プロジェクト最前線

越後への八十里越、峠に3本の橋脚がそびえる

国道289号5号橋梁下部その2工事

2019. 08. 01

道幅が狭く、勾配のきつい山道を抜けた先にある秘境で橋脚の建設が進む

新潟県と福島県を結ぶ国道289号。そのうち、新潟・三条市と福島・只見町の県境をまたぐ約20kmの自動車通行不能区間は、古くから「八十里越」と呼ばれてきた。実際の距離は八十里もないが、一里が十里にも感じられたことから、その名が付いたといわれる急峻な山道。さらに冬場は豪雪地帯となる過酷な条件によって、整備が進んでこなかった場所だ。この秘境ともいえる、人里離れた山奥の地で、大林組は現在、日本屈指の高さの橋脚を構築している。

通行不能区間の解消をめざす八十里越の事業がスタートしたのは1986年。30年以上に及ぶ壮大なプロジェクトは、各所でトンネルや橋梁の工事が急ピッチで進んでいる。「開通すれば迂回(うかい)する必要がなくなり、両地域の活性化につながることが期待されます。特に高度医療機関のない只見町の皆さんにとって、三条市へのアクセス向上は悲願だと聞いています」と所長の森山はその効果を説明する。

大林組が手がけているのは、地上からの高さが当事業ナンバーワンとなる橋脚の構築だ。「3本のうちの中央の橋脚は、高さが80m以上あります。山間部でこれほどの高さの構造物を造る工事は、なかなかありません」と工事長の田嶋は話す。

早期開通が望まれる中、立ちふさがるのが豪雪地帯という環境。積雪は6m近くに達し、現場にたどり着くことができない。故に、作業ができるのは5月~11月までの7ヵ月という短い期間だ。高品質に仕上げるには、予定通りに工程を消化し、手戻りや不具合が生じない万全な施工計画が必須。そのために、技術と工夫で立ち向かっている。

「八十里越」計画区間は越後山脈のほぼ中央に位置し、周辺は標高1,000m~1,500m級の山々に囲まれている
「八十里越」計画区間は越後山脈のほぼ中央に位置し、周辺は標高1,000m~1,500m級の山々に囲まれている
真冬の現場。橋脚最上部付近まで積雪し豪雪地帯であることが分かる
真冬の現場。橋脚最上部付近まで積雪し豪雪地帯であることが分かる

耐震性と作業効率の向上を図る

工場でスパイラル筋をH形鋼に地組み
あらかじめ工場でH形鋼にらせん状のスパイラル筋を巻いて一体化しておく

通常の橋脚工事の場合、縦方向に延びる太い鉄筋(軸方向鉄筋)に、細い鉄筋(帯鉄筋)を巻いていくという複雑な配筋作業が必要となる。しかし本工事では、高所での作業の安全性や品質の確保、そして要求された高い耐震性を担保するために、3H工法が導入された。

3H工法は、従来の軸方向鉄筋の一部を剛性の強いH形鋼に置き換えることで耐震性を向上させ、また、あらかじめ鉄筋をらせん状に加工したスパイラル筋を帯鉄筋として代用することで配筋作業の手間を軽減させるもの。事前に工場で11mのH形鋼を、軸方向鉄筋とスパイラル筋で巻いて一体化(スパイラルカラム)させて現場に搬入、現場での作業を省力化した。

スパイラルカラムは1ロットごとに20本が必要となる。剛性を確保するために重要なのが、ロットを積み上げる際の接合部だ。肉厚50mmのH形鋼同士を継手プレートと200本ものボルトでつなぐ構造となっている。

接合部も事前に工場で仮締めを実施して精度を確認。現場での建て込み作業をスムーズにした。「大林組として初めて採用した工法でした。ノウハウはありませんでしたが、鉄骨会社や作業員と連携し、何回も試行錯誤することで、順調に進んでいます」と所長の森山は語る。

3H工法 橋脚断面構造
3H工法 橋脚断面構造
3H工法 橋脚断面構造
長さ11mのH形鋼差し込み後、200本以上のボルトの取り付け作業を行う
長さ11mのH形鋼差し込み後、200本以上のボルトの取り付け作業を行う
H形鋼建て込みが完了しコンクリート打設の時を待つ
スパイラルカラムの建て込みが完了した橋脚内部

足場と型枠の同時クライミング

橋脚の上部を取り囲んでいるのが昇降式移動型枠ユニットだ。型枠と足場を一体化させ、上部に伸ばしたレールを伝い、油圧シリンダーの動力で自動クライミングしていく。

本工事仕様に設計された型枠ユニットの特長の一つが大面積型枠。1回に160m³という大量のコンクリート打設を可能としている。さらに、特殊な樹脂でコーティングされた高断熱合板により、美しく平坦に打ち上がる。

今回の型枠ユニットの導入に当たり、検討を重ねたのが降雪対策。型枠ユニットを支持するため、あらかじめ橋脚に埋め込まれたアンカーが積雪の荷重で破損し、橋脚本体を傷つけることが懸念された。

型枠ユニットの解体・組み直しには2ヵ月を要することから、これを回避するため、他現場のアイデアを参考に、覆工板と鋼製梁で組んだ屋根を上部に架ける方法を採用した。「春先に型枠ユニットが無事だったことを確認した時は、ほっとしました」と工事長の田嶋が振り返る。

油圧シリンダーの動力で型枠と足場が同時に昇降する
油圧シリンダーの動力で型枠と足場が同時にクライミングする昇降式移動型枠ユニット

高い耐久性と強度を求めて

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水平配管で均一なコンクリート連続打設を可能とする

コンクリートの打設方法にも工夫がある。シャッターバルブ付き配管を型枠ユニットの上部に巡らし、複数箇所で均一な連続打設を可能とした。さらに養生には高い保温保湿効果のあるアクアサーモを用いてひび割れを防ぐ。

コンクリート打設では、良質なものを適切な位置に連続投入し、十分に締め固めることが必要だ。コンクリートの性状は打設箇所の高さに応じて混和剤で調整し、流動性を表すスランプ値を変更させる。一方、水とセメント比は一定に保つことで強度を維持し、打設中の不具合を抑える。

運搬中の温度上昇による硬化を防ぐために、ミキサー車にはドラムカバーを装着している。 地元に生コン会社は1社のみのため、他工区との調整が必要だ。「打設日を早期に決定し、その日に向けた準備を確実に行うことが大事」と工事長の田嶋は話す 。

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アクアサーモを利用したひび割れ対策

国内屈指の高さをめざして

「社会的意義の高いインフラ整備事業なので、意識しているのは開かれた現場であること。橋脚のスケール感も相まって、地域住民はもとより、学生や建設業界からの見学者も頻繁に訪れます。注目されているからこそ安全を徹底したい」と所長森山は語る。「ほぼ同じ作業員によるルーティンの作業が多いので、慣れによる油断が事故につながらないよう、自覚を促す教育と設備の充実を心がけています」と工事長の田嶋が続ける。

コミュニケーションを取ることで結束力を高め、技術と創意工夫、そしてチーム一体となった底力が、橋脚を上へ上へと伸ばす原動力となっている。


(取材2018年7月)

工事概要

名称 国道289号5号橋梁下部その2工事
場所 新潟県三条市
発注 国土交通省
設計 パシフィックコンサルタンツ
概要 RC橋脚工3基(下部工形式 3H工法、基礎工形式 深礎杭基礎、最大橋脚高81m、コンクリート 5,707m³、鉄筋 352t、スパイラルカラム1,739t)、道路土工、仮設工
工期 2016年3月~2019年10月
施工 大林組

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