半世紀前の放水施設を付け替える
北海道旭川の北東に位置する当麻町とうま地区。この地区の農業を半世紀にわたって支えてきたダムの改修工事が、最盛期を迎えている。
とうま地区は、石狩川やその支流の水資源を活かした農業を基幹産業としており、全道一の評価を受ける当麻米や、贈答品として全国的な人気を誇る「でんすけすいか」の産地として知られる。
この地区に農業用水を供給しているのが当麻ダムだ。完成は1959(昭和34)年で、国営開墾建設事業として築造されたアースフィルダム(土を盛って築いたダム)である。半世紀がたった今、主要構造部である「洪水吐き(こうずいばき)」の付け替えなど大規模な改修工事が進んでいる。
流下能力を1.5倍にする巨大洪水吐き
洪水吐きとは、洪水時にダムの決壊を回避するため、流下水量を下流河川へ安全に放流する設備を指す。今回の工事では、近年増加傾向にあるとうま地区の降雨量を鑑み、ダムの流下能力を1.5倍に引き上げる。
洪水吐きはダムによってさまざまな形をしており、個性が現れる箇所だ。新設する洪水吐きは、上流の貯水池から下流に向かってY字になっているのが特徴。間口が85mある流入水路は、高さ・幅共に約11mの上流取り付け水路、その先の急流水路部、静水池部、下流取り付け水路へと続く。
施工を担当する工事事務所所長の太田は「流入水路は緩やかな曲線の三次元構造で、取り付け水路の壁も、水圧が高くなる下のほうに厚みを持たせている」と、見た目以上に複雑な形状であることを説明した。
大林組は流入水路から上流取り付け水路までの約100m区間を施工するほか、地中にセメントで遮水壁を設けるカーテングラウチング工、農業用水路に水を引き込む取水放流設備工一式、堤体の一部盛り立てなどの工事を担う。メーンとなる洪水吐きは仮設の堤防である仮締め切り堤で貯水をせき止めながら、地山を開削し、鉄筋コンクリートで構築している。
マイナス20℃以下でのコンクリート打設
当麻ダムの稼働状況に合わせた施工も要求される。工事は、4月から9月のかんがい期と、10月から3月までの非かんがい期で工種を分けて実施。例えば、かんがい期は洪水吐きの本設、非かんがい期は水を抜いて、貯水池内部の取水設備の施工に注力する。
この場合、最も苦労するのが非かんがい期、つまり冬場の施工だ。当麻町の冬は、外気温がマイナス20℃以下、年間積雪量が700cm超と非常に厳しい。コンクリートが硬化しやすく、また施工機会が得にくい状況にあっても、かんがい期に向けて工事の遅れは許されない。
切り札として投入したのが「全面雪寒(せっかん)仮囲い」工法。ユニット式の建屋で施工箇所の全面を囲い、内部でコンクリートを打設する。強度発現を促進するためにストーブで給熱し、室温を10~15℃に保持。外気温、コンクリートの表面温度も24時間リアルタイムに計測しながら養生温度管理を徹底し、硬化に最適な環境を人工的につくり出すことで施工を進めた。
徹底的に、コンクリートの「品質」にこだわる
冬場のコンクリート打設では、ほかにも高度な品質管理を施している。例えば、流水による摩耗や凍結・融解の繰り返しで経年劣化しやすい洪水吐きの底部は、表層部を真空脱水して緻密化。壁部は、給水養生して硬化時のひび割れを抑止している。
めざすのは長期耐久性に優れたダム。「丁寧に造ればダムは100年でも200年でも持つ。できることをすべてやって、この地で安定した機能を発揮できるダムを造ることが私たちの役目」と所長の太田は意気込む。発注者、当麻町の農業関係者の方々にとって重要な事業に携わるやりがいを職員、作業員の全員で共有し、施工を全うしていきたい考えだ。
未来を見据えた挑戦
洪水吐きの構築を終えた後には「堤体の盛り立て」というもう一つの大きなヤマがある。既存の洪水吐きを撤去した場所を粘土や土砂で盛り立てて堤体を造ることだ。完成当時の土質に合わせて水分量を調整したり、転圧を密に行ったりして新旧の堤体を一体化させる、高い技術力が要求される。
所長の太田は言う。「ダム全体の新設案件が増えていくことは考えにくい。今後は改修技術の蓄積と、その技術の伝承が大切になってくる。今回の工事は、大林組の今後のダム建設にとっても重要な意味を持つ」。未来を見据えた挑戦は2017年3月まで続く。
(取材2015年9月)
工事概要
名称 | とうま農地防災事業 当麻ダム洪水吐建設工事 |
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場所 | 北海道上川郡当麻町 |
発注 | 国土交通省 |
設計 | 国土交通省 |
概要 | 洪水吐工(土工7万7,800m³、躯体工9,170m³)、堤体工(基礎掘削2,785m³、盛立工3,460m³)、その他付帯工一式 |
工期 | 2013年12月~2017年3月(見込) |
施工 | 大林組 |