1980年代から計画的な都市整備が進む、神奈川県横浜市の臨海部にある「みなとみらい21地区」。今、ここで大林組は他社との共同事業として、オフィス・ホテル・店舗などで構成する大規模複合施設「横浜シンフォステージ」の開発を進めている。大林組は開発だけでなく設計施工も担当。人々が集う魅力的な街を創り出そうとしている。
異業種4社による街づくり
2019年3月、横浜市が主催する提案型コンペで、大林組を含むコンソーシアムが事業予定者に選定され、みなとみらい線「新高島駅」の至近に位置し、横浜駅からも徒歩約8分の場所にある市有地の譲渡を受けた。その土地に、地上30階建てのウエストタワーと地上16階建てのイーストタワーで構成される、総延べ面積18万m²超の大規模複合施設を開発する。
コンソーシアムを組成するのは、大林組、京浜急行電鉄、日鉄興和不動産、ヤマハという本業が異なる4社。各社の得意分野やノウハウを持ち寄り、新たなシナジーを創出できることが強みだ。
大林組が他社との大規模開発の共同事業で幹事会社を務めるのは初めて。事業者、設計施工者が共に大林組であるというメリットを活かし、コスト削減や最新技術導入などによって環境に配慮した魅力的な施設にするため、日々共同事業者と連携して事業を進めている。
効率化を突き詰めて
作業員1,500人が働く大規模建設現場
今回の工事はできるだけローコストとなるようスタンダードな技術や工法を採用している。しかし、工事のボリュームが桁違いに大きく、繁忙期には作業員1,500人ほどが働く予定だ。作業員の手配は、都内の大型現場と競合しないよう、できるだけ平準化する工程を入念に検討した。
ウエストタワーとイーストタワーでは階数が異なり、工事量に差があることを見越し、まずウエストタワーの地下から着手。その後、イーストタワーの地下工事を行いながら、ウエストタワーの地上の鉄骨組み立てを進める。
協力会社との早期契約締結も進めた。現場を取り仕切る所長の佐藤は「作業員の労務のピークを極力抑え、2棟で構成される高層ビルを建てることは、簡単ではありません。着工前に作業手順を入念に検討して施工シナリオを作成しました」と言う。
設計施工を活かした地下工事
掘削量を必要最小限にした設計にするため、地下は1階とし、地下空間をできるだけ狭くして、工事量を減らしている。
掘削は切梁支保工などで山留(やまどめ)壁を支えながら行い、基礎地中梁から上へ地下躯体を造り上げる順打ち工法を採用した。逆打(さかう)ち工法とは異なり、地下と地上の同時施工ができないこの工法では地下工事の短工期化が重要になったが、軟弱な地盤であり、山留壁の変位を抑えるために、切梁を細かいピッチで設置していく必要があった。
施工効率を上げるため、切梁を集中的に配置して作業空間を広く確保できる一方向の集中切梁工法、端部は大火打(だいひう)ち梁とアースアンカーをそれぞれ採用した。
また、自立式山留を採用するため一部地下階なしに設計変更。公道とウエストタワーが近接し、自立式山留に必要なアースアンカーを打設する空間が確保できなかったことから、敷地境界から施工に必要な空間を確保するよう地下躯体の形状を変更した。施工者の意見を設計に反映し、工期短縮とコスト低減を図れるのが設計施工の良いところだ。
仮設構台を長期にわたって活用
円滑に工事を進めるうえで、工程上の鍵になったのが、ウエストタワーとイーストタワー2棟をつなぐ、グランモールエリアの工事開始時期だった。このエリアはイベントスペースとなり、大屋根を設置する工事がある。敷地を最大限に使った配置計画により、工事ヤードが十分に取れないため、現在はグランモールエリアのスペースに2棟を施工するための工事車両動線として仮設構台を設置している。「2棟の工事進捗を遅らせないよう、鉄骨組み立て工事・躯体工事がある程度終わったところで撤去する、できる限り仮設構台を残すという判断をしました」と佐藤は言う。
2棟は予定通り上棟し、仮設構台を撤去する時期が近づく。工事が進むうち、隣接する敷地の一部を借りることができたため、工事車両動線を確保したうえに、資機材置き場の不足も解消。仮設構台を撤去しても工事に影響を及ぼさない手当てができた。
佐藤は「着工前に各工事のボリュームを正確に把握し、いつまでグランモールエリアの工事着手を待てるのかを判断しました。結果として、当初工程より数ヵ月前倒して工事を進めることができています。最も効率が良い施工方法を突き詰めた結果です」と胸を張る。
ZEB Readyの取得 -地球環境に配慮した建物の実現-
建物の価値を上げることがオフィステナント誘致のアピールポイントとなるため、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の評価で、建築物全体は最高ランクである星5つ、オフィス部分は「ZEB Ready(※1)」を取得している。
エココンシャス(※2)に対する事業者としての姿勢の実現、建物の付加価値向上を目的に行った大林組の設計変更提案によるものであり、ZEB Readyの取得は、みなとみらい21中央地区で初となる。
特徴的なのは、熱負荷を低減する外皮性能だ。垂直ルーバー、コンパクトダブルスキン、水平ルーバーの3種類のガラスカーテンウォールをそれぞれが熱負荷低減の効果を最大限に発揮する場所に配置。ルーバーの設置間隔や角度にも着目して熱の負荷削減効果を検証し、方位ごとに適した外装デザインとするとともに空調機容量も最適化し、消費エネルギーの低減を実現した。
- ※1 ZEB Ready
基準ビルに対して設定された消費エネルギーを50%以下に抑えた省エネビル。ZEBは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称 - ※2 エココンシャス
ecology conscious(エコロジー・コンシャス)の略称。自然環境の保護に強い関心を示すこと
真の働き方改革と働きがい
働き方改革は、労働時間で評価されることが多いが、「社員がいかに働きがいを見つけ出し、気持ちよく働けるかが大事だと考え、まず執務環境づくりに取り組みました」と所長 佐藤は言う。
工事事務所には、最新の什器・備品を導入して環境を改善。さらに、リラックスできてコミュニケーションが生まれやすく、業務に集中できるオフィスをめざして、さまざまな工夫を行った。その一つが工事事務所内のゾーニングだ。執務スペース内をアクティブゾーン、ソロワークゾーンなどに区分している。
外部と分断することで集中力が高まり、執務スペースでは各ゾーンで横のコミュニケーションが活性化する。各業務の間に溝が生じにくくなり、現場内の調整がうまく進むようになった。
執務環境の改善と同時にICT活用も積極的に行っている。eYACHO(建設現場の施工管理アプリ)の電子回覧を原則とし、Teamsによる関係者への情報共有を行うことで、ペーパーレスを徹底した。
一つひとつの積み重ねが、仕事に集中する場所をつくり出し、やりがいを感じることにつながっている。さまざまな工夫の結果、当初計画に比べて生産性は大幅に向上した。佐藤は「現場で『無』から『有』をつくり出すダイナミックさは、他業界にはない建設業の魅力です。そのやりがいを感じられる職場にするため、現場が柔軟に変わっていかなければならないと考えています」と熱く語った。
(取材2023年3月)
工事概要
名称 | (仮称)みなとみらい21中央地区53街区開発事業新築工事 |
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場所 | 神奈川県横浜市 |
発注 | 大林組、京浜急行電鉄、日鉄興和不動産、ヤマハ、みなとみらい53EAST合同会社(大林組が出資する特別目的会社) |
設計 | 大林組 |
概要 | S造・SRC造・CFT造、B1F、30F、PH2F、2棟、総延18万3,132m²、ホテル客室数150室 |
工期 | 2021年4月~2024年3月 |
施工 | 大林組 |