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特集 液状化現象のメカニズム

2011. 09. 27

このたびの東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。大林組は、一日も早い復興に向けて全力で取り組んでまいります。

東日本大震災では、震源から遠く離れた東京湾周辺の地域にまで「地盤の液状化現象」による大規模な被害が発生しました。液状化とは、一見硬そうな地盤が地震の揺れで液体状になることです。その結果、地上の建物や道路などが沈下したり傾いたりするだけでなく、水道管が浮き上がり断水するなどライフラインへの影響も甚大です。

液状化は、人々の生活や都市機能に影響を与えるため、未然に防ぐことが重要です。
では、液状化はなぜ起こるのでしょうか。その仕組みからご紹介します。

液状化しやすい地盤

液状化はどこでも起こるわけではありません。以下の3つの要因がそろったときに液状化が起こる可能性が高くなるといわれています。

緩い砂地盤

海岸や河口付近、埋立地、河川の扇状地などで多くみられます。地盤の硬さを示すN値が20以下で、土の粒子の大きさが0.03mm~0.5mmの砂地盤です。(※1

地下水の位置

地下水位が地表面から10m以内で、地下水位が浅いほど液状化が起こりやすくなります。(※2

大きな地震の揺れ

震度5以上といわれています。揺れている時間が長くなると被害が大きくなる傾向にあります。(※3

※1

N値とは、地盤に差し込んだ杭に、所定の方法で重りを落下させ、一定の深さに打ち込むために必要な落下回数で、地盤の硬さを示します。N値が大きいほど地盤は硬くなります。

目安として、軟弱な地盤はN値が5以下で、大きな建物を建てるときに杭が不要なほど硬い地盤はN値30以上です。

また、土の粒子の大きさにも関係があり、粘土地盤では液状化は発生しません。

※2

ただし戸建て住宅は軽いため、地下水位が地表面から3mより深ければ、液状化の発生による建物自体の被害は生じにくいと考えられます。

※3

東日本大震災では、震度5を記録した地域で大規模な液状化が発生しました。揺れの長さはマグニチュードに比例するので、マグニチュードの大きな地震では揺れる時間が長くなり、液状化が発生する可能性が高くなります。また、揺れの時間が長い場合は、震度4でも液状化する可能性があります。

液状化発生のメカニズム

液状化しやすい砂地盤は、粒と粒の隙間が水で満たされています。

  • mechanism01.gif
  • 平常時:地盤は砂粒同士が接触していることで強さを保っています。
  • 地震時:地震の揺れにより地盤全体が変形して隙間の水を押し出す力が働き、隙間の水圧が
         高くなり、砂粒同士が接触する力を弱めて「泥水」のような状態になります。
  • 地震後:泥水の中の砂粒が沈降し、砂粒と砂粒の隙間が小さくなり地盤が沈下します。

圧力の高くなった地下水は「噴砂」や「噴水」として地表面に噴き出します。

地上にある建物などの重いものは沈降し、地下の水道管などの軽いものは浮上します。

地下から地表面に噴き出した「噴砂」

液状化の影響

1964年の新潟地震で、液状化により県営アパートが大きく傾く被害が発生したことから社会に広く知られるようになりました(※5)。液状化は、生活の場である建物が沈下したり傾いたりするだけでなく、さらに二次的な問題を発生させます。

給排水の障害

  • 撮影:(株)エイト日本技術開発 磯山龍二

建物とつながっている上下水道の管路が切断されたり、引き裂かれたりします。切断部分から土砂が入るため、液状化していない地域にも影響があります。

緊急車両などの交通障害や事故の誘発

道路では噴砂の堆積物や、埋設されていたマンホールなどの地中構造物の浮き上がりにより、交通障害を引き起こします。

橋の倒壊による交通障害

  • 撮影:(株)エイト日本技術開発 磯山龍二

河川周辺では液状化が生じやすく、また、広域に液状化が生じると河川側に地盤全体が大きく横に移動する側方流動という現象で橋が落ちることもあります。また、橋と接続する道路の沈下で段差が生じ、通行ができなくなります。現在では主要な橋は液状化の対策が施されているため、その危険性は少ないと考えられます。

その他、噴砂が乾いた場合に、粉塵として舞い上がり、衛生面での障害がでてきます。

※5

液状化被害の歴史は古く、近代でも関東大震災(1923年)や新潟地震(1964年)、宮城県沖地震(1978年)において多くの液状化被害が発生しています。特に新潟地震では4階建ての県営アパートが大きく傾き、液状化被害が広く知られることとなりました。

これを契機に建物や橋などの設計において液状化の影響を考慮することが定められましたが、1995年の阪神大震災でも、神戸港の港湾施設が液状化を主因とする大きな被害を受け、その機能が失われました。

地盤と建造物の液状化対策

液状化の対策は、地盤に施す場合と建造物に施す場合の大きく二つに分かれます。地盤に施す場合は液状化させないことが基本で、建造物に施す場合は液状化しても必要な機能を保つことが基本になります。 一般的な対策方法とその特徴を表に示します。  

既存の建造物直下の地盤に施す工法もありますが、特殊な機械の使用や、建造物に影響を与えないように計測管理や防護措置が必要になることから、一般的に新設時の工事と比較して大幅なコストアップにつながります。

東日本大震災における液状化:被害の特徴とその分析

被害面積は過去最大級

東日本大震災での液状化被害の最大の特徴は、その範囲が広いことです。液状化が発生した面積は42km²で、過去最大級の広さといわれています。液状化対策が施されていない建造物の基礎部分、インフラ施設(一般道路・歩道、上下水道、マンホール)に大きな被害が発生し、地震後の地域の復旧活動や住民の生活に大きな障害となりました。

東北地方でも液状化

一方、津波による未曾有の被害が報じられている東北地方においても、液状化に起因すると考えられる河川堤防の変状や沈下が数百ヵ所で確認されています。また、津波により杭が引き抜けて倒壊した建物の中には、液状化が要因の一つとなったのではないかと推測されているものもあります。

浦安での液状化:これまでの地震との違い

東日本大震災では、南北450km、東西200kmの広大な範囲の断層が動いたことにより、震源域から離れた東京湾周辺地域や関東各地には、地表面の揺れがある程度大きく(震度5程度)、継続時間が長い(約5分)、「長くゆっくりした揺れ」が伝播しました。

そこで、今回の地震とこれまでの地震の液状化に対する影響を比較するため、液状化しやすい仮想地盤を対象として、東日本大震災で観測された地震波と、阪神・淡路大震災での観測地震波を用いた数値計算を行いました。
まずは地震波(※6)の特徴を比べます。

東日本大震災の場合:千葉県浦安市で観測された震度5の地震波(K-net浦安)

継続時間が長い

阪神・淡路大震災での観測地震波を震度5に縮小した場合:

継続時間が短い

阪神・淡路大震災での観測地震波(震度7)

加速度振幅が大きい(震度5の5倍)

数値計算による比較

下のグラフは地盤の液状化の程度(※7)を示したものですが、黄色い部分が液状化した状態を示しています。
阪神・淡路大震災の観測地震波を震度5程度に縮小した場合には、地盤は浅い部分しか液状化しないのに対して、浦安の観測記録を用いた場合には同じ震度5の揺れでも深い部分まで液状化してしまいます。
また、震度7の揺れである阪神・淡路大震災の観測地震波と、浦安の観測記録では地盤の液状化の程度は同じくらいになりますが、地震動の継続時間の長い浦安の地震動では、地震後に生じる地盤の沈下量が大きくなることが分かりました。東日本大震災の沈下量を1とすると、阪神・淡路大震災ではその半分以下の沈下量です。
東日本大震災の揺れは、大規模な液状化被害を発生しやすいものだったといえます。

※6

液状化する地盤の下で取り出した地震波形です。

※7

図の横軸は地盤の液状化の程度を数値化したもので、1になると地盤が泥水状態になることを示しています。

大林組の液状化への取り組み

大林組は、大型の実験施設と高度な数値シミュレーション解析を用いて、液状化発生メカニズムの解明から、効果的な対策工法の開発を行ってきました。ここではその代表的な対策技術をご紹介します。 

大林組の液状化対策技術

地盤を固化する「TOFT(トフト)工法

TOFT(トフト)工法は液状化する地盤を全面的に固めるのではなく、格子状に囲むように固化し、格子が変形しないように耐えることで地盤の揺れを低減させ、液状化を防止します。地盤全体を固めるのに比べて大幅なコストダウンが期待できます。

道路の変形を抑制する「タフロード工法」

タフロード工法は、既存の対策工法(地盤と建造物の液状化対策)から発想を転換して、液状化の発生は許容するものの、道路部分をジオグリッド(格子状のネット型シート)で補強して変形しにくくします。また、軽量土を使用することで、液状化時の変形に対して重量バランスを保つ構造となっています。
このため、段差などの変形が起こりにくくなり、車両の走行が確保できます。大規模な改修工事が不要で、臨海部の工場の構内道路などの対策に適しています。

大林組は、今後も調査、研究、開発を続け、安心して暮らせる街づくりに貢献していきます。

(注)
兵庫県南部地震・東北地方太平洋沖地震は地震の名称であり、阪神淡路大震災・東日本大震災は災害の名称です。学術書ではこれらを区別していますが、このホームページでは災害名に統一して用いました。

(謝辞)
調査の実施および分析にあたり(独)防災科学技術研究所のK-Net、(財)沿岸技術研究センターが作成したポートアイランド波を使用させていただきました。記して感謝の意を表します。

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