プロジェクト最前線

街と街をつなぐ懸け橋、広島駅に出現

JR広島橋上駅新築他工事、広島二葉の里地区新幹線口中央ペデストリアンデッキ設備その他工事等

2016. 11. 22

2012年から工事が進む広島駅。在来線ホームの北(写真上部)に新幹線、南(写真下部)に駅ビルを配する

1日800本近い列車が発着し、14万人を超える乗降客が利用する巨大ターミナル、JR広島駅。駅周辺では、広島市が主体となって進める「広島平和記念都市建設事業」に基づいて、多くの工事が行われている。大林組は、広島駅の橋上化と駅北側のペデストリアンデッキ(歩道高架橋)化の建設を進めている。

これまで、駅改札外で新幹線口のある北側と駅ビルのある南側をつないでいたのは、暗い地下自由通路のみだった。そこで、南北の開発地域が一体となって発展していくよう、その往来を活性化すべく計画されたのが今回の工事だった。

駅の橋上化を支える地下杭工事

乗り換え通路、店舗などからなるコンコースと自由通路を合わせると、南北100m、東西150mに及び、JR西日本管内ではフロア面積が最大の橋上化工事となる。

長年、広島市内の建築工事に携わり、市内の地盤を熟知する所長の田中は、設計図を確認した時に「杭工事がキーポイントになる」と予測した。

理由は3つ。まず杭の直径が大きいため、掘削期間が長くなり工程の遅延が考えられたこと。次に、地下自由通路と並走する駅構内の地下連絡通路を貫通しなければ打設できない杭が存在しており、乗降客に危険を及ぼす可能性があったこと。

さらに、線路に近接している杭の打設箇所では、杭を設置するための地盤改良工事に伴う薬液注入により、地盤が隆起して、軌道に影響を与える恐れもあったからだ。

そこで、杭の直径を小さくするために基礎梁を追加することや、地下連絡通路を貫通する杭をなくすために上部梁の梁せい(梁の下面から上面までの高さ)を大きくし、25mの長大スパンとすることを提案した。

また線路近接箇所では、地盤改良のエリアを最小限に抑え、薬液注入が不要な地盤改良工法「e-コラム工法」を提案。小型の重機で作業でき、柱状の地盤改良体を連続して並べ、リング状の杭防護壁を構築する大林組独自技術となる。これらの提案により、発注者から理解を得ることができ、さまざまなリスクが軽減されたのだ。

広島橋上駅新築工事概要
鉄道軌道への影響を最小限に抑えるためe-コラム工法で杭防護壁を構築

鉄骨のユニット化で一秒を削る

橋上化工事の施工場所は、線路とホームの上空。そのため、乗降客の安全確保はもとより列車の運行にも一切影響しない施工が求められた。

営業線の直上工事では、列車が通過しない終電から始発までの時間を使うのだが、広島駅はその間も一日20本近い貨物列車が通過するため、さらに細かい時間管理が必要となった。

細心の注意を払ったのは、線路上での鉄骨の建て方(柱と梁を組み立てること)だった。列車接近3分前から一切の作業を停止すること、さらに必要なボルト数の3分の1以上を固定することなど、厳しい条件があったからだ。

さまざまな施工方法を検討した結果取り入れたのは、仮設ヤードで柱や梁などの鉄骨の一部をあらかじめユニット化したものを、つり上げ荷重750t、作業半径100mという超大型クレーンを使って組み立てる方法だった。

各ユニットの大きさは、クレーンの旋回時間や取り付けられるボルトの締め付け時間まで細かく計算して導き出したもの。終電時間の前までに仮設構台で鉄骨を組んでおき、予定時間には分刻みで建て方作業を進めていった。

一秒も無駄にできない緊迫の作業が続いたが、大阪駅の工事で経験がある副所長 阿部の指揮のもと、今回の施工計画が功を奏して順調に進捗。工期を4ヵ月短縮した。

かつて使用されていた旧こ線橋の解体方法も興味深い。床の解体は道路カッターを使用して一定の大きさに切断し、ブロック状にしてからクレーンで持ち上げる。まるで豆腐をさいの目に切るようなイメージだ。

現在もクレーンの能力を最大限に活かし、限られた作業時間を効率的に使う施工が続いている。

線路上空での鉄骨建て方は時間との勝負。新幹線施設(手前)と線路(奥)に挟まれた場所にある仮設構台でユニット化し大型クレーンでつり上げていく
分割された旧こ線橋を持ち上げ、解体するクレーン
ユニット化された鉄骨の建て方は分刻みで進む

歩行者用デッキを一夜で架設

広島駅北側でのもう一つの工事は、ペデストリアンデッキの建設だった。駅前での工事のため、歩行者の通路やバス、タクシーの運行に支障を来さないように最小限のヤードでの作業が求められた。

特に道路に面した作業ヤードが狭あいなため、杭工事には小型の掘削機で施工できる場所打ち杭を採用。あらかじめ掘削した孔(あな)に現場で組んだ鉄筋かごを挿入し、コンクリートを流し込むことで杭を形成した。これによって作業場所を縮小することができた。さらに駅前道路をまたぐ桁(けた)の架設工事では自走式台車を使い、一夜での一括架設を実施。5時間という通行止めの制約をクリアした。

ほかにも隣接する宿泊施設に配慮した低騒音・低振動の作業など、周辺環境への配慮を常に欠かさず工事を進めた。

自走式台車を使った一括架設。深夜に駅前道路を通行止めにして行った
広島駅北側にある駅前ロータリーでのペデストリアンデッキ工事

徹底した安全対策で橋をかける

2017年度の自由通路完成をめざす橋上化工事。安全対策に妥協は許されない。毎週安全検討会を開くなど、社員全員が共通意識を持って作業員への安全教育や現場管理を行っている。

「無事に竣工を迎えることで、広島の活性化に貢献したい」と所長の田中は語る。南北につながったJR広島駅の誕生が、この街の魅力をさらに引き出すことになるだろう。

(取材2016年6月)

工事概要

名称JR広島橋上駅新築他工事
場所広島市
発注西日本旅客鉄道
設計西日本旅客鉄道、ジェイアール西日本コンサルタンツ
概要S造、3F、PH2F、延2万963m²
工期2012年4月~2018年6月
施工大林組、広成建設
名称広島二葉の里地区新幹線口中央ペデストリアンデッキ設備その他工事等
場所広島市
発注都市再生機構
設計長大
概要S造、2F、歩道橋3橋(総橋長392m)、場所打ち杭工4本、桁架設工一式、設備工事一式
工期2014年3月~2016年10月
施工大林組、広成建設

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