プロジェクト最前線

災害に備えて、持続可能な放送を未来へ

中京テレビ放送新社屋新築工事

2015. 11. 02

愛知・名古屋の中心部で中京テレビ放送の新社屋の建設が進む。めざすのは東日本大震災の教訓が活かされた耐震性に優れる局舎。放送の機能を維持し、報道機関としての責務を果たす高品質な局舎建設に大林組は挑んでいる。

名古屋駅の南方に広がる大規模再開発エリア「ささしまライブ24」。かつて愛知万博のサテライト会場として利用されたこともある旧国鉄笹島駅跡地は、現在新たなまちづくりの注目スポットとなっており、シネコンやライブハウス、国際交流・研究施設、大学、マンションなどが立ち並ぶ。中京テレビ放送の新社屋はこの一角に立つ。

局舎は12階建てで高さ60m。その屋上に約100mの電波塔を備える。存在感あふれる情報発信基地の施工は、外装PCa版(あらかじめ工場製作した鉄筋コンクリート部材)の取り付けが終了し、内装や設備の仕上げも完成間近。11月末の完成を待つばかりである。

名古屋の放送施設としては初の基礎免震構造

「災害への強さ、BCP対応を追求した建物です」。所長の金井は局舎の特徴をそう表現する。根拠は構造面と設備面に見られる。

まず構造面では、名古屋の放送施設として初の基礎免震構造を取り入れている。1階床下に薄い鋼板とゴムを交互に積み重ねた「積層ゴムアイソレーター」、前後左右の動きで揺れを受け流す「直動転がり支承」や「すべり支承」、「オイルダンパー」の4種類の免震装置を51基も配置し、強い地震の揺れが直接建物に伝わらないようにする。

さらに、基礎と杭の接合には大林組独自のスマートパイルヘッド工法を採用。杭径より一回り小さい回転式の鋼管コンクリートで接合して、地震の際に基礎や杭にかかる負担を減らす。一方、設備面では災害時に7日間の連続運転を可能にする非常用発電機を高層階に設置し、電気や水道も2系統を確保する。

これらの防災対策には「持続可能な放送で報道機関の責務を果たしていく」と言う発注者の強い意思が宿る。4年前の東日本大震災で、その重要性がこれまで以上に明確になったことは言うまでもない。ただあの時、東北・関東地方の放送局の一部には局舎の損傷、電力の復旧遅れなどが影響して停波寸前まで追い込まれた所もあった。

東海、東南海、南海の3連動型地震「南海トラフ大地震」の発生も危惧される中、発注者は大震災を教訓にした盤石の局舎にこだわる。「基礎工事の完成時には山本孝義社長が自ら視察に来られました。お客様の思いと私たちへの期待を強く感じました」。所長の金井は高精度、高品質な施工でその負託に応えたい一心だ。

基礎と1階床の間には直動転がり支承やオイルダンバーなどの免震装置を据え付ける
建物を支える免震装置に思いを込めてメッセージを書く中京テレビ放送 山本孝義社長
基礎と杭頭部を接合する鋼管コンクリート部の鉄筋を地組みする。中心部の芯鉄筋が後に基礎とつながる

高さ11m、つり天井の崩落対策

放送局の代表的な部屋と言えば、スタジオが挙げられる。早速現地を訪れてみると、想像以上に高い天井が目を引いた。天井高は約11m。「実は設備と鉄骨の納まりを確保するのが困難だった」と副所長の天野が振り返るのが、その天井裏だ。

スタジオの天井裏には、熱を効率的に排出するために無数の空調ダクトを収めるほか、照明・調光設備、舞台設備の点検用足場となるキャットウォークなども据える。さまざまな設備がスペースを占有する。

一方、建築基準法上では6m超の高さにある200m²超、質量2kg/m²のつり天井は「特定天井」に指定されるため、補強材などでより強力な脱落防止措置も施さなければならない。通常以上に自由度が低い空間で、通常以上の躯体要件を満たさなければならない状況。副所長の天野は「設備の配置を前提として、鉄骨の位置を決めていった」と、これもまた通常とは真逆の手順で構築した様子を語る。BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)を活用して、複雑な納まりを実現させていった。

スタジオにはほかにも、遮音や音場レベルを満たす音響性、TV カメラがみじんもぶれないフラットな床、照明による影が映らない平滑な壁など高い施工精度が要求される事項が多い。放送局の「心臓部」の出来が施工の品質を大きく左右する。

BIMを使って天井裏の納まりを入念に検証した。画像からその「過密感」が伝わってくる

魅せる鉄塔、高々に

シンボリックな電波塔はカーテンウォールを身にまとう。これを正確につなぎ合わせるには取り付け先となる鉄骨の鉛直精度が鍵となる。所長の金井が着工前から重視していたポイントだ。

しかし、管理手法は思いのほかアナログだ。角度を計測する計量器トランシットを鉄骨の正面と側面の2方向に据えて水平軸に対する角度を人の目で確認しながら組み上げる。その本数は実に70本。鉄骨の節と節を溶接したり、隣り合う鉄骨の間にブレースを取り付けたりするたびに微妙なズレが生じるため、補正を繰り返す。根気のいる施工管理を任された入社3年目の職員 蜂須賀は「大変だったが、少しずつ高くなっていく姿を通勤電車から眺める楽しみもあった。最高の品質を出せたと思う」と、感慨深げに語った。

7月にすべての建て方を終え、上棟式を執り行った

クリーンな現場がもたらす品質と安全

現場の基本は「4S」だと所長の金井は力を込める。4Sとは「整理・整頓・清掃・清潔」のこと。クリーンな現場には適度な緊張感が流れ、品質と安全をもたらすと考える。興味深いことに、現場では「一斉清掃」は行わないという。日頃から取り組んでおけばよいことであり、貴重な施工時間も無駄にしなくて済む。言われてみれば至極当然のことだが、多忙な状況下で働く多くの作業員にこの考えを理解させ、まとめていくのは難しい。所長の金井は「着工当初から徹底して言い続けて、めざすスタイルを浸透させてきた」と話す。取り組みの様子は発注者からも高い評価を受けている。

社屋の移転に際し、発注者内では非常に活発な議論が交わされたという。大林組の職員、作業員たちは熱い思いを一身に浴びながら施工にまい進する。新社屋は2015年11月末に完成予定、1年後の秋にはここから新たな放送が開始される。

(取材2015年7月)

工事概要

名称中京テレビ放送新社屋新築工事
場所名古屋市中村区
発注中京テレビ放送
設計伊藤建築設計事務所、日建設計
概要S造一部SRC造、免震構造、12F、PH2F、延3万267m²
工期2013年10月~2015年11月
施工大林組

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