プロジェクト最前線

川崎港の東扇島に翼を広げる国内最大級の物流施設

(仮称)東扇島物流施設開発計画新築工事

2019. 01. 25

建物中央部(白い部分)から鉄骨を組み上げて放射状に躯体を構築

拠点を集約する物流業界の動きに合わせて、現在、首都圏や関西圏では広さ20万m²を超える大型物流施設の建設が続いている。

東京国際(羽田)空港から車で15分の川崎港にある人工島・東扇島(ひがしおおぎしま)。ここで大林組設計施工による、国内最大級を誇る延床面積約30万m²の5階建てマルチテナント型物流施設(※1)の建設が、2019年5月の竣工をめざして進んでいる。

東扇島は、東京や横浜のみならず、広域への輸配送をカバーできる物流適地だ。建設地周辺は工業専用地域であることから、24時間稼働でき、機動的な物流オペレーションが可能となる。大林組は、短工期という条件のもと、業務効率の向上に取り組んでいる。

  • ※1 マルチテナント型物流施設:さまざまな企業に対応できる汎用タイプの物流施設
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施工場所となる東扇島は、首都高湾岸線入り口を有し、首都高中央環状線など高速道路へのアクセスにも優れている

施工手順を見直し鉄骨部材の組み立てを優先

「大規模な施設を短工期で建設するプロジェクトで、少しの工程の遅れも許されなかったことから、特に資機材の搬入計画については綿密に立てました」と語るのは、所長の長谷川だ。工事に必要な資機材は莫大な数量となり、工程に沿って納入されなければ、工期の遅れにつながるからだ。厳しい状況の中、現場事務所を立ち上げる直前になって、着工が約2ヵ月遅れることが判明した。「すでに半年後の鉄骨建て方に関わる協力会社の選定、資機材などの発注が完了しており、その工程に間に合わせるには施工計画を見直す必要がありました」と当時を振り返る。

当初は、2ヵ月かけて整地や地盤改良などの準備工事を行い、その後、杭工事、基礎工事、鉄骨建て方を行う計画だったが、設計担当者と検討を重ね、施工手順を大幅に見直した。それは、鉄骨建て方の基礎工事までを優先させるというもの。準備工事の開始2週間後には杭工事に着手し、並行して基礎工事を順次実施。中央部から放射線状に施工し、工程通り鉄骨建て方を開始することができた。

「先を見通して計画を練り、準備期間を十分に持ったことで、鉄骨建て方以降の工程に影響を及ぼすこともなく、計画通りに工事が進んでいます」と副所長の大竹は語る。

建物中央部から放射線状に施工

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    2018年4月26日 先に中央部分の基礎工事、鉄骨建て方を実施

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    2018年6月25日 鉄骨が組み上がった中央部分から放射状に鉄骨建て方を進めていく

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    2018年8月22日 建物全体の鉄骨建て方が終了

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中央部分の鉄骨建て方から先行して着手。工事には多くのクレーンを投入した

内部の車路をフル活用して作業効率を向上

この現場では、作業効率の向上を図る工夫を積極的に行っており、中でも2つの取り組みでは効果を上げている。

一つは、資機材の搬入方法の工夫。建物外周が1kmに及ぶこの現場で資機材を搬入するには、通常外周部に複数の大型クレーンや工事用エレベーターを設置することが必須となる。しかし、本工事では南北に走る中央部の車路と、その両端2ヵ所に設置するランプウェイ(各階をつなぐ傾斜路)を先に施工し、これらを活用することで大型クレーンなどの設置を不要とした。

建物外周部の施工は遅れることになったが、ミキサー車などの大型車両による各階への資機材搬入が可能となり、時間がかかる搬入調整を最小限に抑えることができた。

もう一つは、施工管理の工夫だ。施工面積が広大な現場では一つの工種に多数の協力会社が関わるため、建物全体の品質確保が難しくなる。そこで施工場所を4分割して、各工区に協力会社を工種ごとに1社ずつ配置。大林組の社員は工種別で全体を管理する体制とし、効率化と品質の確保を図った。

「全体をまとめて管理できるので、広大な現場で発生しがちな施工手順の相違による工程や施工精度のバラつきを防いでいます」と躯体工事を担当する工事長 鈴木と笠原は声をそろえる。また、先に施工した車路の中央を資材置き場にすることで、すべての工区へ資機材が運びやすくなり、大幅な作業効率の向上が実現できた。

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先行施工した中央部の車路(上)とランプウェイ(下)。ミキサー車をはじめ、資機材を積載した大型車両が各階に直接乗り入れられるようになり、作業効率が向上
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工程を遅らせないために、毎日すべての協力会社と時間をかけて綿密な打ち合わせを行う
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車路の中央部を資機材置き場として活用。資機材運搬において大幅な作業効率を図る

ICTの利用とコミュニケーションの工夫

施工管理ではICT(情報通信技術)も積極的に取り入れている。中でも現場事務所内や協力会社の関係者とグループを作成し、チャットでコミュニケーションが取れるdirectを最大限有効に活用している。「現場巡視時に発見した問題点を写真とともにグループトークへ送信すれば、グループ内の関係者全員が同時に指示を受けられます。是正報告も同様で、広大な現場でタイムリーな情報共有を可能にしています」と所長 長谷川は話す。

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広大な現場で活躍するdirect。コミュニケーションツールとして利活用している 

大林組の社員約40人が在籍する大所帯の現場事務所では、横のつながりを強化するために席の配置を工夫し、副所長と工事長の8人を1ヵ所に集め、各班のリーダーである工事長同士の意思疎通と問題点などの情報共有を図っている。

その他の職員も班に関係なく席を配置。定期的に席替えを行い、コミュニケーションの活性化を図っている。「建築施工、設計、設備などの工種の垣根を越えて、自分の担当以外の話を聞くことで、偏った考え方になることを防げる。現場全体も把握できます」と、所長 長谷川は狙いを説明する。

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コミュニケーションが取りやすいよう工夫を施した執務スペース

基本に忠実に

(仮称)東扇島物流施設開発計画新築工事

「現在、順調に進捗しているのは、工事着手が2ヵ月遅れたことによって発生したさまざまな課題を、一つひとつ丁寧に解決してきたことが大きいです」と語る所長の長谷川は、『基本に忠実に』『緊張感と当事者意識を持って』 『誠実に責務を果たす』を常に心がけてきた。

所長のそんな思いを胸に、現場で働く全員が、快適な暮らしを支える物流拠点の完成をめざして日々工事を進めている。

(取材2018年11月)

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工事概要

名称 (仮称)東扇島物流施設開発計画新築工事
場所 神奈川県川崎市
発注 東扇島プロパティー特定目的会社
設計 大林組
概要 SRC造(柱)・S造(梁)・S造(ランプウェイ)、制振構造、5F、延29万8,585 m²
工期 2017年12月~2019年5月
施工 大林組

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