プロジェクト最前線

山あいにやじろべえ出現!空中で橋を架ける

さがみ縦貫 相模原ICランプ橋上部工事

2014. 08. 19

神奈川県茅ヶ崎市と相模原市緑区を南北に結ぶさがみ縦貫道路。首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の神奈川区間に位置付けられている。大林組は、さがみ縦貫道路のインターチェンジ(IC)の一つ、相模原ICを施工している。急峻な地形、狭いヤードといった厳しい施工条件の中、工事が進んでいる。

圏央道は都心から半径およそ40~60kmの位置に計画された、全長300kmの高規格幹線道路

4つの曲線橋を同時に造る

東京・高尾山の麓に位置する圏央道高尾山ICから、神奈川県寄りに5kmほど南下した場所に建設するのが相模原ICだ。大林組JVは、料金所と一般道「津久井広域道路」(共に他社工区)をつなぐ4本のランプ橋と取付橋の橋梁上部工を担当している。

メーンとなるランプ橋の長さは145~226mと比較的短めだが、平面曲率半径がR=60m(半径60mの円弧に相当)と急カーブであったり、S字型だったりする個性的な橋が互いに近接する構図。清流「串川」が流れる深い谷に、これら4橋を同時に施工する。

完成予想図(国土交通省提供) ランプとは高さの異なる道路間を連結する車道

橋脚を中心に桁を両端に伸ばしていく

現場に入ってみると、既にランプ橋の一部がその姿を現していた。中が空洞の橋桁。桁先にはオレンジ色をした駕籠(かご)のような形状の建設機械が備え付けられている様子も確認できる。「PC箱桁橋という種類の橋で、張り出し架設工法を使って構築しています」と、所長の妹尾(せのお)が説明してくれた。

PC箱桁橋は、断面が箱形をしたプレストレストコンクリート橋。コンクリート内に配置した特殊な鋼線を橋桁端部に反力を取りながら引っ張ること(緊張)により圧縮力を加えた、堅固な構造体の橋である。

また、内部が空洞である分軽く、人も出入りできるのでメンテナンスしやすいなどの特長がある。こうした構造の橋桁を、中心点となる橋脚の頂上部から両端に向かってバランスを取りながら水平に伸ばしていくのが、張り出し架設工法だ。橋のユニークな立ち姿から、別名「やじろべえ工法」とも呼ばれる。

今後つながる津久井広域道路側からの眺め。右端からE、G、H、Fランプ

施工は橋脚柱頭部の桁を構築した後、その上で移動式作業車(ワーゲン)を左右に一基ずつ組み立てるところから始まる。先述した駕籠のような形状の建設機械がこのワーゲンに当たり、先端部分が空中に張り出して足場や、型枠を支持する梁などをつり下げている。

次に、ワーゲンの中で型枠の設置、配筋、コンクリートの打設、PC緊張と一連の工程を経て、1ブロックが完成したらワーゲンを前進させる。これを繰り返し、桁を伸ばしていく仕組みだ。所長の妹尾は「一歩一歩着実に前進させていく工事」であることを強調する。

ワーゲンの中で1回にできる桁は1ブロック分。長さは左右各3~4mで、約10日かかる

重力を見越して先手を打つ「上げ越し調整」

伸ばせば伸ばすほど垂れ下がり、曲げれば曲げるほどねじれる。施工中の橋桁に起きている現象だ。見ていても、その一端すら感じないが、常に重力という強大なエネルギーの負荷にさらされている。

さらに橋桁には、100tというワーゲンの荷重も加わる。施工では重力や荷重による変形をあらかじめ計算し、変形後に橋桁が設計どおりの位置に納まるよう型枠を出す向きや傾きを事前に上向きに定める「上げ越し調整」を行う。

所長の妹尾は、施工の様子を次のように話す。「コンクリートの打設・PC緊張の前後、ワーゲン移動後に測量を行い、常に出来形を把握することが重要となります。そして、気温や日射の影響で、橋桁に限らず橋脚、さらには橋自体が変形してしまうことも考えながら、1サイクルごとに上げ越し調整を行い管理しています。ここは曲線橋なので、橋桁の重心位置の変化にも注意を払わなければなりません」。

重力の作用によりたわみ、ねじれ、重心移動といったさまざまな変形が生じる
光波測距儀を使って桁先中心部の座標を測量する
曲線を描きながら桁を伸ばす。桟橋の上はクレーン車やトラックで混雑した状況

現場ではそれぞれの職員が持ち場でこうした施工管理に取り組んでいる。その中の一人、主任の内藤は変形度合いが最も大きいと見られているEランプを担当。今後の展開に触れ、「測量の精度が鍵となります。気を引き締めていきたい」と意気込みを見せる。

さまざまな制約を乗り越えて最高の結果を出す

資材置き場や工事車両が通行できるヤードが少ないことにも驚く。山肌に沿うように架けられた桟橋の上が、唯一のスペース。近づいてみると、コーナーに移動式クレーンが配備され、また、頭上をワーゲンが通過する個所もあって、平面だけでなく空間的にも窮屈な印象を受けた。4橋を同時に施工するには非常に厳しい環境だ。

橋梁工事では、このような施工環境は決して珍しくないと所長の妹尾は言う。現場では移動式クレーンの台数を減らし、橋脚に支柱が固定できる水平ジブクレーンを導入したり、完成した橋面の一部も工事車両の配置場所として活用する計画とするなど、スペースの有効活用を展開中だ。

「建築、土木を問わずどんな現場にも制約は付きもの。そこにきちんと対処しながら、一つひとつ丁寧な仕事をして最高の品質を実現し、お客さまに満足してもらうことが私たちの役目」。確かな経験に裏打ちされた所長 妹尾の言葉と、ひた向きに取り組む職員の姿に、この現場の力強さを見た。

引き渡しは2014年12月の予定。まだまだやるべきことは山ほどある。現場は一日も無駄にせず走り続ける。

水平ジブクレーンは国内最長の50m級。クレーン同士の衝突を避けるため、大林組が開発したGPSクレーン衝突防止システムを搭載

(取材2014年6月)

工事概要

名称さがみ縦貫 相模原ICランプ橋上部工事
場所神奈川県相模原市緑区
発注国土交通省
設計国土交通省
概要橋梁上部工、PC3径間連続ラーメン箱桁橋 3橋(橋長192m、167m、145m)、PC4径間連続ラーメン箱桁橋 1橋(橋長226m)、取付橋(桁長30m)
工期2012年12月~2014年12月
施工大林組、富士ピー・エス

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