プロジェクト最前線

天へ地へ、スリットが貫く美術館

すみだ北斎美術館新築工事

2016. 02. 17

江戸時代に活躍し、今も世界から高い評価を受けている浮世絵師「葛飾北斎」。彼の作品を展示する美術館の建設が、東京スカイツリー®に程近い東京都墨田区の両国で進んでいる。

北斎ゆかりの墨田を地域活性化の拠点に

浮世絵を日本中に広め、世界の絵画に影響を与えたとされる葛飾北斎は、1760年、現在の両国駅の近くで生まれた。北斎は生涯で90回以上の引っ越しを繰り返し、そのほとんどが故郷の墨田だったといわれる。

北斎の愛した同地で彼をたたえることは、住民の地域への愛着を深め、地域活性化の拠点にもなる、との考えにより美術館の建設が決まった。

まず目を引くのは、四角柱と三角錐を合わせたような斬新なデザイン。設計を担当したのは、数々の建築賞を受賞している世界的建築家・妹島和世氏だ。大林組において、特にデザイン性の高い建物の施工経験が豊富な所長 佐野でさえ、妹島氏の設計と聞き胸が高鳴ったと語る。しかし、斬新なデザインの建物であるが故に、施工は難しさを伴うものだった。

完成予想図。大きな1棟ではなく、三角の切れ込み(スリット)により緩やかに分断された外観にすることで市街地との調和を図る

建物を貫くスリットを具現化する

開口部がすべて斜めになっている1階。斜めの鉄骨の左右には高透過ガラスが張られる

現場内に入りすぐに気付くのが、垂直な箇所がほとんどない、ということだ。壁も柱も斜めになっている。最初の課題は、この斜めの壁を構築するという難度の高い躯体工事だ。

精度の高い壁を構築するためには、斜めにかかるコンクリートの側圧に耐え得る型枠の設置が不可欠。そこで採用したのが曲面などの施工に利用されることの多いクシ型枠だ。

台形に組まれた木製の支保工の内側に細かい起伏を付けることで強度を高め、型枠のずれを最小限に抑えて仕上げ、工事に影響のない精度を確保した。

台形の木造支保工に細かい起伏が見られるクシ型枠
無柱空間となる展示室の天井を軽くするために鉄筋の間に配置された球体ボイド

躯体工事ではもう一つの課題があった。それが広々とした無柱空間となる3階展示室だ。天井を軽量化させるために、「球体ボイドスラブ工法」を使った。配筋の間にボイドと呼ばれる発砲スチロールの球体を入れることで、打設するコンクリートの量を削減。さらに球体ボイドが振動などによる音を吸収するため、美術館に求められる高い遮音性を生み出した。

外装では数ヵ所に入る「スリット」といわれる切れ込みが目を引く。最大のスリットは逆三角錐の形で4階から2階までを一気に貫いている部分だ。下部が絞れているため、下から足場をかけられない。施工に当たっては、最上部の開口に仮設の鉄骨を組み、そこから足場をつるす方法を採った。

また、このスリットの側面は一面ガラス張りとなる。高透過ガラスを一枚張りに見せるという設計者のこだわりをかなえるため、ガラスの表面に枠が出ないよう工夫している。

4階屋上の仮設鉄骨からつるされた足場は15m下の2階部分にまで達する
足場を利用して取り付けられた白い4本の縦枠材。ここにガラスが入る
1階から3階までの吹き抜けもまた一面ガラス張り。三角錐の中から頂点を見上げる

3次元化した図面、BIMでデザインを実現

切り口によって異なる顔を見せる、複雑な構造のこの建物。難工事の施工を可能にしたのがBIM(Building Information Modeling)だ。意匠と構造の3次元モデルを基に、現場で作成する施工用の生産設計図も3次元化した。

図面作成を担当する主任 大野は、現場への着任前、妹島氏の作品を見学し「今までの常識は通用しない」と感じた。

施工には正確な生産設計図が何よりも大事という所長方針のもと、着任後は毎日、所長の佐野や工事長の弥田と意見を交わした。ときには協力会社と協議しながら、工期と品質、設計者の求めるデザインを実現させる生産設計図を作り上げていった。「大野の図面を99%信用している」と所長の佐野は語る。

建物内部の模型。複雑な構造が見て取れる
BIMで可視化することが、発注者、設計者との協議にも役立つ

地域に愛される場所となるために

建物外観は淡い鏡面のアルミパネルを使用した。外壁にやわらかく下町の風景が写り込み、建物が地域の風景に溶け込むことをめざしている。

地域に愛される美術館となるためには、近隣住民への配慮も欠かせない。太陽光が反射するアルミパネルの使用に当たっては、発注者の墨田区との協議も重ね、選定に慎重を期した。反射による近隣への影響を考慮するため、見本となるモックアップを作成。各方角に設置して反射度を検証することで、それぞれの輝度(放射される光の強さ)を調整した。

また、墨田区が主催する見学会を実施し、仮囲いに近隣の保育園児が描いた絵を取り付けるなどしている。

鏡面アルミパネルはモックアップで輝度を確認
近隣の保育園児が描いた北斎の浮世絵が仮囲いを彩る

図面と現場をよく見る

所長の佐野は、どんな建物の施工でも「図面を読解」し、実際の「現場で確認」する、この二つが基本であると若手職員に伝えている。それを受けて若手職員は、図面と施工状況を何度も照らし合わせる。難工事こそ、当たり前のことを当たり前にやる。「基本に忠実」を実践してきたメンバーが造り出す美術館は、この冬、竣工に向けいよいよ佳境を迎える。

(取材2015年11月)

工事概要

名称すみだ北斎美術館新築工事
場所東京都墨田区
発注墨田区
設計妹島和世建築設計事務所
概要RC造一部S造、B1、4F、延3,280m2
工期2014年7月~2016年4月
施工大林組、東武谷内田建設

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