東日本大震災以降、電力供給は火力発電への依存が高まっている。そんな中、主要な燃料の一つであるLNG(液化天然ガス)の需要はますます増大しており、ガス事業者はその供給体制の増強を急ぐ。
「世界最大級となる地上式LNGタンクのPC(プレストレストコンクリート)防液堤を従来よりも8ヵ月短い工期で築造する」。そんな画期的な施工に果敢に挑んだ現場があった。
大阪の堺・泉北臨海工業地帯にある大阪ガス泉北製造所第一工場。広い構内を進んだ先に現れたのはLNGタンクの一部を構成するPC製の堅固な構造物、PC防液堤だ。中の貯槽と密着して、タンク全体に高い安全性をもたらす。大きさは直径90m、高さ44m、周長283mと、奈良東大寺の大仏殿がすっぽり収まるほど。その堂々たる姿が実に印象的だ。
現場を案内してくれた総合所長の木村は、2013年4月11日から30日までの20日間で繰り広げられた24時間連続施工を「まさに戦場だった」と、感慨深く語った。
スリップフォーム工法で常識の壁を超える
異次元の高速施工を実現するには、コンクリートを連続的に打設できるすべが必要だ。これを解決したのが、スリップフォーム工法。型枠を支持するヨークを円周上に76台連結し、油圧ジャッキで滑らせるように上昇させながら、継ぎ目なく打設していく。この装置で1日当たり約2m上昇、20日間で44mまで到達する計画だ。
スリップフォーム工法はこれまでも煙突や東京スカイツリー®の心柱など小径の塔状構造物のほか、サイロなどの施工にも用いられてきた。しかし、今回は過去最大の径。打設範囲の広さや装置の制御など、多くの困難が立ちはだかった。
総合所長の木村は「関係者全員が工法を十分理解し、しっかりと準備できるかが鍵」と考え、本番前までに勉強会を重ねたという。支援に当たった生産技術本部設計第二部課長の田摩も「作業員たちには、ストップウオッチを片手に場面ごとの手順確認を繰り返してもらった」と指導に奔走した様子を語った。
4班が呼吸を合わせて
4月11日、いよいよスリップフォーム工法による防液堤の施工が幕を上げた。総合所長の木村は大阪本店土木事業部などの協力のもと、施工要員を確保。工区を4分割し、A~Dの4班昼夜2勤体制を編成した。
号令をもとに職員、作業員たちは皆緊張の面持ちで持ち場に向かった。施工は装置を上昇させる油圧ジャッキの支持材「クライミングロッド」の建て込み、鉄筋、シース管の組み立て、埋め込み金物の設置、コンクリートの打設までを1サイクルとし、これを繰り返していく。
この間、装置は15分で2.5cmずつ上昇する。「A班は鉄筋組みを急げ、D班は打設を抑え目に」。工事総指揮者は全班の進捗(しんちょく)状況が同じになるようコントロールする。
日中の指揮を担当した所長の畑は「トラブルはその場で瞬時に解決する必要があった」と、止めない施工の難しさを説いた。工程序盤は皆、ぎこちなさがあったが、終盤には倍のスピードでこなしていったという。そこには施工管理のために全国から集結した18人の2年目土木職員たちの活躍も。「間違いなく即戦力の働きだった」と、総合所長の木村は賛辞を惜しまなかった。
脇を固めた専門家たち
現場には常設部門から各分野の専門家たちも集結し、高度な知見とノウハウで施工を支えた。特殊工法部地上技術第一課副課長の光永は、偏位計測装置などの計測結果に基づき、スリップフォーム装置の姿勢を制御し、躯体の出来形管理を行った。「これまでに経験したことのない径。たいへん勉強になった」と達成感をかみしめた。
技術研究所生産技術研究部の副課長桜井はコンクリートの品質管理と安定供給を担った。大林組開発の、薄く均質に広がる中流動コンクリート「スムースクリート」を現地プラントで作り、1万m3を供給した。
準備は一年ほど前から。施工時期の気温や湿度、日照時間などの気象条件を何パターンも想定し、一定の時間で凝結する配合データを蓄積して臨んだという。「雨や強風で打設の間隔が空いても、打ち継ぎが生じない配合を追求した」とスリップフォーム工法特有の困難を振り返った。
コンクリート打設後の壁面の出来栄え管理を担ったのは、営業推進第二部課長の石田だ。技術研究所でコンクリートの研究に携わっていた経験を持つ。「土木はコンクリート自体が出来形になる。精度はもちろん、壁面の美観にもこだわった」と、プロ意識を持って取り組んだ。
総合力のたまもの
防液堤築造工事は、試行錯誤を重ねながらも予定通り4月30日に終了した。総合所長の木村は強調する。「技術は人が支えるもの。昼夜絶え間なく懸命に取り組んだ現場の職員や作業員たちの底力と、装置の制御やコンクリートの品質管理などにおける常設部門の確かなサポート力。これらが合わさった総合力こそが大林組の強みです」。
大林組は引き続き、2014年9月から2期工事に着手する予定だ。
(取材 2013年7月)
工事概要
名称 | 大阪ガス泉北製造所5号LNGタンク設置(土木)工事 |
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場所 | 大阪府堺市西区築港浜寺町 |
発注 | 大阪ガス |
設計 | 大林組 |
概要 | 型式 PC製防液堤、外槽一体型平底球面、屋根付円筒竪形貯槽、貯蔵容量23万m3、内槽内径87m、スリップフォーム工法、フレシネー工法 |
工期 | 2012年9月~2015年11月 |
施工 | 大林組 |