東日本大震災以降、新たなエネルギー源として太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーがますます注目を浴びている。福島県郡山市の郡山西部第二工業団地では、再生可能エネルギー関連技術を国家レベルで研究、開発する拠点の整備が急ピッチで進んでいる。
工業団地の一画で建設が進められているのは、独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の新たな研究施設「福島再生可能エネルギー研究所」だ。施設は研究本館、実験別棟(以下、別棟)、太陽光パネルや風力発電施設を備える実証フィールドの大きく3区画に分かれており、大林組は研究本館、別棟の2区画を担当する。
再生可能エネルギーを福島から
2011年7月29日、政府は「東日本大震災からの復興基本方針」で、福島県に再生可能エネルギーに関わる世界最先端の研究拠点を整備するとともに、関連産業の集積を通じて復興を支援していく方針を掲げた。県や市も再生可能エネルギーの推進ビジョンやアクションプランに基づき、新たな社会づくりを強力に推進していく姿勢を世に示した。今回の整備事業は、これらの実現に向け、国、県、市が一体となり、かつスピード感を持って進めるものである。
工事期間の短縮、作業員不足の解消を両立させる工夫
「工程表とのにらみ合いが続く毎日です」。所長の岩崎は開口一番、緊迫感が漂う現場の状況をこう表現した。PCa(プレキャスト)造、地上4階建て免震構造の研究本館と、S造、地上1階建ての別棟を合わせた延べ面積は約1万2,000m2になる。
電力の需給バランスを最適化してエネルギーコストを最小化する次世代送電網「スマートグリッド」の設備工事などを含め、実質11ヵ月で仕上げるという超過密スケジュールとなっている。作業員不足にも直面する中、工事を成し遂げるための「工夫」と「根気」を要する過酷な現場だ。
「この躯体はPCa化工法で立ち上げた」と、所長の岩崎は研究本館を見上げながら答えた。通常、柱や梁といった躯体部分は、現場で鉄筋や型枠を組んだ後、コンクリートを打設して成型する。この工程を工場で行い、部材を現場に運び込んで組み立てるのがPCa化工法だ。コストはかかるが、そのぶん時間と手間のかかる作業が省けるため、大幅な工期短縮と作業員不足への対応が可能となった。
ほかにも1階梁の配筋作業には地組み工法を、別棟のコンクリート基礎・地中梁の型枠には、脱枠作業が不要なラス型枠を採用するなど省力化工法を駆使して、工程をキープしている。とはいえ、作業員の確保が最大の課題である状況に変わりはない。建築担当の工事長渡辺は、「とび・土工・型枠・鉄筋作業では有資格作業以外を互いに融通し合っている」と苦悩の現状を語った。
最先端のエネルギー効率を実現させる
ここでの工事は設備の対応範囲が広い。一般的な空調衛生や電気設備はもとより、技術提案した省エネ設備や核となるスマートグリッド設備の設置、これを制御するシステム構築まで幅広く対応する。設備を担当する工事長の石垣は、「技術提案した部分は、いわば大林組の設計施工になる部分。工事を遅らせまいと必死です」と、工程管理に最大限の注意を払う。
省エネ・低炭素化を促進する設備(抜粋)
スマートグリッド設備のシステム構築は本社設備設計を中心に対応する。気象予測データに基づいて再生可能エネルギーによる発電量と建物の電気使用量を予測し、蓄電池の充放電と建物の電力使用を巧みにコントロールすることでエネルギーコストの最小化を図っていく。スマートグリッド設備には日本初の試みも含まれており、産総研、設計事務所と共に調整を繰り返し、作り上げていく。
竣工後は本社設備部門が遠隔BEMSを用いてエネルギーの利用状況などの検証、分析を行う予定だ。こういった取り組みは、大林組にとっても重要な技術資産となることが期待される。
新しい未来への第一歩
現場はいよいよ研究本館の内外装、設備を一気に仕上げる最大の山場に入った。壮大なプロジェクトを成すために全国から集結した職員たちが、追い込みに全力を注ぐ。「これは復興の礎づくり。何とか予定通り完成させて貢献したい」。宮城県出身の所長、岩崎も特別な思いを胸に決意を語った。
2014年4月、ここから春の息吹とともに日本の新しい未来が歩みだしていく。
再生可能エネルギーの大量導入と復興を実現するために
福島再生可能エネルギー研究所
福島連携調整室 兼 福島研究業務推進室
濱田寿一さん
福島再生可能エネルギー研究所整備事業には、「再生可能エネルギーを活用する世を早期実現する」「東日本大震災からの復興に貢献する」という二つの使命があります。そこで私たちが重視したのは「スピード」と「品質の確保」。大林組はこの両方を高い次元で実現していると感じます。特に、東北地方の厳しい労務事情の中で、予定通り工事を進捗してくれていますので、私たちも開所準備が始められ、ありがたく思っております。所員一同、無事故無災害で竣工が迎えられることを切に願っております。
工事概要
名称 | 福島再生可能エネルギー研究所整備事業 |
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場所 | 福島県郡山市待池台 |
発注 | 産業技術総合研究所 |
設計 | 梓設計 |
概要 | PCa造・S造、免震構造、4F、2棟、総延1万1,927m2 |
工期 | 2012年11月~2013年12月 |
施工 | 大林組 |