プロジェクト最前線

未来(あす)のエネルギー社会を支える最先端の研究所

福島再生可能エネルギー研究所整備事業

2013. 12. 27

東日本大震災以降、新たなエネルギー源として太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーがますます注目を浴びている。福島県郡山市の郡山西部第二工業団地では、再生可能エネルギー関連技術を国家レベルで研究、開発する拠点の整備が急ピッチで進んでいる。

工業団地の一画で建設が進められているのは、独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の新たな研究施設「福島再生可能エネルギー研究所」だ。施設は研究本館、実験別棟(以下、別棟)、太陽光パネルや風力発電施設を備える実証フィールドの大きく3区画に分かれており、大林組は研究本館、別棟の2区画を担当する。

再生可能エネルギーを福島から

2011年7月29日、政府は「東日本大震災からの復興基本方針」で、福島県に再生可能エネルギーに関わる世界最先端の研究拠点を整備するとともに、関連産業の集積を通じて復興を支援していく方針を掲げた。県や市も再生可能エネルギーの推進ビジョンやアクションプランに基づき、新たな社会づくりを強力に推進していく姿勢を世に示した。今回の整備事業は、これらの実現に向け、国、県、市が一体となり、かつスピード感を持って進めるものである。

工事期間の短縮、作業員不足の解消を両立させる工夫

工場で製作したコンクリート製部材を現場で組み立てるPCa化工法で、柱や梁などの躯体工事を施工

「工程表とのにらみ合いが続く毎日です」。所長の岩崎は開口一番、緊迫感が漂う現場の状況をこう表現した。PCa(プレキャスト)造、地上4階建て免震構造の研究本館と、S造、地上1階建ての別棟を合わせた延べ面積は約1万2,000m2になる。

電力の需給バランスを最適化してエネルギーコストを最小化する次世代送電網「スマートグリッド」の設備工事などを含め、実質11ヵ月で仕上げるという超過密スケジュールとなっている。作業員不足にも直面する中、工事を成し遂げるための「工夫」と「根気」を要する過酷な現場だ。

「この躯体はPCa化工法で立ち上げた」と、所長の岩崎は研究本館を見上げながら答えた。通常、柱や梁といった躯体部分は、現場で鉄筋や型枠を組んだ後、コンクリートを打設して成型する。この工程を工場で行い、部材を現場に運び込んで組み立てるのがPCa化工法だ。コストはかかるが、そのぶん時間と手間のかかる作業が省けるため、大幅な工期短縮と作業員不足への対応が可能となった。

ほかにも1階梁の配筋作業には地組み工法を、別棟のコンクリート基礎・地中梁の型枠には、脱枠作業が不要なラス型枠を採用するなど省力化工法を駆使して、工程をキープしている。とはいえ、作業員の確保が最大の課題である状況に変わりはない。建築担当の工事長渡辺は、「とび・土工・型枠・鉄筋作業では有資格作業以外を互いに融通し合っている」と苦悩の現状を語った。

梁の両端部。内部を貫通させる鋼線で躯体に圧縮力を加えて強度を上げる
研究本館屋上での配筋作業も急ピッチで進む

最先端のエネルギー効率を実現させる

ここでの工事は設備の対応範囲が広い。一般的な空調衛生や電気設備はもとより、技術提案した省エネ設備や核となるスマートグリッド設備の設置、これを制御するシステム構築まで幅広く対応する。設備を担当する工事長の石垣は、「技術提案した部分は、いわば大林組の設計施工になる部分。工事を遅らせまいと必死です」と、工程管理に最大限の注意を払う。

省エネ・低炭素化を促進する設備(抜粋)

  1. 自然換気システム 固定式窓の両端に定風量換気装置を設置し、強風・雨天時でも自然換気できる機能を確保

  2. CO2センサー 供給外気量を在室人員数に応じて制御することでエネルギー消費を抑える

  3. 自然採光効果の拡大 グラデーションブラインドで太陽光を天井面に照射して室内の明るさを確保。室内照明の照度を下げる

  4. タスクアンビエント照明の採用 タスクに応じて必要個所のみ照射できる卓上ライトを導入し、3との組み合わせで照明効率を上げる

  5. 人感・床温度センサー 天井カセット型空調機に設置したセンサーで運転を制御し、無駄な空調エネルギーを低減させる

  6. 汚れセンサー 人代謝により発生する水素など空気の汚れに相関するガスを検知し、換気量をコントロールする

  7. 地中熱利用空調システム 年間を通じて一定の温度(夏は外気温より低い、冬は外気温より高い)となる地中熱にヒートポンプを組み合わせた空調システムを構築

スマートグリッド設備のシステム構築は本社設備設計を中心に対応する。気象予測データに基づいて再生可能エネルギーによる発電量と建物の電気使用量を予測し、蓄電池の充放電と建物の電力使用を巧みにコントロールすることでエネルギーコストの最小化を図っていく。スマートグリッド設備には日本初の試みも含まれており、産総研、設計事務所と共に調整を繰り返し、作り上げていく。

竣工後は本社設備部門が遠隔BEMSを用いてエネルギーの利用状況などの検証、分析を行う予定だ。こういった取り組みは、大林組にとっても重要な技術資産となることが期待される。

地中熱利用空調システムの配管

新しい未来への第一歩

現場はいよいよ研究本館の内外装、設備を一気に仕上げる最大の山場に入った。壮大なプロジェクトを成すために全国から集結した職員たちが、追い込みに全力を注ぐ。「これは復興の礎づくり。何とか予定通り完成させて貢献したい」。宮城県出身の所長、岩崎も特別な思いを胸に決意を語った。

2014年4月、ここから春の息吹とともに日本の新しい未来が歩みだしていく。

再生可能エネルギーの大量導入と復興を実現するために

福島再生可能エネルギー研究所
福島連携調整室 兼 福島研究業務推進室
濱田寿一さん

福島再生可能エネルギー研究所整備事業には、「再生可能エネルギーを活用する世を早期実現する」「東日本大震災からの復興に貢献する」という二つの使命があります。そこで私たちが重視したのは「スピード」と「品質の確保」。大林組はこの両方を高い次元で実現していると感じます。特に、東北地方の厳しい労務事情の中で、予定通り工事を進捗してくれていますので、私たちも開所準備が始められ、ありがたく思っております。所員一同、無事故無災害で竣工が迎えられることを切に願っております。

工事概要

名称福島再生可能エネルギー研究所整備事業
場所福島県郡山市待池台
発注産業技術総合研究所
設計梓設計
概要PCa造・S造、免震構造、4F、2棟、総延1万1,927m2
工期2012年11月~2013年12月
施工大林組

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