NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業」（以下、若サポ（※1））の一環で、慶應義塾大学の野崎貴裕准教授らの研究グループと株式会社大林組は、遠隔で力触覚（※2）を再現する技術（リアルハプティクス®（※3））を応用し、危険が伴う山岳トンネルの掘削面（切羽）直下での火薬の装填（そうてん）・結線作業を遠隔化・自動化するシステムの開発に取り組んでおり、このたび、自動火薬装填システムの開発に成功しました。

本システムは、リアルハプティクス技術を備えることで、切羽から離れた安全な場所から、火薬の装填作業が行えます。力触覚が伝わることで、あたかも切羽で直接作業を行っているかのように直感的な操作ができ、火薬を装填する孔への円滑な挿入や、適切な力加減での火薬の押し込みが可能となります。また、遠隔装填技術で得られたデータを利用して、作業者の動作を再現し、装填作業を自動化することで、生産性の向上が期待されます。

今後、切羽との接触を感知しながら自動で脚線を結線する自動結線システム（特許出願中）の要素試験を進め、一連の技術の現場適用をめざします。また、各システムを自律学習させることで、トンネル掘削作業の無人化につながる開発を進めます。

• ※1　若サポ
  NEDO官民による若手研究者発掘支援事業
  https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100166.html
  本研究開発は、若サポ・共同研究フェーズとして2021年度から進めています

• ※2　力触覚
  触れた物の硬さや柔らかさを伝える、力と位置変化に関する感覚です

• ※3　リアルハプティクス®
  現実の物体や周辺環境との接触情報を双方向で伝送し、力触覚を再現する技術です。人間が物体に触った際に感じる硬さや柔らかさ、風船のような弾力、自律的な動きなどの力触覚を伝送することで、遠隔にいる操作者の手元で同様の力触覚が再現できます。慶應義塾大学では、力触覚技術が示す学術的な成果を応用し、広く医療・産業界に普及させることを目的として2014年にハプティクス研究センター（センター長：慶應義塾大学新川崎先端研究教育連携スクエア 大西公平特任教授）を設置し、研究開発を進めています

• ※4　支保工建て込み作業
  山岳トンネル施工において、地山を保持するアーチ状のH型の鋼材である鋼製支保工を設置する作業です

• ※5　切羽直下
  切羽の上面部分（天端）から45度の範囲内を指します

• ※6　重機を使用する支保工建て込みなどの作業は遠隔化・自動化が進んでいます
  慶應義塾大学と大林組は、これまでもリアルハプティクスを油圧駆動の建設機械や左官作業に適用するなど、建設現場における力触覚の活用に向けたシステムの開発、実証を行ってきました
• リアルハプティクスを利用した建設技能作業再現システムを開発（2021.3.24付）
• 油圧駆動の建設重機で力触覚技術を利用するシステムを実証しました（2019.10.10付）
• 油圧駆動の建設重機での力触覚技術利用を可能とするシステムを開発（2018.10.15付）

• ※7　雷管
  わずかな熱や衝撃でも発火する火薬を筒に込めた火工品で、トンネル掘削では電気雷管や導火管付き雷管が使われます

• ※8　脚線
  雷管を起爆するための電気を流す線を指します

• ※9　リモコン側、ロボット側
  遠隔操作においては、リアルハプティクス技術における操作用のシステムであるリーダと作業用のシステムであるフォロワが用いられますが、本リリースでは一般的な表現として、リーダサイドを「リモコン側」、フォロワサイドを「ロボット側」と呼称しています

• ※10　込め棒
  火薬を装填する際に、爆破孔に爆薬を押し込む木製あるいは静電気を起こさない材質の棒です

• ※11　自動結線システム（特許出願中）
  装填システム同様にリモコン側とロボット側で構成されます。ロボット側から送信される映像を視覚で確認しつつ、力触覚で結線ロボットと切羽とのわずかな接触さえも感じながらリモコン側を操作することでロボットを動かし、脚線をつかみます。脚線をつかんだ後に、ボタン一つでロボット側が自動で結線するシステムです