿って移動するローリング足場を採用。足場を組み替える手間や、移動させる労力を省くことで、内装施工の作業効率を飛躍的に高めることができた。
今後、内部には最新鋭の投影機が備えられ、科学館のメイン施設として機能する。丁寧に張り付けられたボードに写し出される星空は、その輝きを一層増すことになりそうだ。
住宅型有料老人ホームの施工は効率的に
科学館のある複合施設棟の隣には、バルコニーの植栽が目を引く住宅型有料老人ホームが立つ。バルコニー部分は、凹凸のある複雑な形状で、植栽が成長するスペースを確保するため、階ごとに互い違いに据え付ける必要があったことから、プレキャスト(PC)化した。
一方、躯体は型枠を在来工法で施工し、型枠を転用することで環境負荷の低減とコストダウンにつなげた。PC化と在来工法のメリットを最大限に活かして、品質の確保と工期の短縮を図った。
すべての関係者と共に造る
複合施設棟の内装工事が本格化すると、テナントから別途発注された専門会社の作業が多くを占める。そのため、資材の搬出入動線や作業範囲の確認など多岐にわたる調整が必要となる。「専門会社が作業しやすいように調整するのも大事な仕事です。それが、安全作業や建物全体の品質につながります」と所長の森下は語る。「地域や工事関係者との『共生』。皆で協力しながら造り上げたい」と決意を述べた。
工事関係者や地元住民、そして利用者。たくさんの期待が詰まった建物の完成まで、もうすぐだ。
(取材2017年3月)
工事概要
名称 | 六本松複合ビル(仮称)新築工事 |
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場所 | 福岡市 |
発注 | 九州旅客鉄道 |
設計 | 山下設計 |
概要 | (複合施設棟)S造一部RC造、B1、7F、(SJR棟)RC造、13F、92戸、(駐車場棟)S造、4F、(地下鉄入口棟)RC造・S造、B1、1F、総延3万7,106m² |
工期 | 2015年10月~2017年7月 |
施工 | 大林組 |