プロジェクト最前線

長崎で生まれ変わるスポーツの晴れ舞台

長崎県立総合運動公園新陸上競技場(仮称)新築工事(2工区)

2012. 10. 23

長崎の街を歩くと、所々で目にする「長崎がんばらんば国体」の文字。2014(平成26)年10月、長崎の地で開催される国体(国民体育大会)の愛称だ。続く障がい者スポーツ大会は、「長崎がんばらんば大会」の名で親しまれる。

大会は長崎県全域に会場を置いて開催される。諫早市にある県立総合運動公園の一角で進められているのは、そのメーン会場となる新陸上競技場の建設だ。旧陸上競技場は、1969(昭和44)年の国体を機に造られ、40年にわたり、長崎県民のスポーツ拠点として活躍してきたが、老朽化に伴って建て替えが決定した。

新陸上競技場は2万席規模。スタンドは2層で構成され、上層が下層スタンドに重なるように配される、完全2段式だ。上層スタンドの客席はよりフィールドに近付き、臨場感溢れる観戦が可能になる。

また、スタンドすべてに膜屋根がかけられる。都道府県が保有するスタジアムで、全席に屋根がかかるというのは日本初。「競技しやすく・観やすく・活用しやすい」をコンセプトとした、グレードの高い競技場だ。

着々と組み立てられる様子は、現場の外からでも見ることができる

2つのJVが造る競技場

工事は、競技場を2つの工区に分けて発注された。大林組JVが担当するのはバックスタンド側の「2工区」で、大型スクリーンとバックスタンド下の雨天走路を含む。メインスタンドを有する「1工区」は他社JVの担当だ。

両工区の往来を遮るものは何もない。双方で行き来して、互いの施工方法を見学することもあるそうだ。作業ヤードには、完成後トラックやフィールドとなる中央部分を利用。真ん中をカラーコーンで仕切り、両工区で半分ずつ使用している。競技場という特徴ある施設の施工に加え、こんな珍しい作業風景を見ることができる現場だ。

競技場全体の工期は2013(平成25)年の6月まで。しかし、2工区担当の大林組JVがめざすのは、作業ヤードにしているフィールド部分を2012(平成24)年の6月半ば、トラック部分を8月末までに明け渡すことだ。その後、1工区でトラックやフィールドが整備される。期限を厳守するためにも、無駄のない施工への工夫は欠かせない。

競技場全景。2つの工区を区別するのは、外周をなぞるように並ぶ柱にかぶせられたシートの色だ。奥のオレンジが大林組JV、手前のブルーが他社JVの区間を示す

確かなものを速く造るために

PC(プレキャストコンクリート)板の活用はその一つ。客席部分のベースには段床PC板、スタンド先端部には鼻先PC板を採用した。現場でコンクリートを打つのではなく、工場で製作されたPC板を組み立てていく。確かな品質を保ちながらも工期を短縮でき、仕上がりも美しい。

施工の手順にも工夫がある。下層スタンド構築、上層スタンド構築、屋根鉄骨据え付け。この繰り返しが施工の大まかな手順になるが、高さよりも横の距離に圧倒的なかさを持つこの施設、ビルを建てるように、1フロアごとに積み上げていたのではロスが多い。

そこで工区内を幾つかに区分し、一連の流れを部分ごとに進める、「横流れ作業」を実施。これで多くの作業員が、日や場所を変え、無駄なく作業できる。しかし、細かく区分するほど取り合い部分が増えるのも事実。その調整は煩雑だが、調整次第で、工事の進捗に、より大きな効果を生み出せるということでもある。

またここには、2つのJVに加え、設備関連で5つのJV、そのほかに生コン業者が8社と、実に29社が携わる。そのやりとりにも時間と労力を割く日々だ。

客席部分の段床。上に背もたれ付きの客席シートを設置する
鼻先PC板を設置して造られた、スタンドの先端部。きれいな曲線を描く

チャンスを活かし、次代につなぐ

指揮を執る現場所長の小松は、以前鳥栖スタジアム(佐賀県)の建設に携わった。今季、Jリーグディビジョン1に昇格したサガン鳥栖がホームとする、球技専用のスタジアムだ。そもそもスポーツスタジアム自体、数が少ないもの。今回の工事の応札に、同様施設の施工経験を持つ監理技術者の存在が必須だったことを考えると、このチャンスに経験者を増やしたいというのがその思いだ。

ゼロから物を組み立てていく方法、この現場だからこそ学べることを頭と体で感じ、身に付けてほしいと考える。それを受け、ここでは2人の工事長が、それぞれの担当分野の先頭に立ち、日々の調整に当たっている。例の少ない施設の建設ゆえに、新鮮で勉強になる。共にそう話してくれたことが印象的だ。

並び始めた屋根鉄骨は、大林組の工区で33体。最後、一気に白い膜屋根を張る。

完成後、ここでたくさんの人が汗を流す。真剣勝負からは未知なる力が発掘され、大小さまざまなドラマも生み出されることだろう。新競技場は、Jリーグ誘致の一翼を担うことも期待される。世代を受け継ぎながら進むものづくりの心が、今、その舞台を造っている。

(取材2012年4月)

作業員の手で組み立てられた屋根鉄骨が、クレーンで空に舞い上がる

工事概要

名称長崎県立総合運動公園新陸上競技場(仮称)新築工事(2工区)
場所長崎県諫早市宇都町
発注長崎県
設計日本設計
概要SRC造・RC造・S造、4F、PH付、延2万9,672m2
工期2011年3月~2013年2月
施工大林組、谷川建設、野副建設

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