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特集 巨大地震に備える 1

超高層ビルを揺らす長周期地震動

2013. 03. 04

東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。大林組は、一日も早い復興に向けて全力で取り組んでまいります。

2011年3月11日の東日本大震災から2年を迎えます。この大震災で得た教訓や、あらためて浮き彫りになった課題を風化させず、次の地震に社会全体で備えることが大切です。

私たちは東日本大震災で「最大級の災害に備えること」の重要性を再認識しました。建設分野では、古い建物などの耐震対策に加え、あらためて以下の課題への対応が必要だと考えます。

  • 震源から遠く離れた都市部にある「超高層ビルの大きな揺れ」
  • 大きな「津波」による人々や建造物への被害
  • 臨海部の埋め立て地などにおける「液状化」による被害
    参考:特集 液状化現象のメカニズム

今特集では、「超高層ビルの大きな揺れ」と「津波」の課題に焦点を当て、2回に分けてご紹介します。1回目は、各都市で特徴的な現象が記録され、あらためて注目を集めた「超高層ビルの大きな揺れ」についてです。

      

1. 科学の進歩と地震動

東日本大震災では震源から遠く離れた首都圏や大阪などで、地面の揺れよりも超高層ビルの上部がかなり大きく揺れ、居住者に恐怖感を与えるとともに、家具や内装、エレベーターなどの設備に被害をもたらしました。原因はゆっくり長く揺れる「長周期地震動(※1)」です。

残らなかった記録

長周期地震動の存在は、以前から知られていましたが、1990年代中ごろ(※2)まではほとんど注目されていませんでした。

その主な理由は、地震計の測定精度が低かったこと、設置台数が少なく(※3)地震の揺れがあまり記録されていなかったこと、また超高層ビルも今より数が少なく、被害が目に見えてこなかったことなどです。

このため研究の主流にならず、一般的な設計には長周期地震動は考慮されていませんでした。

長周期地震動の影響を受けやすい高さ100m以上の超高層ビルの総棟数の推移
(BLUE STYLE COMのデータから集計)

地震計の充実と超高層ビルの増加

1995年の阪神・淡路大震災以降、高精度の地震計が数多く設置され、建設技術も進んで超高層ビルも増えました。これに伴い、長周期地震動による地面の揺れや、超高層ビルの揺れも記録されるようになりました。東日本大震災で、多数の超高層ビルが非常に大きく揺れる現象が捉えられ、あらためて注目されることになりました。

東日本大震災で経験したような長周期地震動や超高層ビルの揺れは、今後も起こるのでしょうか。

2. 不思議な波

「南海トラフ」巨大地震とは

2012年3月、内閣府は「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大地震を検討すべき」という考え方に基づき、近い将来起こるとみられる地震の規模や災害範囲などを公開しました。

想定されたのは、駿河湾から四国南部に伸びる海底の溝「南海トラフ(※4)」に沿った地帯で起こる巨大地震 です。

大林組は、巨大地震の発生時に長周期地震動がどのように伝わるのかを予測計算(試算)してみました

南海トラフに沿った巨大地震の震源域
(2012年3月内閣府発表による)
  • 南海トラフ巨大地震の模擬地震動で長周期地震動が伝わる様子(※5)(約30秒)

南海トラフ巨大地震による地面の揺れは長時間続き、そのまま遠くまで伝わっていくことが分かります。特に、東京、名古屋、大阪など、震源から遠く離れた広い平野部では、地下の堆積層(※6)で揺れが増幅し、地面はゆっくり、大きく、長時間、揺れ続けます。この不思議な波が長周期地震動です。

3. 南海トラフ巨大地震で揺れるビル

数値計算でビルの揺れを予測

南海トラフ巨大地震が発生し、長周期地震動が首都圏に伝わった場合に、地面と一般的な超高層ビルの上部がどのように揺れるのか、数値計算を行いました。

共振する超高層ビル

最初の地震波(P波)が到達し、しばらくすると地面が長周期地震動で揺れ始めます。この揺れに超高層ビルが共振(※7)し、建物の揺れは徐々に大きくなります。やがて揺れ幅は、東日本大震災の2倍程度となり建物は10分以上揺れ続けます。大阪や名古屋では首都圏より震源域に近いため、揺れがさらに大きくなる可能性があります。

  • 超高層ビル上部での揺れと地面の揺れの比較

4. 揺れを抑える

居住者の安全・安心のために揺れを抑制

南海トラフ巨大地震が発生しても、一般的な超高層ビルは倒壊することはない(※8)と今のところ考えられています。ただし、建物の損傷や家具・内装・設備の被害を抑制し、居住者の不安を最小限にするためには、揺れを抑えることが重要です。

建物の揺れのエネルギーを吸収する制振ダンパー

超高層ビルの揺れを抑える技術として制振ダンパーがあります。一般的に制振ダンパーは、柱や梁の間などに取り付け、地震時に伸びたり縮んだりすることで建物の揺れのエネルギーを吸収します。制振ダンパーの活用は、新築時だけでなく、既存の超高層ビルの長周期地震動対策技術として有望視されています。

  • 超高層ビル上部での制振装置なし(上)と制振装置あり(下)の揺れの比較

5. 大林組の取り組み

ビルの揺れを抑えるさまざまな方法があります。ここでは大林組が開発した代表的な制振技術をご紹介します。

車にブレーキをかけるように建物の揺れを抑える「ブレーキダンパー

強風や地震で建物が揺れたとき、走行中の車がブレーキをかけるようにステンレス板とブレーキ材の間で摩擦力を発生させ、揺れのエネルギーを吸収する制振システムです。皿ばね(※9)を介してボルトでステンレス材とブレーキ材を締め込んでいます。

実際の大きさの柱と梁の間にブレーキダンパーを設置し、震動実験を行いました。ブレーキダンパーが動く様子をご覧ください。

  • 柱と梁の間に斜めにブレーキダンパーを設置して揺れを抑制します(約20秒)

  • 伸び縮みを繰り返して揺れのエネルギーを吸収します(約20秒)

風の揺れから大地震まで幅広い揺れを抑える「ハイブリッドブレーキダンパー

小さな揺れにも対応するゴムや樹脂などの粘弾性ダンパーと、ブレーキダンパーを組み合わせたハイブリッドブレーキダンパーは、風揺れから大地震まで幅広い揺れを抑え、揺れが続く時間も短くします。

柱の間に設置したハイブリッドブレーキダンパーが、地震の際にどのように動いて揺れを抑えるのかを動画でご覧ください。

揺れ方の異なる2つの構造体をつないで揺れを吸収する
デュアル・フレーム・システム(DFS)」

建物中央に心棒として構築した固い壁の塔と、建物外側の柱と梁の骨組みでできた部分は、揺れやすさが異なります。この2つの構造体をオイルダンパー(制振ダンパーの一種)でつなぎ、建物全体の揺れのエネルギーを効果的に吸収する最先端の制振構造がデュアル・フレーム・システム(DFS)です。

地震時に建物に加わる水平方向の力を、3分の1程度に低減して建物の損傷を減らすほか、上層階の床の揺れも小さくなるため、家具が転倒して人が下敷きになるような災害も低減できます。

  • DFSの概要(約2分)

地震の揺れに耐えるように設計された耐震構造とDFSの揺れ方を比較する実験を行いました。DFSでは建物の揺れが抑えられていることが分かります。

  • 従来の耐震構造(左)とDFS(右)の揺れ方を比較する模型実験(約17秒)

未来のために、技術で備える

日頃から、想定される地震についてよく知り、被災状況を具体的に設定した訓練を繰り返し、有事の際に的確な判断ができるよう備えることが大切です。同様に建物も制振などの技術をあらかじめ設置しておくことで、私たちは災害に備えることができます。
大林組は、日々の暮らしを快適にするとともに、災害時には安全と安心を提供する地震対策技術の開発を進めています。地震に強い街づくりに貢献できるよう、これからも全力で取り組んでまいります。

次回は「津波」をテーマに、その予測と対策についてご紹介します。
 

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