プロジェクト最前線

超高層のオフィスがシンガポールの空に張り出す

オフィア・ロチャー複合施設新築工事

2016. 03. 04

オフィスとホテルからなる39階建ての商業棟(左)と50階建ての集合住宅棟(右)の建設が進む

アジアを代表するビジネス拠点として栄えるシンガポール。その中心部ブギス地区で、シンガポールとマレーシア政府が共同で都市開発プロジェクトを進めている。商業棟と集合住宅棟が向かい合うように立つ複合施設は、その卓越したデザインからシンガポールの新しいランドマークとしても注目を集める。

大林組は、1965年からシンガポールでの建設事業をスタートさせた。現在、地元企業やグローバル企業のオフィスやデータセンターの建設などさまざまなプロジェクトに携わっている。

シンガポールでは、建物の意匠、構造、設備設計の確認申請において、BIM(Building Information Modeling)による電子申請を義務付けるなど、BIM活用が日本に比べて浸透している。

オフィア・ロチャー複合施設プロジェクトでは、24人のBIM専門チームが常駐してBIMモデルを作成。設計者やサブコンとの調整に活用している。計画から施工段階までのプロジェクトを進める中で生じたさまざまな変更は、すべて3次元モデルに反映させており、あらゆる2次元図面はBIMモデルから切り出して使用している。

このプロジェクトの最大の特徴となっている、空中に浮かぶような跳ね出し躯体の設置でも、施工計画や4次元シミュレーションにBIMを活かしている。

シンガポールとマレーシアの友好の架け橋となる建設事業。完成予想図
東京の3分の1の面積に約550万人が暮らすシンガポール。BIMの普及に向けた企業のシステム購入や教育支援を国が補助する

巨大な鉄骨躯体をつる

跳ね出し躯体の施工がこの工事の山場だ。高さ約182mとなる商業棟は、下層にオフィス、上層にホテルが入る鉄筋コンクリート(RC)造。その15階から25階までの中間階から、水平方向に約19m鉄骨(S)造の躯体が跳ね出すダイナミックな形状になっている。跳ね出し躯体は、23階から25階までに設置されたメガトラスからつって支えており、以下の3段階のステップを踏むことで実現する。

(1)跳ね出し躯体を構築するため、仮設支柱を地下3階の基礎部分から14階の高さまで組み上げる。(2)仮設支柱の上に跳ね出し躯体を鉄骨で構築する。(3)跳ね出し躯体の最上部に組んだメガトラス(巨大な梁・柱)をRC造の商業棟本体から水平方向に強い力で引っ張り、メガトラスから下の鉄骨をつるのだ。

中庭側から見た商業棟。跳ね出し躯体は仮設支柱で支えている
跳ね出し躯体上部のメガトラス
  • STEP1

    跳ね出し躯体構築用の仮設支柱を組み上げる

  • STEP2

    仮設支柱の上に跳ね出し躯体を10フロアー分構築する

  • STEP3

    商業棟本体からメガトラスを水平・垂直に引っ張り、跳ね出し躯体をつって支える

仮設支柱から離れ宙に浮く

もう一つ、工事の山場となるのは、跳ね出し躯体を支える仮設支柱の取り外しだ。建物を支える(荷重がかかる)部分を仮設支柱から、商業棟本体へと置き換えるもので、ダイナミックな形状を構築するうえで重要なポイントとなる。

約1200tの荷重がかかる躯体を仮設支柱から外すために採用したのは、ジャッキダウン工法だ。細心の注意を払い、10回に分けて、1回120tずつ荷重を外していった。荷重のかかる位置を置き換えることで生じる跳ね出し躯体の変形と、仮設支柱にかかる荷重を確認しながら進めていくため、作業は数時間に及んだ。

油圧式ジャッキにかかる荷重が小さくなるにしたがって、跳ね出し躯体は徐々に変位し、荷重がゼロになったところでピタリと止まる。荷重移動が完了した瞬間だ。

各種測量機器で観測した、最終的な変形量は、鉛直方向に最大で14mm、水平方向は25階で6mmと、ほぼ計画通りの高い精度の結果が得られた。

柱にかかる荷重を一つひとつ確認して油圧を調整し、ジャッキダウンを進める
300tの油圧式ジャッキ(灰色)2台が設置された架台から離れ、宙に浮く跳ね出し躯体(写真上部)

現場所長の岡野はBIM活用を「意匠・構造・設備図面の統合、干渉チェックにとどまらない」と述べる。「跳ね出し躯体の施工手順や安全の検討にも3次元モデルを活用した。発注者や設計者への説明にもBIMモデルや4次元シミュレーションが欠かせなかった」とオフィア・ロチャー複合施設での新たなBIMの効用を語った。

BIMによる3次元モデル

今後は、床のコンクリート打設や外装・内装工事が行われ、跳ね出し躯体への荷重がさらに増えていく。それに伴い、建物も変形するため、引き続きモニタリングしながら慎重に工事を行う。現場メンバー140人が一丸となって進む工事は、いよいよ商業棟本体の上部躯体構築のステップへと入る。2016年末には、シンガポールの新たなシンボルが誕生する予定だ。

工事概要

名称オフィア・ロチャー 複合施設新築工事
場所シンガポール中心部ブギス地区
発注オフィア・ロチャー・レジデンシャル社
オフィア・ロチャー・ホテル社
オフィア・ロチャー・コマーシャル社
設計(意匠設計)ブロ・オーレ・シェーレン社/ DPアーキテクツ社
(構造設計)BECA カーター・ホーリングス・アンド・ファーナー社
概要(延床面積)約24万m²
(敷地面積)約2万7千m²
(構造・階数)RC造およびS造、外装はアルミカーテンウォール
(商業棟)B3、39F (集合住宅棟)B3、50F
工期2013年8月~2016年12月
施工大林シンガポール(大林組グループ)

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