首都圏の大動脈、首都高速道路(以下、首都高)。その板橋・熊野町ジャンクション(JCT)間で日本初の車線拡幅工事が進行中だ。上下の道路を支える橋脚2層構造からなる高速道路の車線拡幅は、これまでは構造的に実現不可能とされてきた。大林組JVは、安全、快適な高速道路をめざす首都高改良に向けた工事を行っている。
首都高が交差する要所
都心から円心状に広がる首都高中央環状線と放射状に延びる5号池袋線が交差するポイントに位置する板橋ジャンクションと熊野町ジャンクション。上下線合わせて一日当たり15万台の車両が行き来する交通の要所だ。両ジャンクションは一本の直線道路につながっているが、この区間では慢性的に渋滞が起きており、早急な対策が求められていた。
合流・分流区間520mの車線を増やす
原因は、2本の2車線道路がジャンクションで合流した後、3車線に減少する「窮屈感」にある。さらに、わずか520mしかない3車線の直線区間で、もう一方のジャンクションに向かって車線変更する車両が交錯するため、速度低下が起き、渋滞が発生しやすくなる。こうした状況の解消に向けて、3車線の両側を1.7mずつ広げて4車線化するのが今回の工事。下部工、上部工を大林組JVで分担施工する。
橋脚の土台を一回り大きく、強固に
目下、大林組が担っているのが土台の再構築だ。現場に足を踏み入れると、地中深く掘られた橋脚基部が目に飛び込んできた。鋼矢板で土留めした四角いスペースの中で、既存のフーチング(構造物の荷重を杭や地盤に伝える橋脚底部)を覆い隠すように鉄骨を格子状に横組みし、緊密な配筋を施している。所長の岡は、見るからに強固な「骨組み」を感じさせる構築物を指さしながら説明する。「ここにコンクリートを流し込んで一回り大きい土台を構築します。合成構造フーチングといいます」
合成構造フーチングは、この工事のために発注者である首都高速道路、大日本コンサルタント、大林組の3社で共同開発した技術だ。16本中11本の橋脚基部に採用している。これまでとの大きな違いはフーチングと橋脚の固定に、アンカーフレーム(アンカーボルト設置用架台)に替わる鋼製格子部材を用いる点だ。先述の「骨組み」がこれに当たる。
縦に長いアンカーフレームの場合は埋め戻しに一定の土かぶり厚(地表面からの深さ)を要するが、新しい部材は平面的なのでそれが浅くて済む。現場の状況に合わせ、「深さ」の課題を「平面」で克服する新しい仕組みが取り入れられている。
鋼矢板の施工、基礎杭の場所打ち、既設と新設フーチングの鉄筋緊結、鋼製格子部材の据え付け、コンクリートの打設と施工ステップは細かい。所長の岡は、現場から発生する振動や騒音に対する近隣住民の声に注意深く耳を傾けていると語り、副所長 臼井と共に対応に奔走する。
地域との共生。それはこの現場の命題であり、都市土木の難しいところでもある。所長 岡は新技術との両輪で難工事をスムーズに導きたい考えだ。
横に広げたラケットで既存の橋脚を挟み込む
通称ラケット式と呼ばれるタイプの橋脚が上下層の道路を支持する。いわば下層の道路がラケットのフレームの根元に、上層の道路が先端部に乗っているような構造である。拡幅で問題となるのは、上層を支える側柱が下層の拡幅に支障となることだ。
この解決に向けて、発注者が開発した画期的な工法が取り入られている。その名も「サンドイッチ工法」。既設橋脚の前後を、拡幅分だけ側柱を広げた新設橋脚で挟み込んで道路を受け替えし、既設橋脚を撤去した後、道路を広げる。
首都高速道路 東京建設局王子工事事務所の徳見敏夫工事長は、「直下の山手通りの通行規制範囲を狭くでき、かつ施工期間が短くて済む。施工中の安全性も高い」とサンドイッチ工法のメリットを強調する。
この新設橋脚の建て込みはJVの他社が行っており、大林組は既設橋脚の撤去を今秋から始める予定だ。ラケットの先端に当たる横梁は乾式ワイヤーソーで1ブロック20tに切断し、日本通運と共同開発したリフト機能付きの特殊トレーラーで段階的に撤去する。CIM(Construction Information Modeling)によって作業手順をシミュレーションし、本番に備える。
できる方法で突き詰めろ
数々の新技術を用いる日本初の工事。前例のない工事に携わる現場職員たちは、工程の組み方から養生・仮設計画、作業の進め方に至るさまざまな局面で困難に直面していることだろう。ことさら若手には試練に違いない。そんな状況に置かれている職員たちに、所長の岡は語り続けている言葉がある。「できる方法で突き詰めろ」。一歩目は制約を度外視し、確実にできる方法で考える。軸を定め、そこから制約を乗り越える方法を検証していけばベストな解決策が導けるはずという考えだ。
仮にうまく行かなかったとしても、考えた分だけ早く原因を突き止められるので次に活かしやすい。一人ひとりがこうした循環をつくり出すことが施工を前進させる鍵と見る。さらに、一年先を見通して準備することの重要性も説く。「日本初の仕事を通じて自信と技術力を身に付けてほしい」。所長 岡は若手職員の奮闘ぶりに期待を寄せる。
1964 年の東京オリンピックに向けて整備が加速した首都高。この拡幅工事も、半世紀ぶりのオリンピックが目前となる2018年3月まで続く。首都高の未来を握る工事から目が離せない。
安全、スピード感のある施工で社会の要請に応えてほしい
首都高速道路東京建設局王子工事事務所 徳見敏夫工事長
中央環状線機能強化事業の一つとして実施する工事です。これまで建て替える以外はできないと考えられていたダブルデッキの拡幅工事が、改良という方法で実現に向かっています。日本初の拡幅技術、長年望まれてきたボトルネック解消への期待などで、内外から非常に注目を集めるプロジェクトです。安全かつスピーディな施工、近隣住民・地域との調和の中で存分に力を発揮し、社会の強い要請に応えてほしいと思います。
(取材2015年5月)
工事概要
名称 | 板橋・熊野町JCT間改良工事 |
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場所 | 東京都板橋区 |
発注 | 首都高速道路 |
設計 | (基本設計)首都高速道路 (実施設計)大林組、JFEエンジニアリング、横河ブリッジ(JV) |
概要 | 場所打ち杭工(径1.5m~2m、26~33m、120本) 合成構造フーチング拡幅工11基、RCフーチング工3基 RCフーチング拡幅工2基、施工延長520m |
工期 | 2012年9月~2018年3月 |
施工 | 大林組、JFEエンジニアリング、横河ブリッジ(JV) |