プロジェクト最前線

まちに安心を、地から空へダムをつくる

浅川ダム建設工事

2012. 11. 29

長野市飯綱山に端を発する一級河川、浅川。市街地を流下し、千曲川に注ぐ。その川幅はそう広くないものの、一部分は天井川であったことから、幾度となく氾濫を起こしてきた。その治水対策として、下流域で行われてきたのは河川改修。上流での対策が、治水専用の浅川ダムの建設だ。

現場は、長野市中心部から15分ほど車を走らせた山中にある。周りを囲むのは、豊かな森林に民家やリンゴ畑が点在する風景だ。居住区域に近いが故、騒音・振動対策には一層の注意を払う。

また、ここは長野県屈指の観光地、戸隠・飯綱高原へつながる玄関口。地元や観光客への配慮から、ダンプなど大型車の走行には、時間やルートの制限がある。

正面の山肌に見える赤いラインがダム堤体の形
浅川はダムサイト右岸側のトンネルを通り、現場を迂回(うかい)して本来の流れに戻る

点在する「スメクタイト」

造られているのは治水専用の重力式コンクリートダムだ。型式は流水型で、別名「穴あきダム」。普段、川はせき止められることなく、堤体下部に開けられた水路を流れるが、洪水時には水路に入り切らない水が堤体の上流側に貯まっていく仕組みで、大量の水が一気に下流へ行くのを防ぐ。この水路を「常用洪水吐き」といい、中には魚道も設置。自然への影響を低減した、環境に優しいダムだ。

工事の難関は、基礎岩盤への対応だ。一帯に広がる裾花(すそばな)凝灰岩に無数に点在している「スメクタイト」の存在がその要因。日本のダムの基礎岩盤としては例がないものだ。

スメクタイトとは、マグマによる熱水で岩石が変質してできた粘土鉱物で、掘削による応力解放と吸水反応により膨潤し、乾湿繰り返しを受けてすぐに劣化し脆くなる。ダムのような巨大コンクリート構造物の地盤としては厄介な性質だ。しかし掘削してすぐの状態なら、このダムを支えるのに十分な強度を有する。

流水型ダムの構造(平常時、洪水時)
水路右下部分に設けられる魚道。魚はくぼみで休みながら泳ぐことができる
触ればポロポロと崩れるスメクタイト

巨大構造物を造るための繊細な作業

ねじり鎌でスメクタイトを削り取りバキュームで吸い取る

現場ではこの岩盤への対応として、仕上げ掘削完了後、コンクリート打設の前に、表面のスメクタイトを手作業で除去する「岩盤清掃」を行っている。清掃後もすぐに劣化し始めるため、仕上げ掘削開始後24時間以内にコンクリートで覆う必要がある。

時間勝負のこの作業を円滑に行うため、通常は1回で済む仕上げ掘削を、ここでは1次と2次の2回に分けるという手間をかける。例えば河床部の仕上げ掘削の厚みは80cm。1次仕上げ掘削でその内70cmを削っておき、10日以内に2次仕上げ掘削で残りの10cmを一気に削る。そして、岩盤清掃、コンクリート打設と続けるのだ。

気象判断も重要だ。タイミング悪く4mm/hr以上の雨が降れば、コンクリート打設はできない。諸条件を読み、工程管理に神経を使いつつ、仕上げ掘削、岩盤清掃、コンクリート打設を繰り返して工事は進んでいる。

さらに上流では、地すべり対策工事も行っている。ダムに水が貯まっても地山が崩れぬよう、押さえ盛土をする工事だ。

ここでは、ダムの掘削土にセメントを混ぜたものを振動ローラーで転圧するCSG工法を採用。材料を現場で得られるので、環境負荷とコストを低減、近年のダム建設で実績を挙げている工法だ。ここでの経験を今後、いかにほかの現場で活かしていくかを視野に入れ、施工に取り組んでいる。

時間的な制約のあるコンクリート打設。作業は夜間に行うこともある
CSG工法による地すべり対策。川の流れは水路(写真左側)に迂回させている。最終的には赤いラインの辺りまで(河床から約10m)CSGを打設する

ダム造りのやりがい

「未開拓の場所に人、機械、材料が集結するダムの現場。苦労もあるが、巨大な構造物が地から空に向かって形になっていく喜びもある」。現場の若手職員は、ダム造りのやりがいを、こう表現した。

「ダム建設に携わる者には、豊富な知識と広い視野が求められる」と言うのは所長の坂詰だ。広いダム現場では幾つもの工種が輻輳(ふくそう)して行われるため、施工管理や安全管理の守備範囲は広い。

坂詰の考えるダム造りの醍醐味(だいごみ)は、仮設備の計画に始まる乗り込みの作業にある。その成功が後の効率化に大きく作用するからだ。

この現場の骨材貯蔵・運搬設備、コンクリートを製造するバッチャープラント、ダム用タワークレーンなどの仮設備も、地形や経済性、工事中の洪水対策などを考慮して、綿密な計画の上に配置されている。

ここが七つ目のダム現場となる坂詰。かつて携わったダムが、洪水を防いだと知った時は、本当にうれしかったそうだ。現在、大林組唯一のダム現場であるこの地で、できるだけ多くの後輩にダム造りのノウハウを伝えたいと言う。

緻密な計画に繊細な作業。その上にダムは建つ。人々が暮らす下流域のまちからその姿は見えないけれど、ダムは山中にどっしりと腰を据え、長きにわたり、流域の土地を守る。

(取材2012年7月)

頑丈なダム用タワークレーン。6月に竣工した丹生川多目的ダムの現場で使っていたものだ
完成予想図

工事概要

名称浅川ダム建設工事
場所長野市浅川一ノ瀬
発注長野県
設計長野県
概要堤高53m、堤頂長165m、堤体積14万1,000m3、ダム天端高EL566m、総貯水容量110万m3
主要工事数量上流二次締切1,606m3、基礎掘削23万4,500m3、 堤体工14万1,000m3、基礎処理工7,020m、法面保護工1万8,540m2、CSG地すべり対策工6万5,100m3
工期2010年3月~2017年3月
施工大林組、守谷商会、川中島建設

ページトップへ