プロジェクト最前線
福島・双葉町の中間貯蔵施設で震災復興を加速
平成30年度から平成32年度までの双葉町減容化施設(中間貯蔵施設)における廃棄物処理その1業務のうち、仮設処理施設建設工事
2019. 11. 21
東日本大震災から8年たった今でも、帰還困難区域(以下、区域)に設定されている福島県双葉町。国から許可を得た者だけが入れるこの区域は、除染が完了している道路や場所以外への立ち入りが禁止されており、車窓から見える道路脇や民家の庭の草木は、震災以降、手を入れられていない状況だ。人の気配が全く感じられないうっそうとした道を抜けた先に、突如現れる巨大なクレーンが林立する大現場。大林組はここで、復興事業に携わっている。
廃棄物の減容化に向けて2つの施設を同時に建設
被災地で発生した可燃性の除染廃棄物や津波廃棄物などは、放置しておくと腐敗の恐れがあるため、安定した状態で焼却処分するとともに、焼却灰を減容化(容積を減少)して処分量を減らし、最終処分方法が決まるまで、中間貯蔵施設で安全に保管しておく必要がある。
人通りも少なく日用品の購入すらままならないこの場所で、大林組は、復興事業の一つとして双葉町内で発生した廃棄物や福島県内各所に仮置きされている廃棄物を焼却する「仮設焼却施設」と、焼却灰・ばいじんをさらに溶融処理して減容化する「仮設灰処理施設」を建設している。
仮設処理施設の建設は、2019年12月1日のプラント試運転開始に間に合わせるため、急ピッチで進められている。
立ち入り禁止エリアで常時必要人数の1.5倍を確保
「現場に行くのに環境省への事前登録が必要など、区域内の現場であるがゆえの課題が多く、一つひとつ解決していく必要がありました」と話すのは所長の鈴木だ。さらに、2018年12月に着手したこの工事はプラントの試運転日が決定しているため、1日も遅れることが許されない。通常の現場とは全く異なる環境、かつ、たった1年の超短工期という条件を克服し計画通りに完成させるには、さらなる生産性向上が必須だった。
まず、取り組んだのは人材と資材の確保。解決策の一つが設計施工の強みを活かしたフロントローディングの採用だった。設計の初期段階から工事長の工藤をはじめとする現場関係者が参加。例えば、必ず引き受けてくれるメーカーの材料を優先して取り込む、工期厳守を図るため建物自体の形を見直すなどの設計変更を行い、生産性を向上させた。
一方で、会社の方針で区域内への資材の納品ができないメーカーや、家族の反対などの事情で作業員の派遣が難しい協力会社に対して説明会を何度も開催。日常生活で受ける放射線量の図解を事例に安全性を説いて、安心・納得したうえで区域内の作業を請け負ってもらえるように、粘り強く丁寧に1社ずつ協力を要請している。
作業員の事前登録の手続きには必要書類の提出のほか、電離健康診断の受診やその結果報告など、非常に多くの時間がかかるため、着工当初は半年前から人材の確保に当たった。現在も手続きに約1ヵ月を要するため、設計変更などで急きょ人材が必要になった場合にも対処できるように、常時必要人数の1.5倍を確保すべく、日々協力会社への人材の募集と説明を続けている。
さらに、事前登録に必要な手続きの進捗状況の確認も大林組が行う。「一つでも手続きが遅れれば、その分現場への派遣が遅れることになるからです」と工事長の工藤は厳しい条件下での資材と人材の確保の難しさを語った。
バス乗車時の顔認証システムによりノンストップで入退場
所長の鈴木が最も懸念していたことは、発注者から厳重な管理が求められる区域内への作業員などの入退場の手続きと、資機材の納品方法だった。
事務所と現場は車で片道30分かかるが、現場内には通勤車両の駐車場を確保するスペースがない。そもそも区域内の入退場には管理ゲート通過時に事前登録しているすべての工事関係者と車両の確認が厳重に行われる。
プラント工事を含めて現場全体で1日約900人が従事するこの現場。仮に300台の車両が通過する場合、確認に1台1分としても300分で、5時間かかる。そこで所長の鈴木は、工事全体を円滑に進めるため、大型バスで作業員を輸送するとともに、区域内への入退場の管理をシステム化できないかと考え、すぐに社内の情報システム部門にシステム構築の協力を仰いだ。
開発された乗車リスト確認システムは、事前登録した作業員や工事関係者の情報とおのおのの顔の三次元データを輸送用大型バス乗車時に顔認証システムで確認することにより、乗車リストを作成するもの。このリストはすぐに管理ゲートの警備員と共有することが可能で、警備員はバスのダッシュボードに掲示される乗車人数のプレートと手元のリスト掲載人数とを照合すればよく、バスはノンストップでゲートを通過できる。
「乗車リスト確認システムを利用できなければ、区域に入る唯一の一般道路である国道6号線が大渋滞となり、プロジェクトが成立しないという強い思いで、発注者の指導を受けながらシステムを構築しました」と所長の鈴木は当時を振り返る。計画から発注者に提案、許可を受け、バスを運行するまでに3ヵ月半かかったが、作業員と車両のゲート通過時の確認作業にかかる時間を大幅に削減することができた。
一方、資機材や備品の納入では物流管理システムを構築した。区域外に中継地点となる倉庫を準備して納品される資機材などを一旦集約し、事前登録している運転手と車両により現場に配送される。運営は東日本ロボティクスセンターに委託している。
乗車リスト確認システムと物流管理システム、2つのシステムにより人とモノのスムーズな流れを創り出せたことが、プロジェクト全体の生産性向上につながっている。
さらなる生産性向上をめざして
杭工事着手からプラント機器の試運転開始まで約12ヵ月。2019年11月末までには必ず完成させなければならない。しかしながら、現場周辺では同規模、同工期で減容化施設の建設も進んでおり、生コン車両や鉄骨材の供給が不足している。
そのため、生コン打設は工区を分割して工区数を増やし、それぞれの作業ボリュームを小さくして、100m³~500m³の打設をほぼ毎日行っている。また、鉄骨工事ではファブリケーター(鉄骨加工業)10社を採用し、製作状況を徹底管理している。仮に1社の製作に遅れが生じても、他の9社がフォローして納期を厳守。調達が難しい中でも工事を順調に進める体制を構築している。
建設が進む2つの施設に入るプラントは、JVを組成しているプラントメーカー2社がそれぞれ構築。建屋の建設と並行し、引き渡し可能になった所から両社がプラントや設備機械を組み立てている。超短工期のため、大林組もプラントメーカーも工程厳守で遅れが許されない。施工を担当する工事長の石原は「プラントメーカーとは、互いに効率の良い施工方法を考慮して手順と工程を決めます。そして、資材、人材および機械を投入し、徹底した工程管理によって引き渡す範囲と期限を厳守しています」と話す。
さらに、鉄骨工事では生産性向上策の一つとして、外壁がセットバックした箇所の全面にブラケット足場を採用。これは鉄骨に大型ブラケットを地組みして建て方を行い、その上に壁工事用の足場を組むものだ。鉄骨の建て方と上部階の足場組み立てをほぼ同時に行えることで、工程を短縮でき、効率化につながっている。「超短工期の工事だからこそ、すべてにおいて半年前には日単位で計画を作成し、それに基づいて準備をする。重要なのは日々計画通りにやりきることです」と石原は厳しい条件の中でも順調に工事が進められている理由を語った。
「やりきる」を合言葉に
「発注者の期待に応えるべく、JV各社と協調し、大林組の技術力と現場力を遺憾なく発揮して復興の一助となるプロジェクトをやり遂げます」と所長の鈴木は竣工への思いを力強く語る。建物完成まであとわずか。「やりきる」を合言葉に、全員で完成に向けて確実に突き進んでいる。
(取材2019年7月)
全体事業概要
名称: |
平成30年度から平成32年度までの双葉町減容化施設(中間貯蔵施設)における廃棄物処理その1業務 |
場所: |
福島県双葉郡双葉町 |
発注: |
環境省 |
期間: |
2018年3月~2023年3月 |
中間貯蔵施設を建設し、完成後3年間それら施設の整備・運営を行う業務。建設前の事前調査・造成、処理対象物の収集・運搬および処理時に利用可能な状態で作られた再生材の有効活用なども含まれる。
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2018年9月6日
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2018年12月7日
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2019年4月10日
工事概要
名称 | 平成30年度から平成32年度までの双葉町減容化施設(中間貯蔵施設)における廃棄物処理その1業務のうち、仮設処理施設建設工事 |
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場所 | 福島県双葉郡双葉町 |
発注 | 環境省 |
設計 | 大林組 |
概要 | S造一部SRC造・RC造、6F、PH付、13棟、総延3万8,288m² |
工期 | 2018年12月~2020年2月 |
施工 | 日鉄エンジニアリング、クボタ環境サービス、大林組、東京パワーテクノロジー |