人が集い、交わり、重なり合う。”みらい”を広げるランドマーク

#17 横浜シンフォステージ

横浜シンフォステージは、横浜みなとみらいエリア(神奈川県)に2024年に誕生した、オフィス・商業施設・ホテル・店舗などで構成される複合施設です。みなとみらい線・新高島駅徒歩1分という立地にあり、地上30階建てのウエストタワーと地上16階建てイーストタワーの2棟から構成されています。

横浜シンフォステージの完成とともに、分断されていた横浜駅とみなとみらい駅間の歩行者動線を接続し、イベント開催時や災害時に人が集まるための広場が誕生しました。1階から3階まで積み重ねるように配置したパブリックスペースでは、屋根を持つ半屋外の広場がいくつも連なり、光や風、行き交う人々の動きや声が感じられます。

⼈が集い、交わる――。その重なり合いを形にするために、「レイヤリング(重ね合わせる)」というコンセプトを定めました。

みなとみらいエリアに新たな人の流れをつくり出す、人々が集う活動拠点を目指して計画した設計手法をご紹介します。

ウエストタワー北側外観(撮影:エスエス)

分断されていた歩行者の動線をつなぐ

重要な場所同士をつなぐ「都市軸」の存在は、地域にふさわしい拠点性の向上や地域の発展に影響を与えるものです。みなとみらいエリアには、桜木町駅方面から海に向かう「クイーン軸」、横浜駅方面から海に向かう「キング軸」、街の中央部でこれらをつなぐ「グランモール軸」の3つの主要な都市軸があります。横浜シンフォステージの完成とともに、長らく分断されていた「キング軸」と「グランモール軸」の歩行者動線を接続し、イベント開催時や災害時に人が集まるための広場不足を解消しました。

  • 横浜駅周辺とみなとみらい駅周辺を結ぶ歩行者動線は長らく分断されていた
  • 横浜シンフォステージの建設とともに「キング軸」と「グランモール軸」を連結し、新たな広場を設ける
  • 人が集い、他の街に出発する拠点とすることでみなとみらいエリア全体の活性化を目指した
「キング軸」と「グランモール軸」は横浜シンフォステージ敷地を貫く
「グランモール軸」からみなとみらいエリアを望む(撮影:エスエス)
「グランモール軸」周辺に配置されたグランモールプラザ・スカイプラザ・ゲートプラザは、横浜駅とみなとみらい駅間の通り抜け空間であるとともに、イベント時には屋外劇場の客席・ステージとしても活用(撮影:エスエス)

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人々が集う広場を重ね合わせる

1階から3階まで立体的に連なる広場では、
光や風、人々が交錯する

1、2階を横断する「グランモール軸」と「キング軸」の歩行者動線を中心に、低層部にはさまざまな用途の施設を集約。施設ごとの用途特性に合わせ、それぞれ光や風の環境、スケールが異なる広場を隣接させることで、内部のアクティビティが広場までにじみ出し、他の階までも波及することを目指しました。

積層する広場は敷地内の移動を促す動線となり、常に⼈が流れ続けるアクティブな空間を⽣み出しています。

  • 1棟ではなく、2棟で構成する
  • 棟を分けることで、歩行者の動線を敷地内に取り込む
  • 動線を立体化し、人が集まる広場を積層する
  • 全方位からの自由なアクセスが可能となる
都市軸上で連なる半屋外の積層広場(撮影:エスエス)
グランモールプラザでは、日射と風をコントロールする大屋根群が連続する。屋外音楽イベントなども行える開放的な広場(撮影:エスエス)
キングプラザ。隣接エリアとの往来を誘発する広場 (撮影:エスエス)
大海原をモチーフにしたゲートプラザでは、海を模した芝生が広がり、子どもから大人まで自由に憩える広場とした(撮影:エスエス)

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海と空と街をつなぐ

地上約120mの高さからオーシャンビューを享受するホテルレストラン(撮影:エスエス)

みなとみらいエリアの街づくりでは、「スカイライン」という考え方を基本としています。スカイラインとは、「内陸から海に向かって町並みの高さを低くし、海からの眺めと陸からの眺めを意識する」こと。

横浜シンフォステージの設計にあたっては、この考え方に基づいて高さに合わせた用途の積み上げを検討しました。ホテルのレストランや⼤浴場、オフィスの一部に、超⾼層からの眺めという付加価値をもたらしました。

みなとみらいの街全体でスカイラインを形成する
スカイラインを生かして用途を積み上げた断面構成
ホテルの大浴場から富士山を望む(撮影:エスエス)
イーストタワーのテラス付きオフィス

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脱炭素社会実現と快適性の両立を目指して

撮影:エスエス

みなとみらいエリアは、環境省が定める「脱炭素先行地域」(※1)に選定されています。脱炭素モデル構築の取り組みに参画している横浜シンフォステージでは、熱負荷を抑える外装計画や自然換気、雨水利用などにより、脱炭素(カーボンニュートラル)社会の実現にも貢献しています。

  • ※1 脱炭素先行地域
    2050年カーボンニュートラルに向けて、電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、温室効果ガス排出削減についても、国内全体の2030年度目標と地域特性に応じて実現する地域

心地の良い広場環境の整備

積み重ねた広場などの外部空間は、風・日照などの居住環境、人流のシミュレーションを行い、それぞれの用途に合わせて最適化する計画としました。

ゲートプラザでは、通年で1日当たり3時間以上の日照がある範囲を芝生広場とし、蒸散(植物体内から大気中へ水蒸気が放出される現象)効果による夏季の環境調整を行いました。

グランモールプラザや都市軸上の動線では、大屋根配置と木陰を生み出す植栽計画の調整により、過ごしやすい風環境を創出しています。

年間の⽇照条件を基に夏季の環境改善に配慮したランドスケープ
風環境シミュレータ「Zephyrus(ゼフィルス)®」により、周囲の風環境のシミュレーションを行った
蒸散機能を持つ駅前の芝生広場(ゲートプラザ)では、子どもたちが自由に遊ぶ(撮影:エスエス)

壁や窓などの外装計画

⾼性能熱負荷シミュレーション「エコシミュレ」に基づいて、最適な外壁やフィン(建物の外側に取り付けられた構造物で、日射を遮ったり風を調整する役割を持つ)、空調機器などを選定することで、熱負荷を低減し、省エネルギー性能向上に寄与しました。

周辺環境を考慮し、方位ごとに最適な外装を選定
  • コンパクトダブルスキン
    最も熱負荷の大きい西・東・南面に性能が高いコンパクトダブルスキンカーテンウォール(柱・梁などが一体化した取り付け型の外壁)を計画
  • 縦フィン
    景観と省エネルギーに配慮し、傾斜する縦フィンにより東・西からの日射を効率的に遮へいする
  • 横フィン
    太陽高度の高い南面の日射を遮へいしながら、グランモール軸への視線の抜けをつくり出す

横浜シンフォステージは、さまざまな環境配慮技術を導入することで、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の建築物全体評価で最高ランクである星5つ、オフィス部分の評価で「ZEB Ready」(※2)認証を取得しています。

  • ※2 「ZEB Ready」とは、ZEBを見据えた先進的ビルとして、省エネルギーによる50%以上のエネルギー消費量削減を実現する建築物
方位ごとに外装の仕様を変えたことで、分節されたファサードデザインが生まれた(撮影:エスエス)

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環境調整装置としての大屋根や植栽。屋根を支える柱に細い部材を採用したことで抜け感を演出する(撮影:エスエス)
イベント時に足を止める人々。そのにぎわいは街中に広がってゆく(撮影:エスエス)
3層連結されたウエストタワーのアトリウム。通り抜け空間であると同時に、複数用途の共用エントランスとなっている(撮影:エスエス)
ウエストタワー中層部のオフィス空間(撮影:エスエス)
ゲートプラザにある、「大海原を泳ぐクジラ」を模したベンチは3Dプリンターで製作した

横浜シンフォステージは、街の活動拠点としてこれからもみなとみらいの発展を促し、ランドマークとして街を見守り続けます。

撮影:エスエス