プロジェクト最前線

大阪の玄関口にまちづくり進行中

うめきた先行開発区域プロジェクト

2012. 12. 25

左手前からC、B、Aブロック、北口広場、その奥が大林組施工のJR大阪駅

都心に残された最後の一等地。そう言われるのはJR大阪駅北側に広がる約24haの開発区域だ。このうち約7haの先行開発区域における工事が、2013(平成25)年春の竣工に向かって大詰めに入っている。

動き出した新たなまちづくり

2002(平成14)年、大阪駅周辺地区が都市再生緊急整備地域に指定された。そして、大阪の未来をつくる新たなまちづくり構想が動き出す。大林組は事業者として参画すべく始動。2003(平成15)年にはプロジェクトチームを立ち上げ、2006(平成18)年、事業者としての参画が決まる。

施工するのは5つの工事事務所から成る梅田北ヤード共同企業体。大林組と他社が「完全に対等」なJVを組み、工事に挑む。事業者は大林組を含めた12社、設計には同じく大林組を入れた5社が携わるビッグプロジェクト。完成後の名は「グランフロント大阪」だ。

「グランフロント大阪」の施設概要

駅から続く集いの場「北口広場」

大林組が施工したJR大阪駅。その吹き抜けの大空間から全景を眺められるのが、グランフロント大阪の玄関口、イベント広場ともなる「北口広場」の現場だ。

業界のイメージアップも意識し、場内整理などに一層配慮して施工に当たる。水景がふんだんに配される設計で、滝となる地上から地下にかけて、すり鉢状に吹き抜ける複雑な形状。土地は三角形で、特に地下掘削時の切梁設置に苦労した。

「大阪駅からつながる空間として、たくさんの人が集まる場になってほしい」と北口広場を担当する所長の稲垣は言う。ここが始まる前、大阪駅の現場を担当していた。今は買い物客で賑わう大阪駅の地下街に、当時、この広場の地下とつなげるため造った接合部分。その接合も無事完了した。

(上)眺める人を楽しませようとクレーンの先に風船や虹の模様をプラス (下)北口広場の完成予想図

駅前に構える存在感「Aブロック」

広場から続くAブロックでは商業施設とオフィスが入る高層ビルを造る。エントランス周りには、訪れる人を迎え入れる大きな吹き抜け空間が設けられる。「3年という長い工期中、緊張感を保つのは難しい。近い目標を一つずつクリアしながら進んでいく」とAブロックを担当する所長の浅田は言う。

隣のBブロックとの間には、40m幅の道路がある。Bブロックへと動線をつなぐため、この道路をまたいで歩行者デッキと地下車路を設けるが、この工事もAブロックの担当だ。

公共の道路に関わるため、ほかのブロックに比べて行政協議が圧倒的に多い。デッキの設置には行政機関との調整だけで半年が費やされた。道路の下にはガスや電気などの設備が相当数埋め込まれており、それぞれの迂回(うかい)が必要。関係機関との複雑かつ綿密な調整が工事進捗の鍵を握った。

(上)入り口で存在感を放つ高さ約43mの柱。現場では「御柱」の愛称で呼ばれる(下)銀色のパイプはエアインテイクと呼ばれる自然換気口

開発コンセプトの要「Bブロック」

高層ビル中央の2棟とそれをつなぐ低層の建物からなるBブロック

Bブロックが担当するのはホテルやオフィス、商業施設が入る2棟の高層ビルと、双方の足元をつなぐ低層の建物。この低層部分にグランフロント大阪の中核施設、「ナレッジ・キャピタル」が位置する。地下には大型コンベンションセンター、地上には「ナレッジプラザ」となる7層吹き抜けガラス張り大空間、屋上庭園など、多様な施設があるのが特徴だ。

2つの棟は設計監理担当会社が異なり、何かを決めるときは双方への調整が必要。書類もかかる時間も倍になるが、それも確かなものを造るため。やるべき仕事が山積する中で、「まちびらきの時、歴史的なプロジェクトに携われた誇りとものづくりの喜びを、あらためて実感できると思う」とBブロックを担当する所長の仁科は言う。モチベーションを持ち続けて頑張ろう。所員にはいつもそう言っているそうだ。

ガラス張りの大空間で天井の仕上げが終了。差し込む光に包まれてつり足場がゆっくりと降りてくるさまは圧巻

住む人に喜びを「Cブロック」

駅から進むと一番奥に位置するCブロック。ここでは高級分譲マンションを施工中だ。材料一つにも、そのグレードの高さがうかがえる。

現場の合言葉は「出来栄えにこだわる」。例えば床のフローリングと大理石の接合部分に生まれてしまう段差に許される範囲は1mm未満。そんなこだわりのイメージを職人と共有し、一つひとつ妥協せずに施工は進む。その精細な進め方に、「職員には戸惑いもあるかもしれないが、皆よく付いてきてくれていると思う」と、Cブロックを担当する所長の安永は言う。

外部仕上げでは2ヵ所あるデザイン切り替え部分に手間がかかった。作業位置に合わせてクライミングしていく外周連層足場の、大幅な組み換えが伴うからだ。その山場も超えた今、マンションの優美な姿は、空に高く伸びている。

(上)コーナー部分にも特徴のある建物。「ザ・ホテル」とうたわれ、内部も豪華な造りだ(下)素材の接合部分を触って段差を確かめる

縁の下の力持ち「総合事務所」

梅田北ヤード共同企業体は、これら4つの事務所と総合事務所から成る集合体だ。「対等・公平・透明」の理念のもとに2社の「完全に対等」な関係で運営されている。各事務所には両社から所長クラスが一人ずつ投入され、所長と副所長を両社で分担。JVとして何かを決めるときは常に両社の合議制が取られる。

総合事務所は、その中で両社のバランスを図り全体をまとめる、いわば縁の下の力持ちだ。工程調整をはじめとする全体の検討の場では旗振り役となり、事業者や設計監理者、行政、近隣、マスコミへの対応ではJVを代表する役割を担う。総合事務所の総括所長と副総括所長は両社が工期の前後半で入れ替わる。

大林組側のトップとして公平な目を持って全体を見わたすのは、総括所長の羽田野だ。「この形がうまくいくのか、最初は誰もが分からなかったのではないか」と振り返る。

3年前から始まった組織づくり

JVの組織づくりは現場立ち上げの約3年前から始まった。両社の協議で経理、人事、運営などの規則が細かく決められ協定書に落とし込まれた。「両社の異なる規則を擦り合わせていく作業は、とても大変だった」と言うのは、当初から担当者として携わってきた、副所長の西川だ。

共通する資材や工事の単価は両社購買担当者によって一つずつ検証され、その情報を全事務所が共有している。すべてをJV仕様に作り変えるのは非効率と、経費、安全、品質などの管理には両社のシステムを使い分けることが決まった。そこで北口広場・A・Cブロックでは大林組、Bブロックでは他社のシステムを使用している。

これらの周到な準備、そして全スタッフがそれを徹底して守り通すことが、企業風土が違う両社の「完全に対等」なJV運営を可能にしている。

2010年7月。着工から数ヵ月、山留め、杭工事が進められていた頃だ

長い時を経て今に

事業コンペ提案の際のイメージ。「創造の宮」というコンセプトに思いを込めた

以前、ここには梅田貨物駅があった。その売却を受け、都市再生機構と鉄道運輸機構が共同で事業コンペ(競技)を実施。それに対し「古く、世界交流の拠点だったなにわのまちを今に復活させたいという思いで臨んだ」と言うのは、事業者の立場でプロジェクトに携わってきた、大阪本店 大阪都心再生室課長の橋本だ。

提示されたコンセプトは、「大学や企業の研究機能が集まり、新しいものをつくっていく」というものだ。それを、「大阪の持つ技術力とそこに集う人々が持つ英知の融合で、新しい何かが生まれる場所」として具現化したのが、産・官・学が皆で知の創造をめざす場、ナレッジ・キャピタルである。

またプロジェクトには公民連携の試みが多い。例えばA・Bブロック間に整備する「賑わい軸」は、道路占用許可制度の特例を利用し、歩道をカフェなどの商業施設と一体化して整備していくという、賑わい創出のための重要な仕かけだ。事業者として公共の場の利便性や安全性を確保しながら整備、運営していくために、行政との協議が繰り返されている。

「これから、社会にまちの真価が評価される。居心地が良くてまた来たくなる"自然体のまち"。それが提案の時からめざしてきたことで、つくり上げていかなければならないもの」と橋本。建物だけで"まち"は完成しない。そこに息を吹き込んでいく事業者としての立場に、より一層の責任感と緊張感、やりがいを感じる新たなステージが近づいている。

現場は広い。話を聞きながら現場を歩けば一日がかりだ。働くJV職員は取材時で約220人、作業員は約4,200人。総括所長の羽田野は言う。「このプロジェクトは開発、設計、現場など多くの社員が関わり、まさに大林組の底力を見せるもの。大阪の玄関口ともなる新しいまちづくりに携わることを誇りに、事業者、設計者、監理者の皆さんと全力で成し遂げたい」

次に桜が咲く頃、オープン予定のグランフロント大阪。そこには大林組がかけてきた力、年月、そして思いが込められる。そんなことを感じてまちを歩けば、きっと楽しさも倍増だ。

(取材2012年9月)

ナレッジプラザ "知的創造拠点" ナレッジ・キャピタルの中央に位置する大空間。技術の融合、発信の場となる
賑わい軸 まちの東西をつなぐ、A・Bブロック間の道。カフェなどとの一体化で"賑わい"を創出。公民連携の、初の試みだ
梅田北ヤード共同企業体、総括所長と4つの事務所の所長たち

工事概要

名称うめきた先行開発区域プロジェクト
場所大阪市北区大深町地内
事業者エヌ・ティ・ティ都市開発、大林組、オリックス不動産、関電不動産、 新日鉄興和不動産、積水ハウス、竹中工務店、東京建物、日本土地建物、 阪急電鉄、三井住友信託銀行、三菱地所
基本設計日建設計、三菱地所設計、NTTファシリティーズ
施工大林組、竹中工務店

【Aブロック】

実施設計(意匠・構造)三菱地所設計、大林組
実施設計(設備)日建設計、大林組
用途事務所、商業施設など
概要SRC造・S造一部CFT造、B3、38F、PH付、延18万7,933m2
工期2010年3月~2013年3月

【Bブロック】

実施設計(意匠・構造・設備)日建設計、NTTファシリティーズ、竹中工務店
用途事務所、商業施設、ホテルなど
概要SRC造・S造一部CFT造、B3、38F、PH2F、延29万4,755m2
工期2010年3月~2013年2月

【Cブロック】

実施設計(意匠・設備)三菱地所設計、大林組
実施設計(構造)三菱地所設計、竹中工務店
用途住宅、駐車場
概要RC造・S造・SRC造、B1、48F、PH2F、延7万3,907m2
工期2010年5月~2013年4月

【北口広場】

実施設計(意匠・構造・設備)日建設計、大林組
用途広場
概要RC造・SRC造・S造、B2、2F、延1万544m2
工期2011年8月~2013年2月

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